毒舌教師ネギオとの知恵比べ! 備前焼の樽と村の流通革命
毒舌教師ネギオとの知恵比べ! 備前焼の樽と村の流通革命
ポポロ村の朝は、今日も賑やかだった。
「ああっ、今日も駄目だったぁ……ネギカリバーのネギがもらえねぇと、うちの婆さんに怒られちまう……」
「ネギオ先生の論破、容赦なさすぎだろ……ぐすっ」
村の広場の一角にある寺子屋兼鍛冶場の前で、数人の農家のおじさんたちが頭を抱えて泣き崩れていた。
彼らの視線の先には、切り株に腰掛け、ポポロシガーの紫煙をふかしながらポポロ・コーヒーをすする奇妙な姿があった。
植物のような緑色の肌を持つ人型樹人――ポーンの突然変異体であり、ポポロ村の教師兼鍛冶師を務める『ネギオ』だ。
彼はルナミス帝国の経済講座1級や、ドンガン地下帝国鍛冶師通信講座1級を取得した超インテリであり、同時に村で一番の毒舌家でもあった。
「ふん。毎朝毎朝、同じような浅はかな理屈で私に挑むとは、学習能力がないんですか? そんなスッカスカの脳みそでは、美味しいネギカリバーのお裾分けはできませんよ」
ネギオは手にした自身の武器――無限に伸び、鋼鉄すら切り裂く『ネギカリバー』をチラつかせながら、鼻で笑った。
「なんだ、あれ?」
少し離れた場所からその様子を見ていた優太が、アメスピを咥えながら呆れたように呟く。隣ではリキが「おおっ! 今日もネギオの説法ゲームやっとるな!」と楽しそうに笑っていた。
「リキさん、説法ゲームってなんですか?」
輝夜が尋ねると、リキは解説してくれた。
ネギオの持つネギカリバーから切り落とされるネギは、どんな料理に入れても絶品となる極上の食材らしい。しかし、ネギオからそれを分けてもらうには、彼との『論理・論破ゲーム』に勝たなければならないという。
「なるほど……。知恵比べ、ですか」
輝夜の瞳の奥で、カチリと何かが音を立てた。
霞が関で鍛え上げられた、元エリート官僚の血が騒ぐ音だ。
泥沼夫婦の一件で村の農業コミュニティの基盤を整えた輝夜は、次のステップ――『村の経済と流通の改善』に目を向けていたのだ。
「優太さん、リキさん。ちょっと行ってきますね」
「おいおい、相手は村一番のインテリでひねくれ者だぞ。泣かされても知らねぇぞ」
「大丈夫です。少し、お話をしてくるだけですから」
輝夜はふわりと微笑むと、ネギオの前に歩み出た。
「おはようございます、ネギオ先生」
「おや」
ネギオはメガネ(伊達メガネらしい)を中指で押し上げ、輝夜を品定めするように見つめた。
「あなたが噂の、泥沼夫婦を救ったという元お役人さんですか。ふん……霞が関とやらがどれほどのものか知りませんが、効率ばかり求めて中身がすっからかんなおつむでは、私のネギは渡せませんよ」
「ネギをいただきに来たのではありません。今日は、ネギオ先生に『村の流通』についての提案があって参りました」
輝夜は堂々と胸を張り、言葉を紡ぎ始めた。
「このポポロ村は、地下でドンガン地下帝国と繋がり、隠田で作ったサンライスやポポロ・タバコを密輸して技術提供を受けていますね。しかし、村の帳簿を見せていただいたところ、輸送中の『鮮度低下によるロス』と『魔力漏れ』が原因で、不当に買いたたかれている部分があるように見受けられます」
「……ほう」
ネギオの目の色が変わった。ただの村人ではなく、本物の政策ブレーンとしての視点に気づいたのだ。
「経済とは富の偏在であり、強者が弱者を搾取するシステムに過ぎません。圧倒的な技術力を持つドンガン帝国に対し、我々ただの農村が買いたたかれるのは資本主義の必然。それをどうにかできるとでも?」
ネギオの鋭い反論に、優太が「やれやれ、可愛くねぇ理屈だ」と眉をひそめる。しかし、輝夜は全く動じなかった。
「『利に放って行えば、怨み多し』です」
「……論語、ですか」
「はい。目先の利益や搾取のシステムはいずれ破綻します。重要なのは、人々の生存を心地よいものにする『合意と工夫』です。渡辺京二氏の『逝きし世の面影』をご存知ですか?」
輝夜の口から飛び出した地球の思想書のタイトルに、ネギオが息を呑んだ。
「かつての日本の文明は、決して物質的に豊かではなくとも、人々が困窮せず、心が満たされる質朴な習俗を持っていました。経済の効率化は必要ですが、それによってコミュニティの温かさを失ってしまえば、本末転倒です。私が目指すのは、利益を追求しつつも、村人たちが笑顔でいられる『コミュニティデザイン』なんです」
