特産品ブランド化計画と、スパダリ軍医の過保護な『善行ポイント』稼ぎ
特産品ブランド化計画と、スパダリ軍医の過保護な『善行ポイント』稼ぎ
「――というわけで。私が創った【月詠の窯】の器を村の貯水槽に沈め、浄化された水を農業用水として利用します。これで、ポポロ・タバコと月見大根の品質は劇的に向上するはずです」
ポポロ村の集会所。
輝夜は手書きの資料を広げながら、村の代表者たちに向けて『特産品ブランド化計画』のプレゼンテーションを行っていた。
集まっているのは、毒舌教師のネギオや、すっかり丸くなった泥沼源蔵をはじめとするベテラン農家たちだ。
「なるほど」
ポポロシガーを吹かしながら、ネギオが伊達メガネを中指で押し上げる。
「水質改善による魔力価の底上げですか。確かに、あなたの器の浄化作用があれば、特産品の価値はさらに跳ね上がるでしょう。ドンガン帝国との交渉材料としても申し分ありません」
「へへっ、輝夜ちゃんのおかげで、うちの畑も毎日絶好調だからな! やろうぜ、みんな!」
源蔵の力強い賛同に、他の農家たちも「おうっ!」と拳を突き上げた。
「ただ、一つだけ問題があります」
輝夜は少し困ったように眉を下げた。
「浄化された水を畑の隅々まで効率よく行き渡らせるには、今の水路だけでは不十分です。地球にあるような『農業用ホース』や『ポンプ』があれば、農家の皆さんの負担も大幅に減るのですが……」
異世界のアナステシアには、魔法はあっても、便利な現代農業のインフラは揃っていない。
輝夜の【月詠の窯】はあくまで土を陶器に変えるスキルであり、ゴム製のホースや機械を創り出すことはできなかった。
「まあ、そこは俺たちで水汲みを頑張るしかねぇな!」
「そうですね。少し時間はかかりますが、みんなで協力してやりましょう!」
村人たちと前向きに話し合いを終え、輝夜はホッと息をついた。
その集会所の窓の外。
腕を組んで壁によりかかり、会話を密かに聞いていた優太は、咥えていたアメスピを携帯灰皿に落とした。
(……農業用ホースに、ポンプ、か)
優太は自身の腕時計――G-SHOCKの盤面を確認する。
彼には、地球のあらゆる品物を取り寄せることができるユニークスキル【地球ショッピング】がある。
しかし、それを使うためには、打算のない人助けなどで得られる『善行ポイント(P)』を消費してガチャを引かなければならない。
金曜カレーや、輝夜のための日本の調味料を出したことで、優太のポイント残高はすっかり心もとなくなっていた。
「……しゃあねぇ。ひとっ走り、稼いでくるか」
優太はパーカーの袖を肘までまくり上げると、誰にも見つからないように、集会所の裏手から姿を消した。
*
数時間後。
ポポロ村の郊外にある森の中で、異様な光景が繰り広げられていた。
「シッ……!」
短い呼気と共に、優太のワスプ薙刀が銀閃を描く。
ギャァァッ! という悲鳴と共に、村の畑を荒らそうとしていた低級魔獣・ゴブリンが次々と吹き飛ばされていく。
優太の動きは、普段の冷静沈着な戦術医療とは全く違う。とにかく手当たり次第に、周囲の害獣を片っ端から殲滅する『ポイント稼ぎ(ファーミング)』の動きだった。
『ピコン。害獣退治(軽度)……100P獲得』
『ピコン。害獣退治(軽度)……100P獲得』
脳内に響くシステム音を聞きながら、優太は額の汗を拭った。
「ちぃっ、ゴブリンじゃ大したポイントにならねぇな……」
実はここに来る前、優太は宿屋『月見亭』の厨房で、尋常ではないスピードで皿洗いをこなし(1P獲得×100枚)、村のあぜ道の溝掃除を一人で完璧に終わらせ(50P獲得×10箇所)、さらには荷物を運ぶおばあちゃんを猛ダッシュで手伝って(100P獲得)きていた。
ルナミス帝国軍の誇るハイブリッド軍医が、愛する女(予定)の農作業を楽にするためだけに、限界まで身体を酷使して雑用と魔獣狩りに精を出しているのだ。
「オゥオゥオゥ! 優太、お前こんな森の奥で何しとんねん!」
ふいに空間が割れ、金ジャージにサンダル姿のリキ兄貴が次元跳躍で現れた。
泥だらけになってゴブリンを狩り続ける優太を見て、リキはポカンと口を開ける。
「お前、非番やろ? なんでそんな血眼になってゴブリンの群れ追いかけ回しとるんや。しかも、なんか溝掃除のヘドロの匂いもするで?」
「うるせぇ。今忙しいんだよ、話しかけんな」
「……あー、なるほど。さてはアレか? 姐さんが『ホースが欲しいなぁ』とか言うとったから、お前のそのポイントで出したろと思っとるんやな?」
ニヤニヤと笑うリキの言葉に、優太の肩がピクリと揺れた。
