【第31話】槌振るう怒れる者
ルーナとロイドが互いに武器を構え、牽制し合う。
こんなルーナは見た事も無いが、ブチ切れている事だけは確かだ……
そんな張り詰めた空気の中、レヴィアさんがロイドの後ろから声をかける。
「ロイド、訂正なさい!
先程の発言は騎士として有るまじき発言でしてよ!
確かに私達ではなくDクラスの方が選ばれたのは、多少悔しいとは思いますわ……
ですがそれは、ご家族を愚弄していい理由には一切なり得ませんわ!」
これは……レヴィアさんはもしかすると、比較的まともな人なんじゃないだろうか?
だが、彼女の言葉はロイドには届かなかったようで……
「可笑しい事を言うね……僕の何が間違っているんだ?
戦闘能力が著しく低いDクラスに何を言おうが僕達はAクラスだから許されると思わないのかい?
僕は自分の発言を訂正しない……この決闘で勝つ僕達が正しいのさ!」
めちゃくちゃな言い分だ……
レヴィアさんは悔しそうな表情を浮かべて引き下がる。
ルーナは堪忍袋の緒が切れてるし、僕はレヴィアさんの相手をしつつ話を聞いてみよう。
「ルーナ! アレは任せるから、こっちは任せておいて!」
「ありがとう!
ナツメ君、一応わたしからは少し離れてて。
この赤いビリビリとか、よく分からないから……」
「分かった。気を付けてね!」
こうしてルーナ対ロイド、僕対レヴィアさんという形が出来上がった。
僕は取り敢えず、レヴィアさんの方へ駆けた。
レヴィアさんも槍を構え、僕を迎え撃つ。
僕とレヴィアさんの間で激しい鍔迫り合いが起こる。
お互いの声が届く距離になったので、手合わせしながら聞いてみる。
「良かったら聞かせてくれませんか?
どうしてそんなに辛そうにしているのか」
「……っ!
分かり…ましたわ……」
1度鍔迫り合いを切り上げ、お互いに距離を取る。
そしてもう一度、話し声が聞こえる位置まで進む。
一応、周りからは闘っている風に見えるように、武器を交えながら。
「それじゃ、色々と教えて貰ってもいいですか?」
「最初こそ決闘に乗り気でしたが、今は違いますわ……
アタクシは……ひぁ!!?」
「うぉっ!?」
ビシビシッ……ガラガラガラッ!!
続きの言葉を紡ごうとした瞬間だった。
大地震……いや、もはやそれ以上の衝撃が足元に走る。
さっきまで僕が立っていた場所は、既に崩壊して原型を留めていない。
震源の正体は……まぁ、ルーナしかいなかった。
大きな正方形の舞台が、彼女を中心に蜘蛛の巣状に崩壊している。
ロイドは……残念ながら避けたのだろう。
全力で振り下ろされたであろう戦鎚の下には、崩れた舞台の瓦礫があるだけだった。
依然、ルーナが纏う赤い雷は健在だ。
回避に成功したはずのロイドの顔には、かなりの焦りが見て取れる。
あの威力を目の当たりにしたんだ、無理もない。
「そんな大振りでは、僕に当たりませんよ!
ほら、貴女も飛んだら追いつくんじゃないですか?」
「…………」
ルーナはロイドの執拗な煽りに耳を傾けず、目だけでアレの行動を静かに追っている。
そして、背後から度々襲いかかるロイドを戦鎚を振って避けさせる。
「さっきからずっと防戦で何がしたいんだい?
それとも、それが君の言う『お姉ちゃん』に教えてもらった戦い方なのかい?
だとしたら君のお姉さんも君同様、聖天騎士隊のお荷物だったんだろうね!!」
ロイドはまたもやルーナの逆鱗に触れる。
ルーナを纏う赤い雷がより一層、猛々しさを増す。
今にも爆発しそうだ……
「……ちゃんを…………るな……」
「聞こえないよ!
ハッキリものを言ったらどうだ!?」
「お姉ちゃんを……馬鹿にするなぁ!!!」
感情を爆発させた怒号が会場に響き渡る。
それと同時に、ルーナの堪忍袋は破裂した。
ルーナは翼に魔力を込めると、僕の頭より少し高い位置に自分自身を固定する。
ブォォン…ブォン…ブォン……
彼女は無言で、縦横無尽に戦鎚を振り回す。
その速度は振るう度に速度を上げ続ける。
フォン! フォン! フォン! フォン!
そしてとうとう──。
バァァアアン!!!
「うおぁっ!?」
凄まじい衝撃波が僕の所まで届く。
手に持った剣を地面に突き刺して、何とか難を逃れた。
ルーナの戦鎚は音の速度に追い付いたのだ。
衝撃波で弾かれたルーナは体を翻して、もう一度戦鎚を振るう。
そうしてまた衝撃波を起こしては体を翻し、何度も何度も際限無く……
連続した衝撃波の轟音はさながら雷鳴だ。
「聖天騎士総員! 観客を守れ!
決闘は一時中断とする! 持ち場に付け!」
『はっ!!』
決闘を仕切っていたモネさんの指示で、待機していた数十人の騎士隊が観客の前に盾を構える。
僕も流石に近付けなかったし、今は観客席の近くで衝撃波で飛んでくる瓦礫を急遽描いた盾で防いでいる。
空に飛んで逃げ惑う観客もいれば、ルーナの圧倒的な力に興奮している観客もいた。
そんな観客の中から、誰かの会話が耳に入ってくる。
「怒って、あんな重そうな武器振り回してこの威力だろ?
ありゃ2つ名待った無しじゃねぇか?
あの子なら俺は納得だよ」
「かもな……怒りに任せて戦鎚を振るう、か……
そうだ! 『怒槌』……なんてのはどうだ?」
「ハハッ! 良いな! 今のあの子にピッタリだ!」
もしかすると、2つ名ってこんなに風に決まるのかな?
それにしても『怒槌』かぁ……
僕はイケてると思うけど、ルーナはどう思うかな。
そんな事を考えている内に、さっきの会話の内容がどんどん他の観客にも伝染して行く。
「『怒槌』だってさ! いいじゃん!」
「女の子にそれはどうかと思うけどね……」
「『怒槌』とは言い得て妙だな」
『怒槌か……』
『怒槌ねぇ』
『怒槌だな!』
ルーナに2つ名が与えられる事になれば、それはもう確実に『怒槌』になってしまいそうな勢いである。
決闘はモネさんの判断で一時的に中断になったが、ルーナを止めるのは僕じゃないといけない流れなのかな……
そういえばルーナの相手であるロイドが見当たらない。
辺りを見回すと……うわ、居た。
最初の衝撃波を正面から受けてしまったのか、生きてはいるが虫の息と言った感じだ。
さて、今現在も衝撃波を撒き散らしているルーナをどうやって止めようか。
諦め半分だが、筆を握る手に無意識に力が入る……
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