【第24話】初めての恐怖
目が覚めたのはあれから2日後の朝だった。
身体は筋肉痛でバキバキだが頭痛は全く無い。
後頭部から背中にかけて鈍い痛みがあるのは、まぁ言うまでもないだろう。
「これ、痣とかになってないといいけど。
それにしても体が……あれ?」
自分の腹部に今までに無い何かを感じる。
手で触れてみると、僅かではあるが凹凸がある……
軋む体を起こして腹部に目をやると、うっすら6等分された腹筋が目に入る。
腕なんかもよく見ると、少し逞しくなった気がする。
せっかくだから、上着を脱いで姿見の前に立ってみる。
「凄い、超いい感じだ……」
ガチャッ──
不意にドアが開かれ、目が合ってしまう。
それも、ポーズを決めたタイミングで……
「…………」
「…………」
「……出直した方が……いい?」
「だ、大丈夫ですから!
いやいや、そんな目で見ないでください!」
先輩の可哀想な人を見るような目が痛い……
確かに傍から見たら鏡の前でニヤけてポーズ決めてる痛い人だけど!
「そんな事より、先輩は何の用事でここに?」
「……朝に…体拭くの……クークラの仕事」
「寝てる間は先輩が面倒を見てくれてるんですね。
ありがとうございます」
「……ん……クークラは…できる先輩。
……これくらい……当然」
本来であれば、朝はとてつもなく弱いのに頑張ってくれているんだ。
僕も張り切って訓練を再開するとしよう!
という訳でガッツリと朝食を食べた後、禁書庫にやって来ました。
どういう訳かオラシアさんとメイレールさんと共に。
「あの、良かったんですか?」
「ナツメ君が頑張ってるって聞きましたし、神様なんだからわたしも応援したいと思って。ね? メルちゃん?」
「不本意ではありますが、拝み倒されたので仕方無く。
ですが、少しなら私も力になりましょう」
オラシアさん、拝み倒したのか……
ただ、純粋に僕を応援したかったのか、サボりたかっただけなのかは定かでは無い。
まぁ、それを問い質すのは無粋と言う物だが。
「どうせなら本の中で色々教えて貰えませんか?
メイレールさんには鍛えて欲しいですし」
「はい、元よりそのつもりです。
教えるのは下手ですが、善処してみます」
「ほらほら、早速3人で入りましょう。
ふふふ、久しぶりの休暇です!」
やっぱりサボる事が本命だったか。
しかし、今はメイレールさんに技術を教えてもらう事だけを考えなければ。
僕はいつものように、本を魔法陣の壁の前に置き、合言葉を唱える。
『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』
「随分長い合言葉ですね……
リオテークに影響されましたか?」
「まぁ、はい……」
「ふふ、わたしはいいと思いますよ!
男の子ってそういうのが好きなのでしょう?」
口に手を当てて、柔らかい微笑みを浮かべてオラシアさんは言った。
ルーナがこっち側の人だから好評だっただけで、普通はこういう反応なんだな。
本当に今更だか、リオ爺の言う通りにカッコ良さだけで決めなければ良かった……
「では私達も──」
『『開けゴマ』』
「え、そんなに短いんですか? しかも、2人とも一緒の合言葉?」
「合言葉の定番と言えば『開けゴマ』じゃないですか?」
「私も面倒だったので、それにしましたね」
なんか、かなり適当だな。
メイレールさんは『轟雷』の2つ名持ってる人だし、戦闘面では相当頼れるはずだから、そこに期待しよう。
「本の中なんて久しぶりに来ました。
それでは、わたしはここから応援していますね」
「間違っても邪魔はしないでくださいね……
それではナツメさん始めましょうか」
「よろしくお願いします!
でも、何をすればいいですか?」
始めると言われても、いきなり戦闘なのだろうか。
「ナツメさん、貴方の今の実力を、美学を全力で私にぶつけてください。
私も私の美学に従い相手をします。御覚悟を」
「……っ!?」
僕は今までに経験したことが無い恐怖に襲われた。
膝がひとりでに笑い、まるで言うことを聞かない。
全身の毛穴から嫌な汗が止まらない。
そんな状態の僕にメイレールさんの喝が飛ぶ。
「殺気を向けられただけでその有り様ですか。
貴方の覚悟はその程度なのですか?
立ちなさい、立って示しなさい。
貴方の強さを、貴方の美学を!!」
冗談じゃない。
強さってなんだ!? 美学ってなんなんだよ!?
理解が追い付かない。
分かる事と言えば、目の前にいる灰色の悪魔に恐怖している事だけ。
でも──。
「ここで…立ち止まっている訳には……行かない!」
僕は震える体を押さえ付け、小さな1歩を踏み出した……
【クークラの朝】
ピピピピピ……カチッ
普段は使用していない目覚ましを止める。
眠い目を擦りながら、ベッドで蠢く。
「……んむぅ……うぅ…朝」
いつもならもう一度、深い眠りにつくだろうが……
「……後輩…ルーナ……拭いてあげなきゃ」
自分の親友と後輩の為、重い腰を起こして着替えを始める。
最後に自慢のリボンを後頭部に結び付けて完了する。
「……ん…今日も……可愛い!」
姿見の前でポーズを決めた後、服を整える。
こうして.クークラの1日が始まる。




