第27話 ガチャについて突っ込もう
〔・これが、大人の営み〕
「破廉恥極まりないですの!」
エリザベスとクリスが来た翌日の朝。
早くに目覚めたエリザベスが、立て札の導きによって目撃したのは、普段よりもいかがわしい状態で耕助にしがみついてすやすや眠るシェリアの姿であった。
「……なんだ?」
〔・おはよう、耕助。
・ただいまエリザベスの性教育中〕
「人をそういうことに使うな。後、まだ一線は越えてないはずだが……」
〔・ん。残念ながら、まだお互いに清い体。
・シェリアも寝てるところを襲って致すほど
・欲求不満がたまってるわけでもないっぽい〕
「なんでお前が残念そうなんだ……」
〔・それはもう
・かわいい赤ちゃんを切望してるから〕
予想外の理由に、思わず意外そうな表情を浮かべる耕助。
今までの言動が言動だけに、もっと下世話でゲスい理由だと思ったのだ。
「……分からんではないが、俺がシェリアと子供作るよう誘導するんじゃなくて、自分で相手を捕まえて生むという選択肢はないのか?」
〔・今それどころじゃない。
・でも、身近にかわいい赤ちゃんは欲しい。
・別に人間じゃなく動物の赤ちゃんでもいいけど
・その島だとむしろそっちのほうが絶望的……〕
昨今のコンプライアンス的に割とアウトな耕助の質問に対し、どことなく遠い目をしているような雰囲気でそう答える立て札。
〔・新しい弟か妹をねだる手もなくはないけど
・まずは父をその気にさせるという多大なハードルが。
・父は耕助なんて目じゃないぐらい
・子作りのための行為に消極的というか逃げ腰〕
「それで、よくお前が生まれたな……」
〔・母たちの、それはもう筆舌に尽くしがたい努力が。
・と、それよりも
・そろそろシェリアを引きはがして起きたら?〕
「今日の体勢はいつになくすさまじいから、どう引きはがせばいいか分からなくてなあ……」
「確かに、どこを触っても破廉恥ですの……」
家族の話から話題をそらすように、立て札が耕助の現状を指摘する。
それに対して、あきらめの表情でそうぼやく耕助と、見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに目をそらすエリザベス。
あまりに破廉恥すぎて、しがみつかれている耕助自体がどうにもできない。
「立て札様、姫様の教育に悪いものは見せないようにとお願いしたはずですが?」
〔・ここで暮らす以上
・遅かれ早かれ目撃する光景。
・こういうのは初手で見ておいたほうが
・ショックが少ないはず〕
「……それはそうかもしれませんが……」
〔・あと、シェリア。
・そろそろ寝たふりはやめてちゃんと起きる〕
「ふぁ~い……」
立て札に言われ、素直に起きるシェリア。
とはいえ、ものすごく眠そうな様子を見るに、寝たふりというより単にまだ起きたくなかっただけというのが正しいようだ。
「シェリアも無事に離れてくれたことだし、朝の作業だな」
「畑仕事ですの!?」
「そりゃ当然」
「やりますの! 全身全霊で耕しますの!」
耕助の言葉に、全身で喜びを示すエリザベス。
耕助的には、シェリアの伐採や採掘に対する執着もよく分からないが、エリザベスの農作業に対する熱意もいまいち理解できない。
「じゃあ、私は掘ってきます」
「まだ倉庫はギリギリだから、あまり掘りすぎないようにな」
「はーい」
耕助の言葉に生返事をし、雑に服を整えて出ていくシェリア。
なお、レティは巣穴周辺の掃除をするから、今日は来るのが遅れると昨日帰り際に耕助たちに伝達している。
なので、早くても朝食が終わるまでは来ないだろうと思われる。
「エリザベスも、筋を傷めたりしない程度にしろよ? この島だと、基本的にまともな治療ってできないからな?」
「分かっていますの!」
「そこは、私が様子を見て止めるようがんばります」
「……任せた」
人が増えたことで、余分な気苦労も増えた気がする。
そんなことを考えながら、耕助は十一日目の朝の仕事を開始するのであった。
「そろそろ、ニンジンやダイコンとほうれん草の中間ぐらいの難易度の作物が欲しいなあ……」
「と、いいますと?」
「農業の腕を鍛えるのに、今のままだとちょっと停滞感があってなあ……。今のままだと、いつほうれん草が育てられるようになるか、分かったもんじゃないんだよ。ほうれん草より難易度が高いらしい米とか小麦に至ってはな……」
「それは、確かに大問題ですね」
