【第62話】4冊の本
祝宴翌日の早朝、今にも死にそうな顔をした数人を横目に、いつも通りルーナと駄弁りながら禁書庫へ向かう。
「お酒ってさ、体に良くは無さそうだよね……
飲んでる時は笑ってるのに、翌日はほとんど皆体調悪そうだし」
「だね、将来わたし達が飲む時には気を付けなきゃ」
体には悪いらしいけど、皆美味しそうに飲む。
いつか、ルーナと一緒に飲めたらいいな。
その時は是非とも、図書館の全員と飲みたいものだ。
おっと、もう禁書庫に着いてしまった。
重厚な扉を押し開けて中へ入る。
「お2人共、おはようございます。
今朝は随分と到着が早いですね。
準備が終わるまで待って貰えますかな?」
「おはようございます。
何の準備をしてるんですか?」
「昨日お話した他世界の物語なのですが、禁書庫の隠し部屋にあるのでね、扉の前を片付けていたんですよ」
隠し部屋とかあったんだ……
まぁ、この部屋は基本的には危ないから、あちこち探検も出来ないし、まだまだ秘密はあるのかもしれない。
「折角の機会ですし、お2人にも見てもらいましょう。
他世界の物語が如何なるものかを──」
そうだ、リオ爺は今日からその他世界の物語に入るんだよな……確か、勇者の恋路って物語に。
そして万が一の時は、僕達が対応しなければならない。
「何か手伝えますか?」
「ありがとうございます。では扉を開けますので、お2人はわたくしが指示した本の背表紙を手前に傾けて貰えますか?」
「「はーい!」」
禁書庫の奥にある、他よりも少し大きな本棚。
リオ爺に指定された3冊の本を手前に──。
「え? 重っも……」
「ここ数年開けて無いのでね、頑張ってください」
僕の全体重をかけて本の背表紙を引っ張る。
すると、ゴトン……と重い音と共に本が傾いた。
ようやく傾いたと安心して手を離すと、すぐに元の状態に戻ってしまう。
「ナツメ君、わたくしが扉を動かすまでの間、全力で倒し続けてくださいね?
ほら、ルーナさんを見習って」
ルーナに目をやると、涼し気な顔で両手で1冊ずつ傾けているではないか。
試しにルーナが傾けている本と交代してみたが、やはり全力で引っ張らないと傾かない。
仕方がないので、元の位置で背表紙を全力で傾ける。
指示された3冊の背表紙を傾けると、リオ爺はその本棚をそのまま横にずらした。
棚が横にずれると、傾けた本が元の位置に戻る事は無かった。
本棚の後ろには、僕の部屋くらいの空間が見える。
「うわ、入口狭いな……」
「贅沢は言うものではありませんよ。
ナツメ君ですら狭いのです。わたくしは毎度、物理的な不可能を可能にせねばならないのですから」
うわぁ、肋骨どうなってるんだろう?
無理やり息を吐き出して胸板を抑えてる感じかな。
もっと入口を広くすればいいのに……
「何回やっても慣れませんね。
服も埃で汚れてしまいますし……」
「なんでこんなに入り辛くしたんですか?」
「逆ですよナツメ君。出辛くしているのです。
ここの異形が外に出て来よう物なら、世界の崩壊は秒読みだと心得てください」
「分かりました……「ナツメくーん!」」
重い雰囲気をルーナの声が遮る。
振り返ると、翼が邪魔をして入口の途中で引っ掛かっているではないか。
パタパタともがきながら「助けて〜」とか言っている。
自力ではどうしようも無いみたいだ。
僕が勢い良くルーナを引っ張ると、ポーンと壁から抜けて倒れ込む。
「ルーナさん、お怪我は無いですかな?」
「だ、大丈夫です! おお、ここが隠し部屋かぁ……」
僕も改めて見回してみる。
何も無い簡素な部屋に、高さが僕の肩程の台が4つ。
それぞれの台には1冊ずつ本が飾られていた。
どれも分厚く、重厚感のある本だ。
「これが、他世界の本……」
「何か普通の本より大っきいね?」
「それはそうでしょう。
わたくし達が知るような、主人公の数日間を切り抜いただけの物語とは訳が違います。
この本には勇者の生涯、その全てが書き記されているのですから」
リオ爺はその内の1冊を手に取り、僕達に見せてくれた。
深い紺色の表紙で、タイトルは『勇者の恋路』。
今日からリオ爺が入る物語だ……
「これが、今日からわたくしが入る他世界の物語で『勇者の恋路』と言います。
そちらの赤い本は『能無し勇者の物語』で、横の薄緑の本が『優しい龍のお話』という本ですね」
他の2つの物語は初めて聞いたけど、龍が存在する世界もあるのか。
能無し勇者の方は、闇が深そうだ。
でも、まだもう1冊あるんだよな……
それも4冊の中で1番目立っていた。
鎖で何重にも雁字搦めにされた、真っ白な本。
「リオ爺、これは?」
「これですか。これはね、言うなれば牢獄です。
囚われている者はたった1人なのですがね……」
牢獄……これはまた重い単語が出てきたな。
しかも1人に対してこれだけ厳重に封じられている。
「中には、誰が居るんですか?」
「知りたいですか?」
無言で頷いて肯定する。
少し怖いけど、知っておきたい。
知っておかなければ駄目だと思った。
「ここに入れられているのはね、ナツメ君。
貴方の前任者だった者なんですよ……」
僕の前任者……って事は、図書館長の見習いが僕の前にも居たって事だよね?
僕の前任者、一体何を仕出かしたんだろうか……
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私事ですが、ようやくずっと書きたかったシーンが書けそうでウズウズしております!
次回をお楽しみに!




