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箱舟ランデブー  作者: 狐尾兎 悠
第1章
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1.8 ノエルの修行

僕は皆と別れたあと、地図にしたがって目的地に向かう。そこには洞窟があった。洞窟の中に入り奥に進んでいくと階段があった。薄暗い洞窟中には所々光る石が置いてあり、足元が見える程度には明るかった。階段は円を描くようにずっと下まで続いており、5分程降りると真っ直ぐな通路にでた。通路の先には横1m縦2m程の大きな扉が見える。


扉を開けると中は真っ暗で何も見えない。前に数歩くと音を立てて扉が急に閉まった。一瞬フラッシュのように周りが白くなったと思ったら天井に光の玉が出現していた。光の玉のおかげで部屋全体が明るくなった。

「ようやくきたか少年」

部屋の中央には神殿にいた女性が立っていた。


「どうしてここに?神殿に残ったんじゃなかったんですか?」

女性の姿に驚いたが、平静を保ち疑問を口にする。

「なんだよ、思ったよりリアクション薄いな。もっと驚いてくれると思ったんだけどなぁ〜。」

女性は頭を掻きながら悔しそうな顔をしている。

「自己紹介がまだだったな。私は短剣使いのティオだ。私の修行は厳しいから覚悟しておけ。では、早速修行を始める。私から目を離すなよ。」

僕はティオさんから目を離さないように凝視する。僕達の距離は5mほどあいており、ティオさんが一歩踏み出した次の瞬間ティオさんの姿が消えた。いつの間にか僕の背後に回り込んでおり、首筋に短剣を押し当てられる。さらに、驚く事に僕の背中には幸せな感覚が2つあり、気を緩めると笑みがこぼれそうだ。


「今のが術式を使ったスキルと言われるものだ。少年にはこのスキルを習得してもらう。因みに今のは、自分の気配を消す隠形と相手との距離を瞬間的に詰める瞬動を合わせたものだ。まずはこの2つを覚えてもらうのだが、まずは術式の説明からしないといけないな。お前も知っていると思うが、生物には生命力と体力の2つがある。攻撃を受けたり、ダメージを受けると生命力は減っていくし、流血している場合などは継続的に生命力が減っていくこともある。そして、体力は飛んだり跳ねたりすることで減っていく。簡単にいうと疲労が溜まるといったところだ。生命力と違うところは回復のスピードだ。体力はゆっくり休めばすぐ回復するが生命力は中々回復しない。そして、術式は体力を消耗して発動する。体力がなくなっても死ぬことはないが、動けなくなるから魔物に遭遇したりすれば死ぬ。だから、術式を使う場合は自分の体力をしっかり把握することが必要なんだ。」


それからもティオさんによる術式の説明が始まる。あまり説明が得意ではないみたいで、要領得ないが、まとめるこんな感じだと思う。術式には属性があり、主に火、水、風、雷、土、光、闇、無の8種類に分けられる。生まれつき得意な属性と、苦手な属性があるらしく、得意な属性だと、体力消費は少なくてすむが、逆に苦手な属性だと多くの体力を消耗する。苦手な属性でも修行をつめば消費を抑えられるが、効率が悪く時間がかかるため、ほとんど人は得意な属性を中心に修行するそうだ。


そして、術式の使い方だが、生活術式などの細々したものは頭の中でイメージすることで自動的に形になっているらしい。今回のような、大きな力を引き出すためには、力の流れを感じることが重要だと言う。この力を術力といい、術力の強弱のコントロールが必須だ。今回の例で言えば隠形は身体に巡る術力をゼロにすることで、気配を消せるそうだ。瞬動は踏み込む瞬間に踏み込む足のつま先に術力を集めることで生身では出せないスピードを出せるようになるという。


「ということはまずは術力のコントロールの練習ですね。術力を感じるコツとかは、あるんですか?」

「そうだな。術力のコントロールができないと何もできないからな。コツは……気合いだ。気合いで感じろ。」

あっ、この人、見て覚えろとか体で覚えろとかいうタイプの人だ。見た目は華奢なのでいろいろと説明してくれると期待したんだけどなぁ。まぁ、術式の説明の時に何となくわかっていたけど、少しぐらい希望を抱きたかったんだ。つらい修行になりそうだ。修行だからつらくて当たり前なんだけどそういうことじゃないよね。わかってくれるよね?


