【第66話】初耳の真実
翌日、異形化した物語が無いと言うことで、僕とルーナは街で休日を満喫していた。
何か目的がある訳でも無く、ただ散歩するだけ。
「クーちゃんも来たがってたけど、セルビアちゃんに止められて泣く泣く来なかったね」
「セルビアがメイレールさんみたいな事してて、見てる側としては面白かったよ」
「確かに! お仕事するの〜って引き摺られてたもん」
何の危険もない場所で、楽しく駄弁りながら散歩する。
実に有意義な時間だ。
それと、散歩ついでに僕の普段着が買えると大変嬉しい。
流石にずっと燕尾服は窮屈なんだよね。
「ねぇルーナ、僕の服を見に行ってもいいかな?」
「ナツメ君、服買うの!?
わたしが選ぶ! ね、いいでしょ?」
「? 別にいいけど……」
「じゃあ決まり! お店こっちにあるから!」
手を引かれて街中を走る。
僕達を見る街の人達の暖かい目が、少し恥ずかしい。
しばらく走って到着したのは、僕とはまったく無縁そうな洋服店だった。
外観が明らかに可愛い系のお店じゃないか。
「ほら、入るよナツメ君!」
「あっ、ちょっ! 引っ張らないで……」
丸みを帯びた木製のドアを開けて中に入ると、服屋独特のいい匂いがする。
いや、これ大丈夫? 僕、場違いじゃない?
「男性用の服は店の奥だよ! は〜や〜く〜!」
「落ち着きなって……逃げないから!」
ルーナに追い付くと、既に数着の服を見繕って試着室前で待っていた。
「はい、これ着てみて! 絶対似合うから!」
「う、うん。分かった……」
ルーナの勢いに負けて、言われるがままに試着室へ。
取り敢えず、渡された服を着て鏡の前に立つ。
普段着ない服だけあって、違和感がすごい……
「ルーナ……これ、似合ってるの?」
「ふわぁぁぁ!! 良いよ、すっごく似合ってる!
次のやつも着てみて!」
似合っていると言われて悪い気はしないな。
むしろ少し、気分は乗ってくる。
次から次へと試着を繰り返し、その度にルーナが褒めてくれた。
「いや〜、結構着たね。
ナツメ君はどれが良かった?」
「どれも普段着ないから新鮮で良かったけど、ルーナはどれが良かったと思う?」
「私はね、そうだなぁ……これ!
これが1番かっこいいって思った!」
「じゃあ決まりだ。これにしよう!」
ルーナが選んだのは、細いシルエットの黒いズボンと、少しダボついた襟付きの白いTシャツ。
なかなかいい感じ……なのかな?
ようやく僕の服を選ぶことが出来た。
ってなると次は……
「ルーナのだね」
「わたしのも? いいよ、選んで!」
さてどうしたものか。
自分から言い出したのはいいが、オシャレとかは全くもって分からない。
店内を少し見回ると、1着の服に目が留まる。
何も考えずその服を手に取り、試着室で待機するルーナに渡した。
「あれ? これだけでいいの?」
「うん。絶対に似合うと思う」
「そ、そう? ちょっと待っててね!」
カーテンを閉め、中でルーナが着替えを始める。
…………気まずい。
時折店員さんと目が合って、えへへと会釈とかしながらこの時間を乗り切る。
しばらくすると、シャッとカーテンが開く。
「ど、どうかな?
あんまりこういうのは着ないんだけど……」
「いいよ……すっごく良い!
何て言うか、いつにも増して綺麗!!」
「んなっ!? ああ、あ、ありがとう……
わたしはこの服にする」
僕が選んだ紺色の飾り気が少ないワンピースに身を包んだルーナが、照れながら感謝してくれた。
服の色が濃いからか、ルーナの薄紫の髪が映える。
もしかすると僕、センスあるかも?
僕とルーナはお互いの図書館員である証拠のバッジを店員さんに見せて、服を購入する。
店員さんは服を紙袋に入れて、お店の前まで持って出送ってくれるようだ。
「いやぁ、良いものを見せて貰いました!
またのご来店をお待ちしてます!」
「? ありがとうございました!」
新しい服を持って街中を歩いていると、平日にしては珍しい人物と遭遇した。
両手いっぱいに荷物を抱えた、神域の図書館副館長のアルバさんだ。
「アルバさ〜ん! こんな街中でどうしたんですか?」
「おや、そういえば2人は休みだったね?