輝夜はそう言うと、背後に控えていた優太に目配せをした。
優太は「ほらよ」と、輝夜が今朝【月詠の窯】で創り出しておいた『大きな樽』をドンッと地面に置いた。
土をこねて創り出された、魔力を帯びた備前焼風の保存樽だ。
「これは、私のスキルで創った『魔導備前焼の樽』です」
「なっ……なんだこの樽は。信じられないほどの浄化の魔力と、空間の時間を止めるような強固な保存結界が張られている……!」
鍛冶師でもあるネギオは、その樽の異常性にすぐに気がつき、咥えていたポポロシガーをぽろりと落とした。
「この樽に、サンライスやポポロ・タバコを入れてドンガン帝国へ輸送します。これを使えば、輸送中のロスは完全にゼロ。さらに、樽の浄化作用によってタバコの香りは熟成され、サンライスの魔力価は倍跳ね上がります」
「……」
「輸送コストを大幅に削減した上で、付加価値のついた最高級品としてドンガン帝国へ納品する。取引条件の見直しを要求するのに、これ以上の武器はないはずです。いかがですか、ネギオ先生?」
輝夜の完璧なプレゼンテーションに、周囲で見ていた農家のおじさんたちは口を開けて固まっていた。
沈黙が広がる。
やがて、ネギオは深々と溜息をつき、パチパチと乾いた拍手を送った。
「……恐ろしい女だ。まさか、村の密輸ルートの弱点を的確に突き、それを解決するための絶対的なインフラまで自前で用意してくるとは。……霞が関のエリートというのは、皆あなたのようにえげつない手札を持っているのですか?」
「ふふっ。私はただ、皆さんが笑ってお酒を飲める環境を整えたいだけですよ」
輝夜が朗らかに笑うと、ネギオは降参だと言わんばかりに両手を挙げた。
「完璧なプレゼンです。合格ですよ、お役人さん。ドンガン帝国との再交渉は、この私が責任を持って引き受けましょう。……ほら、約束の報酬です」
シュバッ! とネギオがネギカリバーを振るうと、みずみずしく美しい極上のネギが三本、輝夜の腕の中にすっぽりと収まった。
「わぁ! ありがとうございます! これで今夜は美味しいお鍋ができますね!」
「おおっ! 姐さんスゲェ! あのネギオを口八丁で黙らせよったで!」
リキが大興奮で輝夜の肩をバンバンと叩く。
「……たく。うちの女(予定)、すごすぎだろ」
優太はアメスピの煙を細く吐き出しながら、半ば呆れたように、けれど隠しきれない誇らしさを瞳に浮かべて輝夜を見つめていた。
ただ守られるだけのひ弱な女じゃない。
己の知識と力で、したたかに、そして圧倒的な優しさを持って世界を変えていく。
そんな輝夜の姿を見るたびに、優太の胸の奥にある『独占欲』が、心地よい熱を帯びて膨れ上がっていくのだった。
「優太さん、リキさん! 今夜は美味しいネギと肉椎茸のお鍋ですよ!」
「おう。俺が出汁と、美味い酒を用意しとく」
「っしゃあ! 姐さんの鍋、最高や!」
夕日に照らされる村の広場で、最強の男二人に挟まれて笑う輝夜。
彼女のコミュニティデザインは、ポポロ村に確かな豊かさと笑顔をもたらし始めていた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
輝夜の内政チートが炸裂する第7話!
ただの村おこしではなく、『論語』や『逝きし世の面影』といった思想書、そして山崎亮氏の『コミュニティデザイン』の理論を異世界に持ち込み、毒舌インテリ教師のネギオを見事に論破しました。
チートバフ樽で流通革命を起こす輝夜の姿に、優太の心の中ではついに「うちの女(予定)」という強烈な独占欲のワードが飛び出しましたね……! スパダリ軍医のデレが着々と進行中です!
「輝夜ちゃん、賢くてかっこいい!」
「優太の『うちの女(予定)』にニヤニヤした!」
「極上ネギのお鍋、絶対に美味しい!」
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次回『第8話:【閑話・優太視点】泥臭い軍医が、綺麗な月に絆される時』
お待たせしました! 次回は優太の視点で、彼がいかに輝夜に惹かれ、執着し始めているかが語られます。バズり必須の激甘回ですので、絶対にお見逃しなく!




