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夢その3

策は無い。だが俺には父親譲りの運動神経と動体視力がある。


この二つさえあれば、あいつの魔法を回避できる……かもしれない。


もし躱すことができたら、あいつの顔面に俺の全力を込めた拳を叩き込んでやる。


……うん、大丈夫かな?


……いや、何を弱気になってる。あの怒りはどこへ行った?すぐに霧散するほどちっぽけな怒りじゃないだろ。お前が宿した怒りはそんな程度じゃない。




「「「助けてくれー!!!」」」




反射的に、助けを求める声がした方へと視線を向けた。


前方右隅に、肉食獣に追い詰められ戦慄する草食獣のような三人の男子生徒が身を寄せ合って固まっていた。


隅へと追い詰められた男子生徒たちは、迫りくる黒衣の戦士に向かって、叫ぶように命乞いをするが、




「ここにいる人間を一人残らず殺すのが我が役目。恨むなら己の運命を恨め。平和のために死ねーーッ!『風切かざきり』ッ!」




生徒たちの懇願むなしく、黒衣の人物は無慈悲にも魔法を放った。


くそっ、間に合うか!?


右の拳を固く握り締めながら、黒衣の人物へと全力で駆け出した。




「「「うわーー!!!」」」




男子生徒たちは現実から逃避するように固く瞼を閉じ、喉が枯れる程の声量で叫んだ瞬間、




「やめろーーーー!!!」




――!?




そう言いながら黒衣の人物へと向かって走り出す男子生徒がいた。長身、茶髪、そして胸にはコサージュを付けている。


しかし、時すでに遅しで無駄であった。


男子生徒たちの体は惨憺たる屍へと成り果てていた。




くそっ、間に合わなかった……。俺が早く行動をしていれば防げたかもしれないのに……まずいっ、あの人は――あれ?どこに?




同じく黒衣の人物へと駆け出したはずの男子生徒を、俺は左右に視線を走らせて探していると、




「これでもくらいやがれェェェ!『鉄メタルの衝撃インパクト』ッーー!!」




体育館に並ぶパイプ椅子を、丸太と見紛う太い両腕でがっしりと掴み、そのままハンマー投げの様に全身を高速回転させ、遠心力を乗せて黒衣の人物にめがけて投げつけた。




「ッ、痛いってーー!!」




ゴンッという鈍い音と共にパイプ椅子が後頭部に命中した。黒衣の人物は悶絶し、両手で頭を抱えながら、床の上をゴロゴロと転げ回っている。




「ッしゃーーーー!!!どうよ俺の鉄メタルの衝撃インパクトはよぉ」




渾身の一撃をクリーンヒットさせた男子生徒は、嬉々とした表情を浮かべ、鼻の下に人差し指を当てて誇らしげに擦った。


だが、喜ぶのも束の間。


無様にのたうち回っていた黒衣の人物は、よろめきながらも立ち上がり、見る者を戦慄させるほどの凄まじい形相で激昂した。




「ッーー!お前はぜぇええたいにすぐには殺さない。お前が謝ろうがじわじわとなぶり殺しにしてやるわ!!」




渾身の一撃を叩き込んだはずの男子生徒は、それが通じなかった事実に、両手で頭を抱え込み愕然とした。




「おいおいおいマジかよ……」




「我を誰だと思っているんだぁ?ふっ、生半可なKASが相手なら我が遅れを取ることはない。それくらいには強いよ、我は」




黒衣の人物は男子生徒の絶望に染まった顔を邪悪な双眸で嘲笑うかの如く見据え、




「まずは左腕からだ」




下ろしていた右腕をゆっくりと上げる。同時に殺気が放たれる。


黒衣の人物から放たれる刺々しい殺気が俺の全細胞を戦慄させ、下半身の活動を断たせた。俺の体内にある危険感知メーターの警鐘が鳴りやまない。




う、動けない……




「やべっ!」




男子生徒は危機を察知したのか顔に焦りを出している。だが逃走する気配は微塵も感じられない。


……逃げないんじゃない、逃げられないのか。俺と同様あの刺々しい殺気が原因で足がすくみ上がってしまっているんじゃ……?




まずい、このままでは彼が殺られる。


くそっ、動け!俺の足!動けよ!


そう自分に怒りをぶつけている刹那、




「『風切かざきり』ッ!! 」




黒衣の人物が男子生徒にめがけて右腕を素早く外側にスライドさせた。軌跡から放たれた魔法の空を切る大きな音が耳を振動させる。


男子生徒は固く瞼を閉じ、網膜に映る凄惨な現実を拒絶していた。




――ドサッ




「……!?お、お前なんで俺を助けたんだ……?殺されるぞ!」




俺は男子生徒を突き飛ばした。行けば自分も殺されるということをわかっていながらも。


……良かった、間に合って。まだあいつの攻撃は続くと思うから安堵できないけど。




俺が突き飛ばしたが故に床に倒れていた男子生徒は立ち上がり、




「お、おい!」




少し怒り気味に言ってきたが、




「早くここから逃げましょう、俺についてきてください!」




俺は体育館の倉庫を指さした。


男子生徒は不思議そうな面持ちになっていたが、ハッとしたような顔になり頷いた。


俺は振り返り、黒衣の人物を一瞥する。黒衣の人物は怪訝な表情をしており、先程放たれていた殺気は感じられない。


今がチャンスだ。


俺は男子生徒に合図をし、共に目標である倉庫へと走り出した。




***


黒衣の人物は訝しげるような面持ちで顎を撫でている。




「何故当たらなかったんだ……?我より後ろにいたあのガキが風切より速く動けるわけがねぇ。まさかあいつが……?いやそれは早計か。まあいい、我の使命は全員を殺すことだ。あいつがどっちであろうと関係ない……いや、関係あるか。それよりもだ、あいつはぜってぇに許さねぇ。我は早くお前が苦悶している表情を拝みたいぞ!」




黒衣の人物は二人を追うべく倉庫へと駆け出した。




夢その4へ続く

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