【第53話】末妹に捧ぐ慟哭①
今日からは通常通りに異形を倒すため、禁書庫に集まっている。
「ナツメ君にルーナさん、おはようございます」
「「おはようございま〜す」」
今リオ爺が手に持っている本が、今日僕達が入る予定の物語なのかな?
チラッとタイトルが見えたが成程、『人魚姫』か。
完全にバッドエンドな物語だ……
「今回、お2人に任せる物語はこちらです。
知っての通り、この物語はハッピーエンドの物語ではありません。
切なく美しい愛のお話ですが、それと同時に憎悪や嫉妬なども多いと考えてください」
全くもってその通りだ。
今まで以上の異形が出てくるのかな……
「それと、今回はわたくしも同伴します。
と言っても誰の異形かの確認の為ですがね。
ただ、初めてのバッドエンドの物語だと思うので、わたくしは飽くまで保険という形ですね」
「心強いです。
いざと言う時はお願いします」
『人魚姫』の異形か……
1番濃厚なのはやっぱり失恋した人魚かな。
鱗とか硬そうだな……
「ナツメ君、早くしないと置いてくよ?」
「あっ、待って待って!」
「心の準備はできましたかな? では、参りましょう」
3人で本に手を置き、いつものように唱える。
『我が願いに応じ見せよ…物語のその先を…結末の向こう側を』
『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』
『我は守護する者、扉よ開けこの命朽ち果てるまで』
いつも通り、淡く光る魔法陣へ歩を進める。
これより先は『人魚姫』の世界だ。
魔法陣を抜けると、強い日差しに思わず怯んでしまう。
目が光に慣れてくると、目の前に広がるのは鮮やかな港町だった。
深呼吸をすると独特な匂いがする。これが海の香りと言うやつなのだろうか?
とても爽やかな気分になる。
「すごい! 海! わたし初めて見た!!」
「そうだね! 僕も初めてだよ!」
「実に気持ちいいですね。
贅沢を言えば、このまま帰りたいです」
うん、それは間違いない。
僕も許されるなら港町を散策だけして、穏やかな気持ちのまま帰りたいよ……
まぁそんな事も言ってられないので、大人しく調査を始めるとしよう。
「それにしても、静かな町ですね……」
「静かって言うより、人が居なくない?」
「これは、かなり面倒なパターンかもしれませんな」
という事は普段は人が居るという事か。
そうであれば、間違い無く異形の影響だよな。
「わたくしの予想が正しければ……
少し見ていてください」
リオ爺は筆で長身の弓矢を描き持ち、番える。
キリキリと弦を引き絞り、町の教会らしき建物の鐘を目掛けて矢を放った。
ヒュッ…………ゴォォン
風を切って矢が鐘に当たると、遮る物がほとんど無い町に鐘の音が鳴り響く。
聞こえてくる鐘の音は何処か寂しさも感じる。
しばらくすると──。
ゴゥッ……ドグアァァァン!!!
何かが教会を破壊した。
ゴゥン、ゴゥンと音を立てながら鐘が崩れ落ちる。
「今のは!?」
「シッ……お静かに。
決して大きな音を立てないでください、ああなります」
指さした方向には倒壊した教会の残骸。
砂煙が晴れた今なら見える。
教会を崩壊させたのは、瓦礫の真ん中に刺さっている三叉槍だった。
「やはり、三叉槍。トライデントとも言われますね。
この物語で、あの武器を扱えそうな人物は分かりますかな?」
そんな人居たっけ?
人間の足と引き換えに人魚姫の声を奪った魔女か?
「もしかして、お父さん?」
「ルーナさん、正解です。
人魚姫ですからね。父は当然、王な訳です。
色々な説がありますが、人魚の王国の王はトリトンだと言う説もあります。
そのトリトンが持つ武器が三叉槍なんですよ」
「トリトンって神様的なやつですよね?」
「ええ、神としての性質を強く持つ異形であれば、かなり厄介です。
お2人共、気を引き締め直してください。今回はわたくしも手伝いましょう」
リオ爺が協力をしてくれるらしい。
とても頼もしいが、逆に言えば僕達だけではどうにもならないと言う事だ。
リオ爺の言う通り、気を引き締めないと……
「その、相手がそのトリトンだった場合、海での闘いになるんですか?」
「無論、そうなります。
ただ、海中戦はわたくしとて不可能ですので、海上に誘き出さねばなりません」
今回も一筋縄じゃ行けなそうだな……
海上での戦闘か、足場用に最低2つ必要として、今の僕の実力で手に持てる武器は2つ程度だ。
ルーナは飛べるとは言え、そんなにスピードが出ない。
いや、ルーナ事だから普通に海面とか走り出しそう。
「どうかしたの、ナツメ君?」
「い、いや! なんでもない……」
危ない、失礼な事を考えてるのがバレる所だった。
でもまぁ、覚悟は決まった。今までと一緒だ。
危険なのは別に今回だけじゃない。
今までだって充分危険だったんだ。
「神殺しだってなんだってやってみせる」
「オラシアには聞かせられん台詞ですな……」
まぁ、あの人は女神っぽくないしセーフでしょ?
何はともあれ、過酷な神殺しの始まりだ。
読んでいただき、ありがとうございます!
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異形の全貌が明らかに!? 次回をお楽しみに!!




