74.reply
この屋敷に迷い込んだ人間に、私はいつも声を掛ける。そして二つの選択肢を提示する。
だけど大抵の奴は、ビビったり逆ギレしてくるから、答えなんかほとんど聞けたことがない。ま、どっちを選んだって一緒なんだしね。
でも、最近は滅多にそういう奴が来なくなった。たまに来るのは、馬鹿みたいにプライドが高くて友達の手前引っ込みがつかなくなったガキ。それから、古い建物が好きな奴。訳知り顔で「廃墟の美」とか失礼なこと言ってくれちゃうから嫌い。あとは、寝泊まり場所を探すおっさんとかかな。あいつらにはなんか近づきたくないから構わないでいる。どうせみんな、私の言ってることなんかまともに聞きゃしないんだから。
でも、もう、そんなのもめっきり来なくなって、何年も経った。そして今日、突然すごくやかましい奴が無作法に踏み込んできた。ブルドーザーとかいう名前らしい。
最後の客だな、ってなんとなくわかった。おまけにコイツ、喰えそうにないじゃん。
最悪。
私は深呼吸して、やけくそで桶を抱えた。いつもの台詞を唱い上げる。
「小豆とぎましょか〜、人穫って食いましょか〜…」
渾身のビビらせ声は、すぐに騒音に掻き消された。
「返事をする」、
「~と答える(+to)」。