作業をしながらの耕助のボヤキに、クリスが思わず真顔になりながら同意する。
エリザベスやクリスの国はパンがメインではあるが、米もそれなりに食べる食文化である。
なので、米と小麦がいつ栽培できるか分からないというのは、かなり危機感をあおられる話だったりする。
「あの、ほうれん草はどうやっても無理ですの?」
「いや、昨日も軽く話したかもだが、多分八割ぐらいの成功率はあると思うんだ」
「八割ですの……? 確かに、ちょっと心もとない成功率ですの……」
ほうれん草の成功率を聞き、確かに賭けるにはためらわれる確率だと納得するエリザベス。
五回に一回失敗すると考えると、割と普通に失敗する確率だと言っていいだろう。
これが、安定して入手するあてがあるものならともかく、今手元にある分しかないものだと、勝負に出るには躊躇われる確率である。
しかも、失敗するとダイレクトに食生活にダメージが来るのだから、なおのことだ。
「ああ。種が十個ぐらいしかないから、俺の運だと普通に全滅の可能性があるんだよな……」
「耕助さんの運って、そこまでですの……?」
「そこまでなんだよ。何せ、99%を五連続で失敗するんだから」
「それはすごいですの……」
耕助の壮絶な運のなさを聞かされ、それならば賭けに出られないのもしょうがないと納得するしかないエリザベス。
この島に流れ着いた経緯を考えると、エリザベスも大概運がないほうだと言えなくもないが、それでもくじ運的なものに関してはそこまで悪くもなかった。
そんなエリザベスでもそこまで気軽に賭けられない確率なのだから、自分の運が壊滅的だと自覚がある耕助だとチャレンジできないのも無理からぬことだろう。
「種がもっとたくさんあるか、継続的に手に入る当てがあればチャレンジする踏ん切りもつくんだけどなあ……」
「そうですね。普通に考えても、十個しかないというのは少ないですし……」
耕助のボヤキに、クリスが同意する。
結局のところ、種の数が少ないのがネックなのだ。
「そういえば、種はどうやって手に入れているのです?」
「収穫した作物を、錬金術で種に変換してるんだ。だいたい作物一つで二つから三つの種ができる」
「その変換率だと、半分以上成功しないとどんどん減っていきますの」
「そうなんだよな。最近はウォーレンが種を作ってくれるんだが、品質の影響を受けるからやっぱり三つぐらいしか作れないし」
「ほうれん草は、とても難しそうですの……」
種の入手方法を聞いて、現状でチャレンジするのは難しそうだと判断するエリザベス。
種の回収を考えるなら、一回でも成功すればよし、という訳にはいかないのだ。
ちなみに、八割成功する作業を十回連続で失敗する確率は、成功率99%を五回連続で失敗する確率より千倍ぐらい高い。
と言っても、どちらもゼロ金利時代の普通預金金利より二桁以上は小さい数字なのだが。
「うお、うお」
「どり、どり」
そんな話をしながら農作業の後片付けをしていると、ウォーレンとドリーがやってくる。
「ん? いいアイデアって、種をダイレクトに増やせるとかか?」
「うお」
「レベルアップでもしてできるようになったのかと思ったけど、さすがにそこまで都合よくはないか」
「うお、うお」
「どり、どり♪」
「その代わり、種を作れるようになったって、これなんの種だ?」
「うお」
「説明しづらいって、ウォーレンが変なものを渡すとは思ってないけど、それはそれとして胡散臭いな……」
そう言いつつ、手早く地面を耕してウォーレンから渡された種を植える耕助。
恐らく、今までこの畑で育ててきた作物を改良したとか掛け合わせたとかそんなところだろうとは思うが、説明しづらい作物というだけでどうしても警戒したくなってしまう。
なお、今まで育ててきた作物はラディッシュにジャガイモに大根、あとはニンジンとトウモロコシだ。
地球の基準では交配なんてできない組み合わせもありそうだが、そもそもウォーレンとドリーからして蕪と樹木の組み合わせだ。
それ以前の問題として、植えて一晩だの三日だので収穫できる作物にそこを突っ込んでもしょうがないだろう。
「どんなものができるのでしょうね?」
「さあ? でも、感覚的に求めてたぐらいの難易度だし、栽培が安定するまではウォーレンが毎日種をくれるらしいから、割と気軽にチャレンジできるのがありがたい」
「何ができるか、とても楽しみですの!」
ウォーレンのおかげで行き詰った状況を突破できそうということもあり、この日の農作業は明るい雰囲気で終わるのであった。
