00.プロローグ
画面に文字が流れていく。
時刻、エラーコード、どのプログラムが暴れているのか、それとも黙り込んでいるのか。
無機質な黒い画面に意味のある一行を探して目を走らせるが、文字はそれを嘲笑うかのように上へ上へと押し流されていく。
真夜中のシステム障害。何度同じことを繰り返してきたのだろう。
書き方の古いコードが残り続け、『ここには触れるな』という知らない誰かのメモ書きすら散見される。問題の先送りなのか、備忘録なのか、忠告なのかは分からない。これを残した人の苦心だけが感じられる。
こんなもの、お金をかけてでも一から作り直すべきなのに。
上司に何度言っても、返ってくるのは予算や工数、現場への影響といった理由ばかりだった。 何か問題があれば夜中でも呼び出されて、動かせと言われて動かすしかない。
応急処置を繰り返しているだけで、システムはボロボロだ。じわじわと疲労に侵食されていく自分の心身と重ね合わせて、無機質な文字列に同情すらする。
スーツのジャケットが重い。それでも脱ぐ気すら起きない。
いっそこのまま消えてしまいたい――そう思いながら頭を抱えて机に突っ伏した。
途端に、波に攫われるような猛烈な眠気が押し寄せる。
そして、全身の細胞が泡立つような不快感。ぞわりと皮膚の内側が粟立った。
細胞ひとつひとつが身体から剥がれてこぼれ落ち、それらが『何か』に変化しながら散らばっていく感覚。
『何か』の正体は直感的に分かっていた。
文字だ。
記号や数字が混ざり合いながら、自分という存在を構成していたものを分解していく。
自分がデータに置き換わっていく。不思議な感覚。
あり得ない現象のはずなのに、どこか現実味があった。
モニターに流れ続ける文字列のように、意味を持った情報の一部になって、静かに世界に溶け込んでいく。