僕は近々開催される会議用の食料の買い出しだよ」
「会議……ってリオ爺が言ってた、神様が集まるっていうやつですか?」
「おや? よく知ってるね。その通り、色んな世界から神がここに集まるんだ。
場所は秘密なんだけど、君の運がすこぶる悪ければ、会えるかもしれないね」
リオ爺もそんな事言ってたな……
神様ってそんなに厄介な集団なのかな?
オラシアさんだっていい神だしね。
「ナツメ君にルーナちゃん、良ければなんだけどさ、荷物を一緒に持ってくれないかい?
僕一人で持てるキャパシティを超えてるんだ……」
「あ、ごめんなさい! 持ちます待ちます!」
「わたしも!」
「ふぅぅ、ありがとう。かなり助かるよ」
3人で荷物を分けたが、それでもかなりの量だ。
今までよく持てたなこの荷物。
中は……言ってた通り大量の食料だ。
そういえば、神域の食料って何処で作ってるんだろう?
田畑がある訳では無いし、動物をほとんど見ないんだよな。
「アルバさん、ここの食料ってどこ産なんですか?」
「あぁ、気になるよね……
ナツメ君はさ、下の世界に居た時にオカルト的なのとか信じる人だった?」
「いえ、特には。夢があっていいなとは思いますけど」
「そうかそうか。それならいいか。
キャトルミューティレーションって聞いた事はない?」
「宇宙人が家畜とかを攫ってどうのってやつですよね?
え、まさか?」
「そ、そのまさかなんだよね。
1部の農家さんは契約して提供してくれたりするんだけど、それでも足りない場合は仕方なくね」
昔、病院の怪奇現象の特集をテレビで見た時に、そんなのが放送されてるのを見た事がある。
ここの人達の仕業だったのか。
「そこで、1度家畜を貰った所は、ここからはしばらく取っちゃダメだよって示すために、円形の後を残すんだ」
「ミステリーサークル!!」
「そうそう! 後はそうだな……ナツメ君は飲まないから分からないかもしれないけど、お酒って地上では製造途中で減ると思われてるんだよね。
『天使の取り分』なんて呼んでる人もいるんだ。
まぁ実際の所、全国のお酒の製造所から僕達が少しずつ頂いてる訳なんだけど」
そうだったのか!
案外僕の知ってるような超常現象も、ここの人達が起こした何かなのかもしれないな。
この世の真理を少し知ってしまった気分だ。
それでも、先輩やルーナと行ったあのお店の料理は何の肉なんだろう?
あんな大きな生き物いないしな。
「あの、アルバさん。僕達が前に行った食堂で食べた料理って、絶対に地球にいない生物の肉だったんですけど、アレは何なんですか?」
「たぶん、それは他世界の生物の肉だね。
他世界からも物資を売り買いしてるから、それらを提供してる店もあるんだよ」
「なるほど……」
色々勉強になったな。
ルーナも「ほぇ〜」と言いながらで話を聞いていたし、初耳だったのだろう。
本当はもっと色々聞きたかったが、図書館内の家に着いてしまった。
「2人とも改めてありがとう! 助かったよ!
荷物はキッチンの前に置いておいて。
後は僕が整理するから」
『はーい』
言われた通り荷物を置いて、僕達は自分達の荷物を部屋に持ち帰った。
ルーナに選んで貰った服を手に取り、嬉しさが込み上げてくる。
改めて姿見の前で試着して、ポーズとか取ってみる。
何となくルーナにも見せたくて部屋を出るとほぼ同時に、ルーナの部屋の扉も開く。
部屋を出てきたルーナは僕が選んだ服を着ている。
どうやら、全く同じ事を考えていたみたいだ。
この後、今日の事を聞いた先輩は今までにない程拗ねて、宥めるのが大変だったのは言うまでもない……
【花の異形との戦闘中】
ナツメとルーナが戦っていた裏での出来事。
「クークラお姉ちゃん、あたしも何かできないの?」
「……セルビアが……物語にいた時……どんなだった?」
「どんな、うーん……燃えてた?」
「……燃えてた……じゃあ…火とか…出せる……たぶん」
「ホント!? どうやるの?」
「……付けてる腕輪に……意識を…集中する」
「集中? う、うーん……こう?」
「……ん……手とか体に…もわもわがあるの…分かる?」
「うん、ちょっとくすぐったい……」
「……クークラはそれを……全身に回すと……いっぱい動ける……セルビアは……発射するイメージ…してみて?」
「発射……うーん、えぇ? こう? 違う……これ?
むむむむぅ……こう! あっ! 少し出た!」
手の平からマッチほどの小さな焔が灯る。
「……ん……それをもっと…大きくする…イメージ」
「うん! ありがとう、クークラお姉ちゃん!」
セルビアは手を前にかざし、叫んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 離れて!」