「ヒュー! 愛の力は偉大やなぁ! あのクールな軍医殿が、姐さんのために泥水すすってポイント稼ぎとは! よっ、スパダリ! 過保護!」
「……リキ。お前、一回三枚におろしてやろうか?」
「おっかない顔すんなや! ワイも姐さんのためなら一肌脱いだるわ! ほら、向こうにロックバイソンの逸れ魔獣がおったで! あれ倒したらボーナスポイント入るんちゃうか!?」
「マジか。……行くぞ」
「切り替え早っ!」
かくして、軍医とヤンキー聖獣の、輝夜のためのオーバーキルなポイント稼ぎが幕を開けた。
*
夕方。
村の畑で陽薬草の苗をチェックしていた輝夜のもとに、優太が戻ってきた。
「輝夜」
「あ、優太さん! どこに行ってたんですか? ずっと探して……えっ、どうしたんですかその泥だらけの服! 擦り傷まで!」
輝夜は慌てて駆け寄った。
優太のグレーのパーカーは泥とゴブリンの返り血で汚れ、頬には小さな擦り傷ができていた。
「いや、ちょっと村の周りをパトロールしてな。……それより、これを使え」
優太がドサッ、と地面に置いたのは。
太くて頑丈な『工業用耐圧ホース』の束と、魔石を動力にして動くように改造された地球製の『高性能ポータブル給水ポンプ』だった。
それらは、優太が必死で稼いだポイントと、輝夜を想う純粋な『運命力(レア度上昇補正)』が引き起こした、100Pガチャの超大当たりアイテムだった。
「これ……地球のホースと、ポンプ!? どうして……」
「俺のスキルで出た。あんた、昼間にこれが欲しいって言ってただろ」
優太はタバコを取り出しながら、何でもないことのように言い放つ。
「俺のポイントは、こういう時のためにあるんだ。あんたは村の頭脳なんだから、水汲みみたいな重労働で体力削るな。……使えるものは、俺でも何でも使え」
「優太、さん……」
輝夜の胸が、ぎゅっと締め付けられた。
自分が集会所でこぼした些細な悩みを、彼は裏で聞いていてくれたのだ。
そして、この泥だらけの服。
スキルを使うために、どれだけ彼が裏で奔走してくれたのか、霞が関で死ぬほど働いてきた輝夜には痛いほどよくわかった。
「……ふふっ。優太さんって、本当に不器用で、優しすぎます」
輝夜は自分のポケットから清潔なハンカチを取り出すと、背伸びをして、優太の頬についた泥と血の汚れをそっと拭った。
「っ……」
至近距離から香る、輝夜の石鹸のような清潔な匂いに、優太の身体が硬直する。
「ありがとうございます。優太さんが私を助けてくれるから、私はこの村で頑張れるんです。……大切に、使わせてもらいますね」
輝夜が満面の笑みを向けると、優太は真っ赤になった顔を誤魔化すように、ふいっとそっぽを向いた。
「あー……。おう、さっさと水路完成させろよ。……今日の晩飯は、ちょっと豪華に頼むわ」
「はいっ! 腕によりをかけて作りますね!」
照れ隠しで逃げるように歩き出す優太の背中を見つめながら、輝夜は手の中のホースをぎゅっと抱きしめた。
彼の無骨な優しさが、たまらなく嬉しかった。
二人の間に、確かな温かい絆が結ばれていく。
しかし、その光り輝く平和な村の片隅で。
彼らの活躍を忌々しげに見つめる、不気味な影――死蟲王サルバロスの手先である『死蟲機ネクロミミック』が、音もなく潜入し始めていることに、まだ誰も気づいていなかった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
クールで最強なスパダリ軍医が、愛する女の「ホースが欲しい」という一言のために、皿洗いやドブ掃除、ゴブリン狩りに精を出すギャップ回でした!(笑)
リキ兄貴に「過保護!」と突っ込まれながらも、輝夜のために泥だらけになる優太の愛情、伝わりましたでしょうか?
泥を拭ってあげる輝夜と、真っ赤になって照れ隠しする優太の尊い距離感に、
「優太、不器用すぎるけど最高!」
「リキ兄貴のツッコミが的確w」
「二人の絆が尊い……!」
と少しでも胸キュン&ニヤニヤしていただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】をポチポチッと押して【★★★★★】にし、応援していただけると、作者の執筆スピードが限界突破します!!
皆様からの「星(評価)」と「ブックマーク」が、優太のガチャ運(運命力)をさらに引き上げる最強のパワーになります!
(本当に数秒で終わりますので、どうかポチッとご協力をお願いいたします…!)
次回『第10話:忍び寄る影。不気味な死蟲機の暗躍』
ついに村の平和を脅かす敵が侵入!? しかし、輝夜には最強の男たちがついています! お楽しみに!




