【第17話】注意事項
ルーナが本の中に入ってから、僕もすぐに後を追ったはずが、2日も経っていた。
ルーナは潤んだジト目で僕を見る。
「ここから出る方法も分からなかったし、怖かった……」
「ホントにごめんルーナ! でも、ルーナが入ってから僕もすぐに来たんだよ?」
「分かった……今回は許す」
悪い事しちゃったな、険悪なムードにならなくて良かった。
「それにしても、外にいた十数秒がここでは2日も経っていたんだとすると、リオ爺が来るまでかなり時間がかかるかもね」
「わたし思うんだけど、リオ爺さんが来るまで外で待った方が良くないかな?
もしかすると、何年も待たされるかもしれないし」
僕も何年も待たされるのは勘弁だ。
何より、女の子と2人きりは緊張する。
僕はルーナに物語から出る時の合言葉を教える。
『『そして物語は幕を閉じる』』
2人で唱えて、一旦物語から抜け出した。
ここに来る時に一緒にいた先輩はいなかったな、仕事に戻ったのだろう。もしくはサボってるか……
「まだ来そうにないし、しばらく待ってようか」
「う、うん、そうだね」
何気ない会話をしながら、かれこれ1時間が経過した。
「中で待ってなくて良かったね、ナツメ君……」
「軽く数年は待たされてたかもね……」
ガチャン
扉が空いた音がしたので、2人で見に行ってみる。
扉の前にいたのは、大量の荷物を引きずっているリオ爺だった。
「おや? お二人共まだ入っていなかったのですか?
でも、丁度良かった。少し手を貸してください」
そう言われたので、ルーナと2人でリオ爺の荷物を禁書庫の中に運び入れる。
引きずる度に、中でガチャガチャと金属同士が擦れる音がするので、恐らく鎧とかそんな感じの物が入ってるのかな。
ある程度荷物を運び終わると、リオ爺が運んでいる荷物の山の後ろから、ひょこっと見慣れない人が現れた。
その人は僕と目が合うと、
「あ〜っ!! この子が噂のナツメ君ッスね!!
初めまして! うちは商業ギルド運送部所属のカティッス!」
カティと名乗ったその女性は、桃色のショートヘアを揺らしながら、「よろしくっす〜」と僕の手を握りブンブンと上下に振る。
好奇心に満ち溢れ、爛々と輝く水色の瞳が僕をまっすぐ見つめてくる。
「お噂はギルマスから聞いてるッス!
それにしても、想像の数倍可愛いッスね〜!」
ギルマスって言うのはギルドマスターの略だよな……
「ギルドマスターってもしかして、マルタさんの事ですか?」
以前、歓迎会の時にいた人だ。
正直なところ忘れかけていたが、何とか覚えていた。
確か、商業ギルドのギルド長と名乗っていたはずだ。
「たぶん、そのマルタさんで間違いないッスね。
遊びに来てくれない〜って、寂しがってたッスよ?
まぁ、正直あんにゃろうがどう思おうと知ったこっちゃないっスけどね!」
凄いな、恐らく上司であろうマルタさんを、あんにゃろう呼ばわりか……
なんかストレスでも溜まってるのかな。
「それでは、荷物の引渡しも済みましたので、おいとまするッス! こちらの書類にサインだけお願いします!」
「いつも申し訳ありません、無茶な要望に応えてもらい」
「いえいえ! いつもご贔屓にして頂いてありがたい限りっス! これからもよろしくお願いするッス!」
リオ爺が書類にサインし終わると、カティさんはダッシュで帰ってしまった。
なんて言うか、嵐みたいな人だったな……
僕達は3人で大量の荷物を禁書庫の中に運び込んだ。
「それにしても、この荷物の中身って何なんですか?」
「この中には多種多様な武器が入っています。
もちろんこの量ですから、貸し出しという形ですがね」
って事は、この量を返却するのか……
カティさん、大変そうだけど頑張って欲しい。
「ナツメ君、ルーナさん、この荷物を先程の本の中に運びますよ」
「 「 はーい 」 」
1時間弱かけて、何とか荷物を本の中に押し込むことが出来た。
残った荷物がない事を確認し、僕達も本の中に入る。
「数年はかかってしまいましたね……」
リオ爺は自分の肩を揉みほぐしながらそう言った。
リオ爺は僕らが外から押し入れた荷物を内側から引っ張っていたので、体感時間が違うのか……
「さて、荷物も運び終えましたので、早速訓練を始めていきましょうか。
ですがその前に、この場所で訓練するに至って、注意点が2つあります」
指を2本立てて、ゆっくり説明を始めた。
要約すると、
・1日の価値を噛み締めること
この空間に長い事居ると、自分の中の1日という時間の価値が著しく下がるらしい。
その状態で外に出ると廃人の様になってしまうのだと言う。
これは何となく理解ができる。
ただ、少し気になったのはもうひとつの方だ。
それは……
・心を老いさせない事
これは主に僕に向けた注意点だった。
ルーナ達は元々長命な種族で、問題は無いらしいのだが、僕は違う。
曰く、僕やリオ爺は正確には人ではなく、オラシアさんが肉体を創り、その肉体に魂が入った者であり、そういった者を一般的にはこう呼ぶらしい。
『半神類』と……
読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」 「続きが気になる!」
と思っていただけた方は、感想やブックマーク、広告の下の評価☆☆☆☆☆にて応援してくれると嬉しいです。
次回からとうとう訓練開始です!
乞うご期待なのです!!




