【第47話】燃え盛る街
昼食を食べた後はレヴィアさんとは別れ、図書館に戻っていた。
今日の鬼の異形との事をオラシアさんに報告する為だ。
「オラシアさん、どこにいるかな……」
「執務室じゃないの?」
「……そうだったら……簡単…あの人は…サボるから……」
先輩から見てもよくサボっているんだもの、そう簡単には見つからないんだよな……
僕の経験上オラシアさんが執務室にいたのをほとんど見たことがない。
「どうでもいい時にはよく見かるんだけど、肝心な時には見つからないだよな……」
「あの人って神出鬼没だしね……文字通り神様だし」
「……オラシア様を探すのは…間違い……探すなら…メイレール」
そうか、サボり魔を探すよりサボり魔の管理者を探す方が建設的だ。
取り敢えず大声で呼んでみるとしよう。
「メイレールさ〜ん! いませんか〜?」
「あの人はあの人で、何処にいるか分からないよね……」
「……2人とも…分かってない。
……メイレールには……攻略方がある」
そう言うと先輩はスゥーっと息を吸い込み。
いつもより少し大きな声で──。
「……オラシア…みーつけた!」
すると、どこからともなく風を切るような音が聞こえる。
そして、10秒もせぬ間に風切り音の主が現れた。
「どこですか駄女神は!?」
額に青筋を立てたメイレールさんだ。
うわぁ、出来ることなら関わりたくない!
しかし呼び出した手前、そういう訳にはいかない。
「えっと、ごめんなさい!
僕達もオラシアさんを探していて、メイレールさんなら知ってるかと思ってあんな嘘を!」
「あぁ、そういう……
私としては構いませんよ。駄女神が居なかったのは残念ですが、これで協力者が増えましたから。
見つけたら頭にアイアンクローでもお見舞いしてあげてください」
「……クークラに……任せろ」
先輩が手をわしわしとさせ、何かを握り潰すようなジェスチャーをして見せる。
それにしても厳しい部下だよなぁ、いやどちらかと言えば上司がダメダメなのか? もしくは、両方か。
「ちなみに、要件はなんだったのでしょうか?
業務外の事であれば……」
「いえ! 今日倒した異形について、少し報告しておいた方がいいかと思いまして。
リオ爺はまだ本の中ですし、それで……」
「分かりました。
それでは見つけ次第、先程のように声を上げていただければ駆けつけますので、どうかよろしくお願いします」
メイレールさんは飛んで図書館の上の方へ。
僕達は3人でサボれそうなポイントをしらみ潰しに回ることにした。
捜索は困難を極めると思われたが、尋ね人は思いの外早く見つかった。
何故か家のリビングにあるテーブルの下で、気持ちよさそうに昼寝をしていたのだ。
「お願いですからメルちゃんは呼ばないでぇ……」
「……呼ぶのは…確定……後は……(くいっくいっ)」
「ん? しゃがむの? 何かしら……ふみゅ!?
あの、クーちゃん? 痛いなぁって……えっ待って!
痛たたた! 痛い痛い! 助けてメルちゃ〜ん!!」
先輩のアイアンクローに耐えかね、自ら怒れる獅子を呼んでしまった。
そして、呼ばれたら来る……
「皆さん、ご協力感謝します。
ここからは私が引き継ぎましょう」
「メルちゃん助けてぇ……え? あれ、メルちゃん?」
メイレールさんは僕達にペコッと頭を下げると、こちらに背を向けオラシアさんに向き直る。
こちらからは表情が見えないが、オラシアさんの血の気が引いている事から、鬼のような形相をしているのが見て取れる。
メイレールさんはオラシアさんの頭に手を伸ばし──。
「にぎゃぁ!! 痛い痛い! メルちゃん!
もうサボらないから! ほら! 反省してる!
とっても反省してる! 反省してるから降ろして!!」
メイレールさんは何も言わず、ただただ喚くオラシアさんを眺めていた。
片手でオラシアさんの頭を鷲掴み、地面から浮かせてプラプラと揺すっている。
「ナツメ君助けてください……」
うわぁ、どうしよう……
僕に助けを求められてもなぁ……
でも、さっさと報告しときたいし、助けるか。
「その、メイレールさん? 今回は僕達も報告したい事がありますので、お仕置きはほどほどに……」
「…………一理ありますね。
では、報告を優先させましょう。
私だけ楽しんでしまい、申し訳ありません……」
少し悩んだ後、無事にオラシアさんを離してくれた。
手をパッと離して開放されたので、オラシアさんは尻餅をついておしりをさすっている。
この人がホントに女神なのか、たまに疑いたくなる。
「じゃあ、報告します!」
『桃太郎』の物語で起きた事の詳細を説明する。
特に1度倒した異形が再び異形化した事については、しっかりと説明した。
「分かりました。報告ありがとうナツメ君。
前回のリオテークの報告といい、何事も無いといいのですが……」
「それに関しては私も懸念しています。
ただ、今の所は経過観察するしかありませんね。
ナツメさんにルーナさん、今後も似たような事があるかもしれません。
いつも以上に気を付けて職務に励んでください」
報告を終えた僕達は各自の部屋に戻り、その後は何事もなく今日を終えた。
結局この日、リオ爺の姿を見ることは無かった。
苦戦…しているのだろうか?
翌日、次の異形の為に僕とルーナは禁書庫へやってきた。
いつもならリオ爺が次の物語の本を持ってきてくれるが、今回は前日にメイレールさんに入るように言われた本を持ってきた。
「ねぇナツメ君、『マッチ売りの少女』って異形が出るようなお話だったっけ?」
「うーん、少女本人は幸せに包まれて死んでるし、見方によっては何かしらの未練があるかも?」
僕も正直、どんな異形が出るのか分からない。
登場人物なんて1人だけだし……
「取り敢えず、入ってみるか。
あっ、ハムレット……」
「まだ、中にいるんだね……」
魔法陣の壁前の机にはハムレットの本が置いてある。
その横に並ぶように『マッチ売りの少女』の本を置く。
「じゃあ、行くよ」
「うん」
『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』
『我は守護する者、扉よ開けこの命朽ち果てるまで』
合言葉を唱え、光る魔法陣を抜ける。
「寒っっっむ!?!?」
「ナツメ君、あれ……」
寒さと吹雪に気を取られて、景色を見ていなかった。
僕の目に映ったのは小さな街。
この吹雪の中、火の海に呑まれた赤い街だった。
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