〔・畑仕事が終わったら
・本日のガチャ〕
「そうだな。さっさとやっとくか」
シェリアも戻ってきてさあ朝食、というタイミングで、立て札がそんな要求を突き付けてきた。
「ガチャですか?」
「また変なのが出るのです?」
「単発だから、多分使えるものは出ないだろうな」
〔・単発ガチャに期待してはいけない〕
興味深そうに質問してくるシェリアとエリザベスに対し、そんな返事をする耕助と立て札。
そもそも立て札のガチャは排出内容が闇鍋にもほどがあるので、結果に期待すること自体が無謀だろう。
「まあ、とりあえずガチャを回してくれ」
〔・りょ〕
耕助の指示に従い、ガチャを回す立て札。
例によってハイレア演出が入り、銀色のカプセルがころりと出てくる。
その中身は……
「どこからどう見ても、充電バッテリー式の電動ドライバーだな……」
〔・これまた、便利だけど
・複数の理由で現状使えない〕
「だな」
現代社会において、DIYをはじめとしたさまざまなところで活躍する、ガンドリルタイプの電動ドライバーであった。
「これはいったいどのようなものなのでしょうか?」
「説明する前に、クリスはネジって知ってるか?」
「ネジ、ですか。最近使われるようになってきましたが、加工が甘くてちゃんと締まらないものが多いので、固定具としてはいまいちですね」
「ああ、そういう感じなのか。うちの国では、ネジはものを固定する一般的な手段になってるんだがな」
「あれは加工が難しいそうですが、技術が発達すればそんな風になるのですね」
電動ドライバーについて説明する前に、前提となるネジについて確認する耕助。
耕助に問われて、自国での利用状況を答えるクリス。
一応ネジは開発されているようだが、まだ初期段階の螺旋状に溝が掘ってあるだけという感じのようだ。
「で、これはネジを締めたり緩めたりする道具を高性能にしたものだ。具体的には、ここの取っ手を握って人差し指でこのスイッチを押し込むと、この先端が自動で回転してねじを締めこんでいく。スイッチを切り替えれば逆転して緩める側に回転する」
「まあ、それはすごいですね」
「もっとも、この島じゃこいつを動かすためのエネルギーが存在しないから、スイッチを押しても回らないんだがな」
〔・さすがに電力は、魔石で代用できない。
・まあ、回ったところで
・ネジがないから意味がない〕
「この島ではそうでしょうね……」
耕助と立て札がつけた落ちに、あきれながらも納得するクリス。
こんな原始的な環境の島で、ネジなんて高度なものがあるはずもない。
なお、電力については何一つ分からないが、よく知らないエネルギーがあるのだろうということで雑に納得している。
「というか、こんな見たことも聞いたこともないものが普通に出てくるガチャって、いったいどんな仕組みになっていますの?」
〔・知らない〕
エリザベスの質問に対し、信じられない言葉を返す立て札。
あろうことかこの立て札、仕組みも何も一切知らないシステムを組み込んで運用しているようだ。
「知らないって、大丈夫なのか?」
〔・あっちこっちに転がってたフリーのプラグインのうち
・いちばん実績があるやつを選んで使ってるだけ。
・だから、ガチャに関してはカテゴリーやピックアップの設定の仕方とか
・排出内容の追加、制限、固定当たりのやり方しか分からない。
・今のところ、このガチャシステムそのもので
・致命的な不具合は報告されてない。
・ただ、排出されたアイテムの影響で
・ひどいことになった事例はあるみたいだけど〕
「そんな胡散臭いもの、なんで組み込んだんだよ……」
〔・ミッション関係のランダム報酬とか
・そういうところにも使えるシステムだったから。
・まあ、根本的には
・世界二つ分のエネルギーとリソースが
・変な形で一つの世界にまとまったから
・どうにかして消費しないとやばかったからだけど〕
「ちょっとまて。もしかして木とか草とか石とかが一晩でリポップするのも……」
〔・ん。そのあたりの消費のため。
・完膚なきまでに偶然の結果だけど
・耕助がこの島に飛ばされてきてくれて
・非常に助かった。
・いくらリポップシステムとかで浪費する仕様にしてても
・それを採取する存在がいないと無意味だから〕
「来た当初から妙に手厚かったのは、そういう理由か……」
〔・そりゃ、大した手間もコストもかからなくても
・趣味だけでメリットなしに手助けするとか