「よし、目を瞑れ!今から術力を解放してお前に攻撃を仕掛ける。私の術力を感じたら避けろ。ではいくぞ。」

ティオさんは短剣サイズの木剣を鞄から出す。今から僕はあの木剣でボコボコにやられるんだな。そんなことを思いながら目を閉じ集中する。術力と言われてもまだよく分からないので、取り敢えずティオさんの気配を感じることに集中する。


何十回ティオさんの木剣をくらっただろうか。僕はすでに立っているだけで精一杯になっていた。術力を解放しているからだろうか、ティオさんの気配が全方向からするのだ。ティオさんの足音が近づいてくる。5m程の距離からは足音をころして動くのでどこから打ち込んでくるのかは分からない。しかし、打ち込んでくるタイミングは毎回同じで、僕が避けられなくても大怪我しないようにと気を使ってくれているのだろう。それなら一層の事寸止めでいいじゃないかと思うが痛みがなければ覚えれるものも覚えられないとか言ってくるんだろうな。


「右!」

僕が呟いた瞬間右から横腹を切り上げるようにえぐられる。その勢いで僕は左に吹き飛ばされる。すでに立ち上がる力さえ残っていない。嗚咽を漏らしながら横腹の激痛に耐える。

「ほぉー今の攻撃が右からだとわかったのか。1日目にしては上出来だ。素質があるのかもしれんな。」

「いえ、部屋全体に広がっているティオさんの気配が一点を中心として一瞬揺らいだ気がしたんです。感じた時にはすでに攻撃をくらっていたんですけどね」

横腹の痛みが引いていくのを待って体勢を起こし、壁にもたれる形で座る。そして、攻撃が右からくるとわかった理由を告げるとティオさんは満面の笑みで僕の頭を激しく撫でてきた。少し荒く体中の傷に響くが、頭を撫でられる感触が心地よく、ティオさん手が離れるのを名残惜しく感じた。


「よし!忘れないうちもう一回やるか。」

僕はその一言に苦笑いで答えつつも、ティオさんに無理やり立たされた。そのあとの記憶はない。次に目を覚ましたのはベット上だった。知らない天井に、右手に感じる柔らかい感触。ん?柔らかい感触?僕は嫌な予感を感じつつも顔を右に向ける。10cmほどの距離にティオさんの寝顔があり、僕の右手はティオさんの両手にホールドされ、2つの山の谷の底に押し付けられていた。ティオさんは薄いピンク色のワンピース姿で花のような香りがする。昨日あの後、僕を介抱したあとお風呂にでも入って着替えたのだろう。


それにしてもこの状況はヤバイ。僕だって健全な青少年だ。この状況で冷静なを保っていれるほど大人ではない。「一刻も早くこの状況を打開せねば取り返しのつかない事になってしまう。」

「取り返しのつかないことになっても、私は構わないわよ。」

ティオさんが僕の耳元で囁く。どうやら僕は混乱し、声に出してしまったようだ。

「冗談はやめてくださいよ。なんで隣で寝ているんですか。」

悪戯が成功した少女のように無邪気な笑みを浮かべている。

「私の家はベットが一つしかないから仕方ないでしょ?それとも私と寝るのは嫌なのかな?」

「嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて、色々と問題があるじゃないですか。」

「うふふ、少年のリアクションは面白いわね。虐めがいがあるわ。それじゃあ、ご飯食べて修行しましょうか。」

そう言うとティオさんは嬉しそうにベットから降りた。


僕はご飯を食べながら疑問に思ったことを聞いてみる。この家には寝室、居間、キッチンにトイレしかないのだ。

「ティオさん、この家にお風呂はないんですか?」

「お風呂?私そんなお金持ちに見えるかしら?今やこんな辺鄙なところでの隠居暮らし。お風呂になんていつ入ったか覚えていないわ。それにしても変な事を聞くのね。」

「そうですよね?普通、家にお風呂なんてないですよね」

僕は笑って誤魔化していると、ティオさんもあはははとニヤニヤしながら見てくる。嫌な予感しかしない。何か勘違いし、絶対おかしな事を想像しているに違いないが、ティオさんからいい香りがしたのでてっきりお風呂に入ったのだと思ってました、あははは。なんて言えるわけがない。


ユリカが宿にお風呂が無くて泣いている姿を思い出した僕は、お風呂があるならユリカをお風呂に入れてあげてほしいと頼むつもりだったのだがどうやら選択を誤ってしまったらしい。だが今は、この家にお風呂がなかったことに感謝しよう。


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