【第77話】愛を奪われた英雄④
聖国への道すがら、リオ爺のこれまでの話を走りながら聞かせて貰った。
本気のリオ爺が再起不能になるって、控えめに言ってヤバくないか?
僕達とルーナに関しては明らかに力不足なのでは?
「その、リオ爺は傷とか大丈夫なんですか?
今普通に走ってますけど……」
「骨が折れてなければ大丈夫ですよ。
折れていたとしても筋肉で補強すればいいでしょう?」
「そ、そうなんですね?」
リオ爺と僕、本当に同じ種族なのかな?
考えれば考える程不安になるな……
「ナツメさん、自分の実力に自信が無いと言う顔をしていますね。
よく考えて見てください。この面子で作戦を考えられるのはナツメ君くらいなんですよ?
わたくしもメイレールも、恐らくはルーナさんも悪く言えば脳筋なんですよ」
リオ爺とルーナは分かるとして、メイレールさんもそっち寄りだったのか。
あっ、メイレールさんが「心外だ」と言いたげな顔をしてる……
それにしても、リオ爺をも圧倒する勇者の異形か。
作戦がどうので倒せる相手なのかな?
「ナツメ君、ペースが落ちてますよ?
ペースを落としますか?」
「いえ、大丈夫です! 何のこれしき!」
少し前まで埋まってたのに、何で誰よりもハイペースで走れるんだよこの人……
こんな調子で走っては休憩を繰り返してを数日、ようやく目的地である聖国が見えてきた。
王国みたいに高い砦とかは無く、立派な教会のような建物を中心に円形に広がっていた。
王国と比べると、かなり狭い印象を受ける。
「ハァッ、ハァッ……着いた! 疲れたぁ……」
「わたしも疲れた……」
「若い人達が何を揃ってバテているんですか?
年寄り2人はピンピンしていると言うのに」
ドゴッ!!
メイレールさんのボディブローが、それはもう見事にリオ爺の鳩尾にヒットした。
これはどう見てもリオ爺が悪い。ってかメイレールさん、濃厚な殺気が漏れてるよ……
「失礼な老人は置いておいて、聖国に入りますよ?」
「え、はい!
リオ爺、後でちゃんと謝っといた方がいいですよ」
「リオ爺さんごめんね……」
膝を突くリオ爺を横目に、3人で聖国の方へ向かう。
入口付近まで来ると、より教会の大きさが目立つ。
砦の様なものは無いと思っていたが、近くまで来てようやく分かった事がある。
この国は結界やバリアのような、目には見えない透明な何かに覆われていた。
聖国への入り方を模索していると、空から声が掛けられる。
「リオテークさーん!」
逆光で影しか見えないが、背中には翼、頭部には角らしきものが見える。
その人物は真っ直ぐリオ爺の横に舞い降りた。
「お怪我は大丈夫ですか!?
最後のアモルの一撃、あれで流石にもうダメかと……」
燃えるような赤い髪と瞳に、黒い翼と2本の角。
その特徴から、リオ爺から聞いていたこの物語の『魔王』アニマさんだろう。
「わたくしはこの通り大丈夫です。
所で、勇者アモルは今何処へ?」
「はい、場所は案内します!
所で、そちらの方々は魔族? でもないようですし、子供も……」
「こちらはわたくしの援軍、と言った所です。
信頼できる者達ですので、ご安心を」
アニマさんは僕達を軽く見回し、納得したように頷く。
「私は魔王のアニマと言います。
リオテークさんから聞いているかもしれませんが、敵は勇者アモル。私の最愛の人なんです……
不躾かもしれませんが、どうかお力添えを!」
「僕達はその為に来たんです。
だから、畏まらなくてもいいですよ?
それから、僕はナツメです。こっちは──」
「ル、ルーナです!」
「メイレールと申します」
「頼もしい限りです。よろしくお願いします!
リオテークさんのお仲間という事は、皆さんも不思議な力を使うのでしょうか?」
リオ爺の不思議な力と言うと、筆を使っての戦闘とかそんな感じのニュアンスかな?
「それは、わたくしとナツメ君だけです。
後の2人は特殊な力こそありませんが、戦闘力はわたくしと同等かそれ以上です」
「リオテークさんと同等……」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえた。
リオ爺の戦闘を直で見たのなら、そうなるのも頷ける。
「それはそうとアニマさん。勇者は今どちらに?」
「っ! そうでした!
現在アモルはまた数万の魔獣を従えながら、ここ聖国へ進行しています。
魔獣集めに時間を掛けていたので、ここに着くまでの猶予は後3日程と思われます」
リオ爺の言っていた魔獣の大群か。
愛や友情で装飾されているだけで、勇者は調教師のような能力ではなく、隷属化に似た能力だったのかもしれないな。
「では少し休養にしましょうか。
わたくしも皆さんも気を張っていたでしょうから。
聖国の方々の避難はどうなのでしょう?」
「避難に関しては既に終わっています。
残っているのは結界を維持する、教会の重鎮だけです」
「そうですか、毎度ありがとうございます。
アニマさんもわたくし達と少し、息抜きをされてはいかがですかな?」
「そうします。アモルの居場所は魔物の軍勢を見ればすぐに分かるので、たまの偵察で間に合うはずですので」
こうしてほとんど誰もいない聖国に入り、休息を得た。
◆◇◆◇◆◇◆
想定より1日早い2日後の昼前に敵が来た。
聞いていた通り、数万の魔獣の軍勢を引き連れて。
「魔獣に関しては、ナツメ君とルーナさんのお2人に任せても良いですかな?
わたくしとメイレール、アニマさんは勇者の相手をしますので、魔獣の制圧後に合流してください」
「「分かりました!」」
「ではお2人共、魔獣はもうそこまで来ています。
初手から出し惜しみは無しの全力で対処してください」
全力か……いつも全力なつもりだけど、魔獣相手なら大技を最大威力で使って見てもいいよね?
それなら──。
目の前にまで迫った魔獣の軍勢。
ただ、不思議と恐怖心は無い。
何なら少し昂っているまである。
「ルーナ! 僕を魔獣の真ん中へぶん投げて!」
「分かったよ! 戦鎚に乗って!」
久々にその名前聞いたな……
何はともあれ戦鎚に先端に乗って、ルーナにぶっ飛ばしてもらう。
「行くよ! 全力全開、『黒潮』!!」
技を発動したその瞬間、山や森、平原などの人間が立てる場所は無くなった。
帝国は辛うじて結界で守られていたが、それ以外の全ては僕の描いた渦に呑まれた。
「飛んでる魔物は頼んだよルーナ!」
「任せて! せやァァ!!!」
ルーナの戦鎚が振るわれる度に、魔獣が墜落して次々と黒潮に呑まれる。
「あの子達、随分逞しくなりましたね」
「メイレールもそう思いますか?
わたくし達もうかうかしていると、直ぐに追い越されてしまいますよ」
「あの子達、すごい! まだ子供だと思ってたのに……」
戦闘開始から僅か数分、数万の魔物は殲滅した。
それが終わると、後ろから悠々と歩いて来る影が1つ。
勇者アモルの異形だ。
地面に着きそうなほど肥大した腕、虚ろな暗い瞳からは黒い涙のような跡が見える。
ここからが本番なんだ……
あのリオ爺ですら1度は敗れた異世界の異形、絶対に倒してやる!
お時間があれば、いいねや評価お願いします!
次回はいよいよ、勇者の異形との決戦!
お楽しみに!