・このクソ忙しい状況でやるわけがない〕
「……まあ、それで助かってるんだから文句は言えんが……」
〔・さすがに情も湧いてるから
・今からだとメリット云々関係なく
・ルールの範囲内で手助けはする。
・エリザベスやクリスを見捨てることはあっても
・耕助を見捨てることはないから安心して〕
「そりゃどうも」
今更ながら、というべきか、今だからというべきか迷う感じの明かされ方をした衝撃の事実に対し、そんな風に気のない反応を見せる耕助。
立て札がこういう性格でこういう考え方なのは、邪神呼ばわりの時に重々承知していたので、特に驚くようなことではない。
むしろ、まだ二週間も経っていないのに、もう見捨てない程度には情が湧いているという事実に驚くぐらいである。
「で、だ。出てくる仕組みを知らないのはいいとして、だ。何が出てくるかをどうやって決めてるかとかも分からないのか?」
〔・具体的に何をどうやってるかは知らない。
・ただ、候補の参照先がアカシックレコードなのは
・マニュアルに明記されてる〕
「まてまてまて!」
恐ろしいことを言い出す立て札に、思わず大きな声を上げる耕助。
さすがに、内容が壮大すぎる。
「そんなもんを参照して、なんで知ってるものばかり出るんだよ!?」
〔・原因の半分は
・食品と種・苗以外の生き物を
・排出しないように設定してるから。
・あとは、ガチャを回す人間の意識や知識に
・ある程度以上引っ張られる仕様になってるらしいから
・それも多少は影響してると思う〕
「電化製品がやたら出てくるのは、そのせいか……」
〔・それは耕助の運。
・あくまでもある程度だから
・存在を知らないシェリアやエリザベスでも
・波動砲とかでてくるし。
・実際、シェリアが元祖鶏がらとか
・ミニス〇ックゴールドとか引いてるし〕
「そういやそうだな……」
渾身の突込みを淡々と立て札に返され、なんとなく納得してしまう耕助。
そもそも耕助自身、簡易量産型ダイアズマーなる未知の人型巨大ロボットをガチャで引いているのだが、その後いろいろありすぎて完全に存在を忘れていたりする。
「あの、立て札様はこの世界の創造神のような立場なのですよね?」
〔・ん。この島は違うけど
・シェリアやエリザベスのいた地域に関しては
・ボクが作って管理運営してる〕
「では、自身の世界にそんな原理も仕組みもよく分からないものを入れて、不安にならないのでしょうか……」
〔・特には。
・人間だって、仕組みも原理もよく分かっていないものを
・便利だからって特に気にせず使ってるでしょ?〕
「それは、はい。そうですね……」
クリスの疑問に対し、あっさりそう答える立て札。
実際、人間の生活においても、仕組みを理解せず使っているものなんていくらでもあるし、原理に至っては理解して使っている人のほうが少数派であろう。
もっと言い出せば、なぜその現象が起こるかが、解明されないまま使われ続けているものだって多数ある。
「でも、立て札さんって、耕助さんの要望に合わせて、アイテムボックスのレシピとか作ってましたよね?」
〔・ん。
・インベントリとかアイテムボックスはボクのほうにも
・見てて楽しくない部分が減らせるっていう
・明確なメリットがあったし〕
「そういうのが作れるんだったら、ガチャの仕組みも自作しようと思わなかったんですが?」
〔・この手のものは、ありものを使うのが一番。
・大体自作するとバグの温床になって
・ろくな目に合わない〕
「そうなんですか?」
〔・過去にいくつかやらかして懲りた。
・特に今回はリソースの消費が最優先だったから
・ありもので簡単に追加できるものに
・そんな時間と手間をかける余裕はなかったし〕
そこまで漏らして大丈夫なのか、という内容を赤裸々に告げる立て札。
それを聞いて、そんなものかと納得するシェリア。
正直、シェリア的には世界の運営なんて壮大な話は、規模が大きすぎてピンと来ていない。
ゆえに、立て札も大変なんだな、ぐらいで終わっている。
「ここまでの話で一番気になったのが、耕助さんが来なかったら誰がガチャを回していましたの?」
〔・それに関しては
・適当に眷族の化身でも呼んで
・耕助がやってるようなことをやってもらうつもりだった〕
「では、耕助さんが来た後に、眷族の方を呼ぶというのは考えませんでしたの?」
〔・最初は考えなくもなかった。
・でも、環境をかく乱するっていう意味では
・島に来ることにボクが関与してない存在だけでやったほうが
