【第49話】燃ゆる迷宮の主②
助けるという判断をしたものの、どうすればいいのかは全く分からない。
目の前で泣いている子に説明して、1度戻るか……
「あの、少しお話してもいいですか?
危害は加えないから……ね?」
『ヤダ、ダメ……来ないで!!』
少女の拒絶に呼応するように、周囲の建物の炎が僕に襲いかかった。
後ろに飛んで上手く回避出来たが、直撃していたら黒焦げだっだろう。
『あぁっ……ごめんなさい……ごめんなさい……』
「気にしなくていいよ。
ほら、落ち着いて。怖がらないで。
……お話出来そう?」
『……はい。その、さっきはごめんなさい……』
オロオロとしつつも頭を下げて謝ってくれた。
頭を下げた拍子に、長い金髪から灰が舞う。
本当に気にしなくていいんだけどね。
「僕達はね、君を助ける為にここに来たんだ。
たぶん、マッチを売っている女の子だよね?」
『そ、そうです。いつもここで売っていました……』
「分かった。それと、この街の炎は君が?」
『はい、たぶん……でも、分からなくて……』
『たぶん』という事は、自分がこの災害の中心に居る事を理解できていないのだろう。
「街の人はどこに行ったか分かる?」
この質問には頭をふるふると横に振って否定した。
『気が付いた時には1人で……
そもそも、死んだと思っていたのに……』
死んだと思っていた、か……
もしかすると実際に死んだ後に、何らかの要因で異形化したのかもしれない。
取り敢えず、こちらが準備を終えるまでは待っていてもらうしかないな。
その間に本格的に異形化する可能性もある。
それでも僕はリスクを負ってでもこの子を助けたい。
最悪の事態になれば聖天騎士を頼る。
「僕達は1度この街から出て、またここに戻って来る。
それまでこの場所で、待っていてくれるかな?
何としても君をここから救い出したい」
『分かりました……
その、後から色々聞いてもいいですか?』
「もちろん構わないし、僕達もそのつもりだよ!
だから、もうしばらくの間、ここで待っててね?」
そう言うと、少しだけ微笑んで頷いてくれた。
さて、今から帰還する訳だが、本人の前で帰還すると異形になった時に、すぐに本の外に出てしまうかもしれない。
その可能性を減らすために少し離れた場所で帰還しよう。
「ルーナ、帰って報告するよ!」
「うん! 絶対助けようね!
わたしもあの子とお友達になりたいもん!」
マッチ売りの少女からは死角になる場所にて、帰還の合言葉を唱える。
『そして物語は幕を閉じる』
魔法陣を通り禁書庫に戻ると、机の上からハムレットの本が片付けられている。
どうやら無事……かどうかはまだ分からないけど、帰って来てはいるらしい。
「ルーナ、オラシアさんの所まで急ごう!」
「流石に昨日の今日でサボってる訳ないと信じて、執務室に行ってみる?」
「確かに。これでサボってたらもう逆に凄いよ……」
昨日あれだけこってり絞られているんだ。流石に今日は真面目に仕事をしているだろう。
そんな訳でオラシアさんの執務室に到着した。
扉を数回ノックすると、中からオラシアさんの返事が聞こえて来たので安心だ。
「失礼しま……えぇ……」
「…? どうしたのナツメ君? あっ」
僕とルーナは一瞬、頭がショートする。
眼前で広がる光景はしばらく脳裏に焼き付くだろう。
頭にたんこぶをこさえたオラシアさんが、腰を縄で繋がれて半べそで仕事をしていた。
これを見るだけで何があったかは想像できる。
サボる、捕まる、絞られる、縛られるだ。
「あの、お楽しみの所すみません……
相談してもいいですか?」
「私がノリノリでこんな事をしている、みたいな言い方は止めてください。
昨日の今日で仕事をバックレようとしていたので、仕方なくこうしたまでです」
メイレールさんに心外だと抗議されたが、どう見ても楽しそうなんだよ。
最近気付いた事だが、メイレールさん楽しい気分の時は体が少しだけ左右に揺れている。
ただ、そんな事は関係ない。
「今入っている『マッチ売りの少女』なんですけど、異形としての能力はあるけど理性がちゃんとあるみたいで、どうにかできないかな……と思いまして」
「なるほど、クークラのような異形という事ですね?
であれば、駄女神の出番というのも頷けます」
「ひっ!? 睨まないでメルちゃん! 分かってるから!
それでは早速行きましょうか? れっつごー!」
そんなこんなで、4人で禁書庫に戻ってきた。
「それでは、本に入る前に少し裏技を使いましょうか」
「「裏技?」」
僕とルーナは同時に首を傾げる。
メイレールさんは「まぁ見ていてください」と本棚から見覚えのある本を取り出した。
僕達が訓練する時に使っている白い本だ。
「これを……こうして……」
マッチ売りの少女と白い本のページを1枚ずつ、互い違いになるように重ねていく。
「本好きとしては禁忌とされる事ですが、今は致し方ありません」
「これで、どうなるんですか?」
「見たまんまですよ。時間が引き伸ばされます。
時間がかかるかもしれませんからね。
後は作業が終わり次第、オラシア様にはきちっと仕事をしてもらわねばなりませんので」
残酷なまでに合理的だった……
「それでは向かいますよ?
メインの作業はオラシア様が行うので、私はおまけみたいな物ですが」
いよいよマッチ売りの少女救出作戦が始動した。
絶対に救ってみせる……
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