100.associate
※やや長文です。本編には無関係ですので、煩わしくお思いの方は読み飛ばして下さい。
「ENGLISH WORDS」、お陰様で年内に百話到達出来ました。感想を下さった方、お気に入り登録して下さった方、そしてアクセスして下さった方々、本当にありがとうございました。
101.以降は、「ENGLISH WORDS 2」とタイトルを改め、別の作品として連載したいと思います。
さて、近頃沢山の方の応援にも関わらず、作品のクオリティが低下していることは、作者も自覚している所です。誠に申し訳ありません。マンネリ化、ステレオタイプの連続……力不足をひしひしと感じています。
そのため、このシリーズを今のペースで継続するか否か、現在迷っております。大変申し訳ないのですが、来年以降、あるいは長期間更新が停止するかも知れませんのでそのつもりで「駄目だこいつ」と思っておいて下さると助かります。
改めて、ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。来年も皆様に楽しんでいただけるよう、下手ながら精進するつもりです。
それでは、今年最後の一話をどうぞ。
よいお年を。
「レンジさん」
町中で突然そう呼ばれ、私は驚いた。そんな呼び方をする人間には、ひとりしか心当たりがなかったからだ。
「久しぶりだね。こんな所にいたんだ」
私は黙って顔を上げ、彼を見つめていた。
彼と知り合ったのは、八年前の春。私が一年前から勤めていた家電量販店に、彼が入社してきたことがきっかけだった。彼は新卒社員の中では特に優秀で、商品も社員の名前もすぐに覚え、丁寧で明るい接客で次第に成績を上げていった。
彼が言うには、人間の名前と顔を家電に関連づけて覚えるのがコツだそうだ。この人は冷凍冷蔵庫、あの人は14型ノートPC、というように。
試しに尋ねてみたら、私は「二層式電子レンジ」とのこと。申し訳なさそうに答えていた彼の顔が印象的だった。
彼と私は、売場が近いのもあってか、次第に親しくなっていった。大抵は休憩や連絡の際に彼が私に会いに来て、事務処理の合間に雑談を交わす。その程度のことだったが、忙しい中で彼は私にとって寄りかかれる存在となった。
だが彼の方は、過労のためか、ある時期から調子を悪くしていた。仕事中も元気がなくなり、商品の名前を間違えたり、ついには同僚をうっかり家電の名前で呼ぶほどに精神の均衡を失っていった。私は随分前から「レンジさん」と愛称のようにして呼ばれていたし、構わないと思ったのだが、彼や周囲の社員からすると結構なショックだったらしい。彼は上司の勧めで休みをとり、そのまま辞めてしまった。
以来、一度も連絡すら取れなかった彼が、目の前にいる。突然のことに私は動揺し、すぐには言葉が出てこなかった。
「……久しぶりね」
やっとそれだけ言うと、彼は「相変わらずで安心したよ」と笑う。八年前と変わらない笑い方、けれどそこには疲労と寂しさとがにじみ出ていた。
抱きしめてしまいたい、と思ったが、ここは公共の場で私は店員だ。思わず目を逸らして逡巡し、やっと、こちらも笑顔で応じようと向き直った時。
彼が、私を抱きすくめた。
「あっ、ち、ちょっと」
「……レンジさんが、欲しい」
私の狼狽など無視して囁いた彼の声に、八年間張っていた余分な力が、ふっと抜けていくのを感じた。
*
「今日は寒いなあ。ねえ、ココアあっためてくれない」
「いいわよ。コップ貸して」
約一分。電子音が鳴ったら、あたため完了の合図だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。あー、あったまるなあ」
「よかった」
幸せそうな彼に、にっこりと微笑みかける。彼はこたつに入ってココアを飲む。向かい側には、もう一つのコップ。誰も飲まないココア。
彼が私の中に入れる冷たいものを毎日、私が温める。二人分温めたものの片方を彼が口にする。もう片方は、結局冷めて部屋に溜まっていく。
ごめんなさいね。でも大丈夫。私、あなたの食べ物を出し入れしてるってだけで幸せいっぱいなの。
(-A with B)「AをBに関連づける」、
「AからBを連想する」、
(-with A)「Aとつきあう」、
「仲間」、
「同僚」。