・いい感じに進むのが分かったから
・だったら耕助だけにやらせて、自然に増えるに任せようって〕
「わたくしたちもその一環、ということでしょうか?」
〔・そんな感じ。
・まあ、眷族って話になると
・レティが来てるけど〕
「別に妾は立て札に呼ばれて来たわけではないから、来ることに立て札が関与しておらんという条件はおなじじゃがの」
エリザベスの、ある意味一番根本的な疑問に対し、当初の予定と耕助が来たことでどう変わったのかを答える立て札。
そこに、ドラゴンの姿で飛んできたレティが、人間に変身して着地してその立て札の答えに補足する。
〔・あ、レティ。
・家の掃除は終わった?〕
「うむ。後でグレータードラゴンの解体をするから、シェリアも手伝ってくれんかの? 結構な数があっての」
「グレーターですか!? 喜んで!!」
「となると、食料庫も増設せにゃならんか……」
やってきて早々、そんな恐ろしいことを言ってのけるレティ。
よく見ると、森の近くに山のように重なった大量のドラゴンの死体が。
「……グレータードラゴンって、いろんな意味で幻の素材とか食材だったはずですの……」
「……ええ。二大超大国の王家でも、数年に一度手に入れば多いぐらいには、幻ですね。まあ、そもそも、バハムートが普通に採掘をしている島ですので、いまさらといえば今更ですが……」
ありがたみも何もないぐらい、雑に積み上げられたグレータードラゴンを見て、遠い目をしながらそんなことをささやきあうエリザベスとクリス。
ちなみに、エリザベス達の母国は大国の一国には数えられるが、二大超大国と呼ばれている国との間には越えられない壁があるぐらいの規模だ。
具体的には五大国と呼ばれている国の中で、ちょうど真ん中ぐらいの規模と国力を持っている。
もっとも、今回のエリザベスの騒動で、その後どうなるかはなんとも言えない状況になっているのだが。
実のところ、エリザベスの立場は大半の国の王家より上だったりするのだが、そこを考えずに島流しにするあたり、母国の王太子はなかなかに考えなしである。
「しかし、掃除ってのはそういうことだったのか……」
「うむ。まだ一週間も経っておらんというのに、恐ろしく増殖しておっての。放置しておくと環境が悪くなるから、大掃除をしたのじゃ」
「小麦粉のほうがドラゴンの肉より圧倒的に貴重ってのも、すごい環境だよな……」
「畑ですぐにという訳にはいかん以上、しょうがあるまい。あと、浜辺にいろいろ流れ着いておったから、ついでに回収しておいたぞ」
そういって、アイテムバッグからいろいろ取り出して耕助の前に並べるレティ。
レティにはごみと資源の区別がつかなかったからか、大量の海藻に混ざって骨やら人形の頭やらも結構あったりする。
「おっ、助かる。……昆布にわかめか、こりゃありがたい。後は、空き缶にゴム長靴か……」
「耕助さん、耕助さん、立派な大腿骨です! これって、何の骨でしょうね!?」
シェリアとともに、ざっと仕分けをしながら漂着物にコメントをする耕助。
どうにも、ところどころ日本的なものも流れ着いているのが気になる。
「なあ、立て札。この手のも、ガチャシステムでアカシックレコードから読み取ってるのか?」
〔・釣りと籠罠、漂着物は
・基本的にボクが作った世界と
・この島が存在してた世界にあったものだけ
・釣れたり流れ着いたりする仕様。
・一応川と海は分けてるから
・漂着物や海釣りで、川魚の類が採れたりとかはない〕
「ってことは、空き缶とかゴム長靴はこの島があった世界のものか……」
〔・ん。
・一応言っておくと、地球じゃない。
・地球に似た発達をしてるけど
・大陸は一つだったし直径も小さい。
・それに、その惑星以外も全部崩壊してるから
・違う星域のものも流れ着くはず〕
「へえ……。まあ、地球じゃないならいいか……」
立て札の説明に、ならいいかとあっさり流す耕助。
結局のところ、ガチャについて突っ込んでも、この島がかなり不安定でデンジャラスな状況だということが分かっただけなのであった。
宇宙一つ分のエネルギーとリソースが島一つに押し込められた状態で接合されるとか、立て札がアバウトな仕事をするのも耕助の四苦八苦で楽しみたくなるもの当然といえば当然かもしれない。
なお、宇宙二つ分のエネルギーとリソースが融合した状態になってるけど、二倍で済んでるとは誰も言ってないというか、二倍以下で済んでたら多分こんなに苦労してないというか……




