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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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81/207

81.風の精霊

「ちょっとぉ、いつまで泣いてんのよっ。」


 透き通るような幼いその声に、ロイドは顔を上げた。

 すると、そこには淡い黄緑色のオーラを放つ、少女の姿があった。

 

「ヴォルスってさぁ~……他にもうちょっとマシな名前はなかったの?」


 腕を組んで宙に浮いているその少女は、エイル族と同じ翼が生えていた。


「あなたが一人で寂しそうだったから、今まで力を貸してあげたのよ。

 それよりも、あたしがあそこで止めなかったら、あなた死んでたんだからね!」


 少女は、未だ涙を拭わずぼーっと見つめてくるロイドに、びしっと指を指した。

 その後すぐに、少女らしい弾けるような笑みを浮かべ、茫然としている彼に告げた。


「うふふふ、見せてもらったわよ。

 あなたの、種族を超えて相手を思う心の強さをね。

 人間の言葉だと、思いやりっていうのかな?

 決ーめた、あたし、これからもあなたに風の力を貸してあげる!

 あたしは、風の精霊エアロラよ。

 よろしくね、っていうのも変ね。

 だってずっと一緒にいたんだもの!」


 早口で喋る少女が細い手を天にかざすと、ロイドに一粒の光が舞い降りる。

 光が頭上で弾けると、先程まで泣いて熱をもっていた身体に、感じたことのないほどの清涼感が走る。

 その後、ロイドは自分の身体が再び、徐々に熱くなるのを感じた。


「これが……風の力。」


 ロイドは、少女が本当に風の精霊なのかどうか半信半疑でいたが、自分の身体が変化するのを感じ、それは確信へと変わった。


「それじゃあ、あなたは本当に風の精霊……。」


「何よう、今更。

 それよりも、あたしの得意技も伝授するわ!

 天絶防御アブソリュートというとっても便利な技よ。

 風の力が衝撃を分散することで、少しの間だけ相手の攻撃を半減することができるの。

 ただし、そう何度も使えないから気を付けてね。

 まっ、それもあなたの魔力次第なんだけどね!」


 風の聖霊は早口で説明し、そして軽くウインクをしてみせた。


「それと、これもあげる。

 風と龍の力が込められてるだけあって、軽くて強力な武器よ!」


 何やら忙しい奴だな、とロイドは思っていた。

 すると、風の聖霊はぶーっと頬を膨らませた。


「何よう。

 あたしだって、エイル族と同じように相手の心が読めるんだからねっ。」


 ロイドは、しまった、という表情を浮かべ、ぱっと口元を隠した。

 風の聖霊は目を閉じて、手を上にかざすと、二本の剣が現れた。

 剣というよりも、不透明なアイボリーの見た目であるそれは、まるで何かの牙のようにも見えた。

 先程までの少女が、嘘のように神々しく見える。

 綺麗だ、とロイドは素直にそう感じた。


「うふふふ、ありがと。

 綺麗だなんて、照れるわ。」


「……もう……イヤだ……。」


 完璧に、風の精霊のペースにはまってしまっているロイドは、みるみるうちに耳まで真っ赤になった。


「これはね、風龍の牙っていうの。

 あたしの風の力が込められているだけあって、とっても軽いの!

 あたしはこれ以上あなたと一緒には行けないけど、もう大丈夫よね。」


 ロイドは、風の精霊の言葉にレンジとセレス、そしてハープに目をやった。

 そこには、微笑みながら頷く三人の姿があった。

 レンジは少しばかり悔しそうにも見えたが、良かったな、と彼の唇は確かにそう動いた。


「さてと、長い事留守にしてたからね。

 しばらくは風の谷に戻って、ユニベルに風を運ばなきゃ。

 あなたたちも、協力してよねっ!」


 風の精霊は、生き残ったオーガとエイル族たちに向かってそう告げた。

 エイル族は手を上にあげて賛同するが、オーガ達は何やら腑に落ちない様子でいる。


「どうしたの?」


「……オーガ、つばさ、持ってない。

 風、おこせない。

 それに、住むところ、なくなった。」


「なぁに?

 そんなこと心配してるの?

 意外と繊細なのね、あなた達。

 あなた達には強い力がある、それでいいじゃない!

 風の谷も、あなたたちの住む谷底も壊されちゃったけど、また作り直せばいいのよ。

 そのためには、あなたたちオーガの力が必要なの。

 どう、分かった?」


 ものの見事に言いくるめられたオーガ達は、突然やる気になった。


「うがっ、うがっ、オーガ、岩、ほる。

 ほって、家、つくる!」


「エイル族、オーガ、おろして!」


「はーい、了解!」


「僕たち狭いとこ苦手だから、大きく掘ってよね!」


 オーガとエイル族は、次々に谷へと向かっていった。

 その中で、ロイドが助けたオーガの子供は、未だ俯いたままでいる。

 そこに、ゲイルとエイル族の子供が話しかける。


「オーガ、もう、親、いない。

 オーガ……ひとりぼっち。」


「一人じゃないさ。

 私達がいるじゃないか。

 うちにおいで、一緒に暮らそう。」


「やったぁ!

 家族が増えたね!

 ねぇねぇ、オーガの子供達ってどうやって遊んでるの?

 僕達にも教えてよ!」


 エイル族の子供達は、オーガの子供を囲んで次々に話しかける。

 最初は悲しみと困惑した表情を浮かべていたオーガの子供は、次第に笑顔へと変わる。

 そして、ゲイルやエイル族と共に谷へと帰っていった。

 こうして、オーガとエイル族は手を取り合い、「共存」というかたちをとった。

 

「さてさて、それじゃ、あたしはもう行くね。」


 全員が谷へと向かったことを確認し、風の精霊はその場を去ろうとした。

 だが、ロイドの言葉がそれを遮った。


「ひとつ、聞かせてくれ!

 あのゴーレム……いや、ヴォルスには、意思があったのか?」


 その言葉に、エアロラの動きが止まった。

 だが、彼女は振り向かないままでいる。


「……どっちだったら良かったの?

 あたし?

 それとも、ゴーレム?」


「な、何だよそれ。」


 風の精霊───少女はくるりと振り向き、そのままロイドに口づけた。

 その衝撃的な出来事に、三人も、ロイド本人も固まった。

 少女の唇が離れると、少女は頬を膨らまして、沈黙を破る。


「……分かってよ、ばか。」


 一言そう言うと、少女は風の如く、その場から姿を消した。

 未だ固まったままでいるロイドをレンジがつつくが、反応が返ってこない。


「ほらね、やっぱりヴォルスは女の子だったのよ。」


 ゴーレムが女の子に見えた理由がようやく見つかったことで、セレスは妙にすっきりした。

 

「気持ちいい……。」


 風の谷からは、春風のような柔らかい風が吹く。

 風は生きている。

 そう感じずにはいられない、レンジ達であった。

 

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