【第26話】それぞれの強さ
誤字脱字報告ありがとうございました!
読者様のためになるべく読みやすく、これからも精進致します!
では、本編へどうぞ!
僕は目の前でただならぬ殺気をぶつけてくるメイレールさんに1歩、また1歩と歩みを進めている。
自分の強さ、ましてや美学なんて分からない。
でも、歩を進めるしかない。
「難しく考える必要はありません。
強さとはいうなれば長所、美学とは譲れない物。
ナツメさんはどうですか?」
「…………」
長所と譲れない物。
自分の長所か……
そう言われても、パッと出てくる物ではない。
考えたくても、この恐怖の中では思考がままならない。
「参考になるかは分かりませんが、私の場合ですと『強さ』とは追求心、『美学』はいくつかありますが、強いて言えば手を抜かない事です」
メイレールさんはその場から動く事無く、強い殺気を放ったまま語る。
「ナツメさんはこの先、多くの異形達と死闘を繰り広げる事になるでしょう。
その時、貴方はどうやって死線を突破しますか?
圧倒的な力? それとも音を置き去りにする程の速さ?
はたまた全てを受け流す程の技術ですか?」
どれも自分には無い。
だったら僕はどう戦うのか……
僕が持っている物はこの羽根ペン1本。
武器はいくらでも描く事はできるが、達人のように扱える訳では無い。
だったら僕の強さは──。
「僕の、強さは……『想像力』……
どんな状況でも作戦を考えて、誰も思いつかない方法で乗り切って見せます!」
「よく出来ました。
では次に『美学』を教えてください」
「……っ!」
心做しかまた殺気の圧が強くなった気がした。
それでも着々と歩を進める。
しかし、目の前まで来ると、呼吸すらままならない。
あまりの苦しさに思わず膝を付いてしまう。
「どうしました?
それとも、ここまでにしますか?」
「ハァハァ、まだ……続けます……」
「しかし、そんな状態で何が出来ますか?」
確かに何もできそうにない状態ではある。
少しでも気を抜いたら意識を失うかもしれない。
僕は羽根ペンにインクを付け、簡単な杖を描きあげる。
杖を頼りに何とか立ち上がり、また1歩。
そうだ、これでいいんだ。
これを僕の美学にすればいい!
「どんな苦境でも、どんなに醜くても……抗った末に僕が立っていればそれでいい。
僕の美学は、『諦めない事』!」
最後の力を振り絞り、今までで1番大きな1歩を踏み出す。
振りかぶった僕の拳は半ば倒れ込むような形で、メイレールさんの腰辺りに当たった。
その瞬間、今までの殺気が嘘のように霧散する。
急な緊張感からの解放に、全身の力が一気に抜けた。
地面に倒れる寸前、僕は優しく抱き抱えられた。
「頑張りましたね……ゆっくり休んお休みなさい」
それは他でもない、メイレールさんだった。
今回は珍しく意識を失わずに済んだな。
ただ、今はメイレールさんの腕の中で寝る事にしよう……
◇◇◇◇◇◇◇
聖天騎士隊の訓練場、相対するは最速の騎士、『閃光』の二つ名を持つ現騎士隊長モネさん。
わたしは自分の『強さ』と『守っているもの』をこの訓練で見つけなくてはならない。
「心の準備は出来た? では、始め!」
「っ!?」
訓練開始の号令と共に団長の姿が視界から消える。
目を凝らして観察すれば、辛うじて見えるか見えないかという速度だ
普通の好戦種の騎士であれば、翼に集めた魔力の放出させる向きや強さを調整する事によって、高い機動力を得ることができる。
でも、わたしは種が異なる両親の翼を1枚ずつ受け継いでいるから、昔からバランス良く飛ぶ事が出来なかった。
だから──。
「魔力で身体を軽くして、脚力だけで移動してるのか……」
「はい、皆みたいに速く飛べない分、わたしなりに工夫しました!」
隊長の動きが速すぎて、何処から声が聞こえているのかは分からない。
困惑していると、隊長がわたしの前で止まる。
「そのやり方で、君は強くなれそうかい?」
「正直、限界を感じています……」
「そうだと思う。
速さを売りにした戦闘は君に向いていない」
そんな事言われたら何を強さにしたらいいの?
速さこそが絶対的な強さの基準だと思っていたのに……
でも、速さを考えなくていいなら……
「うん、これなら大丈夫かな。
隊長、もう一度お願いします!」
「何か見つけたみたいだね。
ではもう一度行く……始め!」
わたしは翼の魔力で、今いる場所に自分を固定するように魔力を調整する。
そうする事で、隊長を目で追う事だけに集中できる。
後は──。
「そこぉっ!!」
「先程より良い動きになった!
もう少しで一撃貰う所だった!」
すんでの所で躱されてしまった。
手にも多少の魔力を込めて、戦鎚を高速で振るう。
これなら相手が速くても対応できる!
「隊長! わたしの強さはこの『パワー』です。
この腕力でどんな相手も蹴散らせて見せます!」
わたしがそう言うと、隊長は動きを止めて少し穏やかな表情になり、語り始めた。
「パワーが強さか……なんだか前隊長を思い出すよ」
「前隊長……どのような方だったんですか?」
「前隊長……アステラさんって人なんだけどね。
口癖が「力こそパワーだ!」って人だったんだよ……」
その名前も、口癖も間違い無く自分の記憶の中の人物と一致する。
「その人……たぶん、わたしのお姉ちゃんです……」
「えぇ!?
ルーナちゃん、前隊長の妹さんなの!?」
「隊長だったのは知らなかったんですけど、『力こそパワー』は家でもよく言ってて……」
お姉ちゃんが騎士だった事は知ってるけど、まさか元隊長だとは思わなかったな……
でも、お姉ちゃんが騎士隊長であったのならば、わたしの守るべきものは決まった。
「モネ隊長、わたしお姉ちゃんとの約束を守りたいです。
いつか、最強の騎士になるっていう約束を……
いなくなったお姉ちゃんに胸を張れるように、その約束をわたしは守りたいです!」
「うん、それがいいよ!
強さは人それぞれだし、守るものも人それぞれ。
正解なんて最初から無いんだよ。
それを自分の力で見つけて欲しかったんだ!」
この後は前隊長の話しや、わたしのこれからの事について話し合い、解散する流れとなった。
こうして、一方は己の『強さ』と『美学』、もう一方は『強さ』と『守りたいもの』を見つけたのであった。
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