水竜の長杖(アクア・ハルカス)
ミラたち三人は馬車を駆使し、滞りなく移動を続けた。
魔物が襲撃してきても、ミラと、二人の元A級冒険者にかかれば難なく撃退できた。
その点では何ら問題は無かった。
ただし、北部に近付くにつれて、立ち寄れる村も少なくなってきた。
必然的に、夜営して夜を明かすことも多くなる。
今日もそろそろ、日が沈む頃。
ミラは馬車が止まったのを感じて、目を覚ました。
「ミラ、起きたか?ちょうどいい、今日はこの辺りで夜営にするよ」
御者役をしていたアレンが馬車を止めた。
「ふぁ、お疲れ様」
ミラは夜の見張りのために、眠っていたところだった。
アレンは、手慣れた手つきで夜営の準備を始める。
ミラもそれを手伝った。
「わしも何か手伝わせてくれるかのぅ?」
セウスが二人に声を掛ける。
「そんな、ギルマスの手を煩わせることは」
「そうですよ、俺とミラで足りますよ」
「ほっほっ、そう年寄り扱いせんでくれ。旅のことは遠慮なく、わしにも任せてくれると嬉しいんじゃがのぅ?」
セウスの言葉を聞き、ミラは提案した。
「でしたら、食事の準備をお願いします。ギルマスの料理は絶品ですから!」
「あいわかった」
三人は、各々夜営の準備を進める。
北に進むにつれ、気温は下がる傾向にあった。
ここらではもう、夕日が沈みきっていなくとも肌寒い。
セウスは、ミラが集めた木の枝に魔法で火を起こした。
そして、火にかけた鍋で野菜を煮込み、即席でスープを作っていく。
魔道具である魔法袋を利用して大量に持ち込んだ食料には、まだまだ余裕があった。
今日の夕食は、黒パンと干し肉に、セウス特製の野菜スープだ。
夜営の用意は、間も無く完了した。
三人は火を囲んで、食事を始める。
「うまい」
「うん、おいしい」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があるのぅ」
セウスはクスクスと笑った。
つられて、ミラも微笑む。
塩と野菜だけのスープなのに、獄中食と比べれば天地の差だ。
ミラは、親しい人と一緒に食べる食事のありがたみをしみじみと感じた。
この旅において、二人と共にする食事は、ミラの何よりの楽しみだった。
両親を亡くしているミラは、心のどこかで家族の団欒を熱望していたのかもしれない。
家族の団欒とは少し違うが、ミラは今、確かに穏やかな時間を過ごしていた。
ミラが作ったスープを口に運びながら、セウスはふと、ミラの足元の杖に目を落とす。
「一つ、聞いても良いかのぅ?」
「なんでしょう?」
「それほどの魔導杖、一体どうやって手に入れたのじゃ?」
「あぁ、これですか……」
ミラは過去に思いを巡らせて、目を細める。
「長くなりますけど、いいですか?」
「もちろんじゃとも」
「……私には、固有技能があるって話をしましたよね」
ミラはぽつりぽつりと語り出した。
「私の固有技能は"複製"と言います。昔から、この力を使えば幾らでも大金持ちになれると分かってたんですけど……そんな風には、使いたくなかったんです」
「ふむ」
「それで、冒険者になりました。冒険者を選んだのは、今度何かあった時、自分の力でどうにかできるよう、力を付けたかったからです。自信はありました。アレンもいるし、魔法学院で学んだことも、受付嬢として働いていたことも生かせるので。それに、続けるうちに、A級冒険者になるっていう目標もできました。もしもA級冒険者になれたら、影響力も大きくなって、王国も簡単には手出しして来ないはずです。五年前の罪に怯えることなく、故郷に帰ることができると思いました」
ミラは淡々と語り進める。
セウスには、それが余計健気に思えた。
「冒険者になったばかりの頃、私たちはキングジャイアントマウスと遭遇しました。あの時はまだ新人だったし、実際パーティーも全滅しかけてかなり危なかったんですが、アレンのおかげで何とか倒せたんです」
そこで、アレンが話を引き継いだ。
「その時、俺たちは『宝玉』を手に入れました。それを素材に作った魔導杖が、この水竜の長杖です。ご存知のとおり、宝玉一つとってもその価値は金貨百枚を下りません。それをミラの固有技能で複製し、惜しみなく使った魔導杖です」
セウスは、杖にもう一度目をやる。
「では、この杖のとんでもない性能は、宝玉のおかげじゃったか」
「もちろん、それだけじゃないですけど。ミラは冒険者になってから、本当によく頑張っています。魔法の威力は、仮に杖が無かったとしても優にA級冒険者クラスですよ」
「アレン、それは言い過ぎ」
ミラはセウスの方に向き直る。
「恥ずかしながら、杖の性能に頼ってる部分は大いにあります。……はぁ〜。ふふふ、話してスッキリしちゃいました。聞いてくれて、ありがとうございました」
「聞いたのはわしの方じゃ。わしは、わしが知らない間にお前たちがどうしていたのか、もっともっと知りたい。聞かせてくれるか?」
「もちろんですよ。でも、先に食べませんか? 折角のおいしいスープが冷めちゃいます」
「ふ、ははははっ!たしかにそうじゃな」
三人の団欒は遅くまで続いた。




