「粘着体質」
フライパンがジュージューとなる。
僕は、客人(3歳の女児リンちゃん)のために、焼きそばを作っている。
「おなかすいたー。」
「はいはい、もう少々お待ち下さいませ。」
僕は、機嫌よく対応する。
それは、罪滅ぼし半分、祝福半分の複雑な心理による行動だった。
しかし、母親の許可もなしに食事を出しても大丈夫なのだろうか?
「ユウ子さん?リンちゃんのお母さん、今ごろ心配してないかな?」
「一応、話はついています。」
「え?ユウ子さん、お母さんと話したってこと?」
「・・・はい。」
ま・・・、この話しは後にしよう。焼きそばが完成したし、食べながらでよい。
「いっただっきまーす!」
握り箸。さか手流。リンは、小さく切ったウインナーを串刺しにすると、かぶりついた。
「おいしいよ。おねえちゃん、食べないの?」
リンには、幽霊という概念はない。
「うん。お姉ちゃん、お腹いっぱいなの。」
ユウ子は軽く受け流した。
僕は、焼きそばを食べながら、病院でのいきさつを、根掘り葉掘りと訊きだした。
ユウ子の話しを要約する。
リンは、昏睡状態より覚醒をすると、母親と会話をはじめる。→時より、ユウ子に向かって「だよねー!」などと話しかける。→母親にはユウ子が見えずに困惑。→リンの脳の精密検査を依頼。→異常なし。→専門医も困惑。→さらに、別の病院へ精密検査を依頼しようとする。
「その検査は不要だと思いますよ。」
そう言いながら、ユウ子は実体化してみせた。
最初は驚いていたリンちゃんママも、徐々にユウ子に打ち解けた。
さらに、昏睡状態だったリンの夢。と思っていた事が本当の事だったと知り、探偵さんにお礼がしたい。と言い出した。
そんな気持ちを利用して母親に頼みこみ、リンを連れ出して来た。
――――――と、そんなところだ。
「つまり、母親も連れて来ている?」
僕が、いぶかしげにたずねると。
「いいえ、よっPさんは、きっと嫌がると思ったので、二人で来ました。」
「うんうん。なるほど・・・。」
僕は、おもむろに立ち上がり玄関の扉を開くと、一人の女性が通りすがりを装っていた。
「リンちゃんのお母さんですね。どうぞ、焼きそばでよろしければ食べていって下さい。」
「へ・・・。いや私は・・・、はい。すみません。」
まあ、3歳児の子供を幽霊と二人きりで外に出せる母親はいない。二人を尾行してくるのは当前だろう。
「すみません。手土産もなしに・・・。」
「いえいえ、お礼される様な事、何もしてませんから。」
女子3人の合流で、多少ワチャワチャしたものの、直ぐに落ち着いた。
しかし、僕は見逃さなかった。リンちゃんママの「ユウ子さん。良かったね〜。」という、文脈の解らない言葉に、ユウ子が気まずい顔をしていたのだ。
「ユウ子さんに。何かいいことあったんですか?」
あえてリンちゃんママにたずねた。
「もちろんよ。ユウ子さんはね、探偵さんのそばを離れると消滅するんだから。」
「消滅する・・・?」
「そうよ。不安でずっと泣いていたのよ。」
「そんな事ないですよ!」
ユウ子の言葉を置き去りに、リンちゃんママは続けた。
「ユウ子さんはね、生きている人間と心の繋がりが無いとダメらしいの。廃屋で、お互いに一目惚れしたんですよね。」
廃屋で、お互いに一目惚れ・・・?
あわてて、ユウ子が修正に入る。
「そうは、言っていませんよ。私は、魂が引かれ合った感じがした。と言ったんです。恋バナにアレンジし過ぎですよ。」
もちろん、顔を赤くしている。
「この魂の繋がりが、長時間途切れると、私は消えそうになるんです。よっPさんの魂が頼みの綱なんです。」
リンちゃんママが嬉しそうに言う。
「私は、そこに純愛を感じちゃったのよ。究極のプラトニックラブでしょう?」
「はあ・・・。」
この人、他人の話を勝手にアレンジして伝えてしまう。アレンジ魔。というトラブルメーカーかもしれない。
しかし、まあ、この関係・・・。
僕に本物の彼女ができた場合、ユウ子は別れてくれるのだろうか。結婚して家庭を持っても、ずっと僕にくっついているつもりだろうか。
僕と別れて、他の誰かにくっつく事もあるのだろうか。
それまでには、何とか全ての謎を解きあかし、成仏させてあげないとな・・・。
「粘着体質」終。




