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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 世界樹の森
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36/207

36.ゼロ

 世界樹のふもとに行くと、エルフ達が空を眺めながら騒めいている。


「あ、あれは何だ!?」


 空に向かって指を差すエルフが、何かを発見した。

 見上げると、不思議な事に一人の青年が宙に浮いている。

 着ている物も肌の色も全体的に青白く、青い髪の色だけがはっきり捉えられる。

 より目を凝らしてみると、青年は半透明で体が透けている。

 顔を見てみると、長い前髪で鼻から上の表情が見えない。


「あ……あれは……!」


 ハープの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

 今まで動かなかった青白い青年は、地上に向かって手をかざした。

 すると手から眩い光が出た瞬間、唸るような地響きが再び地上に走る。


「きゃあっ!」


「危ねぇ!」


 青白い青年は、明らかにハープを狙っていた。

 レンジはそれを察知し、彼女を抱いたまま転がった。


「ハープ、大丈夫か!?」


「あ、ありがとう。」


 レンジは青年にきつく目をやった後、ハープに聞く。


「あいつは一体何者なんだ!?」


「レンジ……。

 あれが……あれがゼロよ───。」


 レンジは驚きを隠せない。

 自分が本で見たゼロは、ただただ真っ黒い姿をした魔物であり、あのように人間の出で立ちではなかった。

 セレスもシアードも、空を見上げたまま固まっていた。

 いや、あまりの恐ろしさに動けないといった方が正しいのかもしれない。


 三度目の衝撃波が森を襲った。

 その衝撃で、一ヶ所に集まっていたエルフ達が吹っ飛んでいった。

 ゼロの攻撃をまともにくらったエルフ達の肉片が、あたり一面に飛び散る。

 完全に手足がある状態の死体など、皆無に等しかった。

 生き残った者が、まだ息のある者に治癒魔法をかける。

 ただ、ほとんどの者が傷が癒えないでいる。

 痛みを和らげるのがやっとの状況だ。


 こうなれば、もう世界樹を守るどころではなかった。

 世界樹は炎を上げて燃え続ける。

 まるであの時のように、いや、今目の前に広がる光景は、あの時よりも絶望的だ───。

 エルフ達は自分の身を守ること、怪我をしている者に治癒魔法をかけることで精いっぱいだった。

 レンジ達も、相手がはるか空の上にいるとなると、相手が降りてこない限り戦えない。


 どうすればみんなを守ることができる?

 このまま、黙ってやられるのを待っているだけなのか?


 レンジはゼロを見据えながら、皆を守る方法を考えていた。

 ゼロは、そんな様子を知る由もなく再び手を地面にかざした。


「そうだ!」


 レンジは、思い出したかのようにポケットから青色の石を取り出した。

 迷いの森でもらった感応石の試作品だ。

 感応石を強く握りしめて空にかざすと、森の時と同様、青白い光が辺りを包んだ。

 その光は、ゼロの攻撃を弾いた。

 跳ね返った衝撃で強い風が起こる。

 吹き上げた風は、ゼロの前髪を浮かせた。

 その時、ゼロの両目が閉じられていたのをハープは見逃さなかった。


「す、すげぇ……!」


 レンジ達が感応石のバリアに感心していると、石は砕け散った。

 一時的にだが、その場にいる者を守ることはできた。

 だが、燃えさかる世界樹だけは、もうどうすることもできない。


「おい、あれを見てみろ。」


 シアードが指す方向に目をやると、ゼロはすーっと消えていった。

 姿が消えた途端、レンジの身体から滝のように汗が流れ落ちる。

 ゼロの強さと恐ろしさに、震えが止まらない。


「せ、世界樹が……。」


 エルフの長の言葉に、その場の全員が世界樹の方を見た。

 そこに生えているものに、かつての青々とした美しさはもうない。

 自分達が長年大切にしてきた世界樹は、ただただ真っ黒な炭と化していた。


「それじゃあ、水の精霊はもう……。」


 生き残ったエルフ達は言葉を失い、茫然としていた。

 ハープが膝から崩れ落ちそうになるのを、レンジが隣で支える。

 小刻みに震える彼女の身体から、ゼロの恐怖が伝わる。


 ハープには一つ、気になることがあった。

 それは、レンジが感応石を使った直後、森が騒めき出したことだ。

 だが今は、ゼロを目の前にして命があったことだけでも、感謝しなければならない。

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