第26話 大きな家を建てよう
「ひもを作る練習は続けてもらうとして、今後の方針を決めたい」
何度もボフンボフン言わせながら草のひもを作っているエリザベスとクリスを見ながら、悩ましい表情でそう切り出す耕助。
それを聞いたレティが、なんのこっちゃという表情を隠そうともせずに口を開く。
「別に好きにすればいいと思うが、そんな大層に方針なんぞ決める必要があるのか?」
「ちょっと規模が大きい作業になるから、いろいろ手を借りることになりそうなんだよ」
「ふむ、言うてみよ」
「レシピが手に入ったし、家を建て直すか新築したい」
耕助の言葉に、やはりかという表情を浮かべるレティ。
一方でシェリアが、大きくショックを受けた表情を浮かべる。
「そ、そんな……。私の安眠が……」
「あのな、シェリア。エリザベスとクリスが来たんだから、こんなちっこい家で全員雑魚寝はダメだろう?」
「みんなで一緒に寝ればいいじゃないですか!」
「エリザベスの教育に悪いからダメ」
シェリアの主張を、サクッと一言で切り捨てる耕助。
そのまま話を続ける。
「大きな家って言っても、エリザベスからすれば自分の部屋より狭いとかありそうだが、そこはさすがにあきらめてくれ」
「大丈夫ですの。そもそも生きていけるめどが立っているだけでも奇跡ですので、普通に横になれるプライベートなスペースがあるだけでも十分ですの」
「そうですね。それに、現状では私物を集める余裕などありませんので、広いスペースがあっても殺風景になって、かえって寂しいだけかと。花を生けるにも、そもそもその花を見かけませんし」
耕助の言葉に、そう思うところを告げるエリザベスとクリス。
人それぞれ、落ち着くために必要な最低限のスペースというのは差があるだろうが、私物がない状態で広いスペースがあっても困るというのは割と共通だったりするようだ。
「ってことで、今日これからやることは、資材集めだな。レシピで使う石と草は十分あるから、主に木材をたくさん集めてきてくれ」
「伐採ですね!」
「のう、シェリアよ。お主、新しい家になることにさんざん文句をつけておったじゃろう?」
「耕助さんを抱き枕にするのと、木材の伐採は別腹ですので!」
「……耕助よ、いろいろあきらめたほうがいいのではないかの?」
「……そんな気はしてるが、一応限界までは抵抗したい……」
いろいろ開き直った感があるシェリアの反応に、遠い目をしながらそんなことを言い合う耕助とレティ。
エリザベスの存在がブレーキになるかと思えば、むしろアクセルになっている感すらある。
そのまま道具とアイテムバッグを持って飛び立っていったシェリアを見送り、レティが自身の予定を口にする。
「まあ、木材関係はシェリアに任せておけばよかろう。妾は適当にダンジョンをつぶしてくることにしようかの」
「ああ、頼む。もしかしたら、使えるものがあるかもしれないしな」
「うむ。現状全く足りぬ繊維関係の素材や道具でも出れば、ありがたいことこの上ないからの」
そう言って伝言板でダンジョンの出現状況を確認し、よさげなダンジョンを見繕って出ていくレティ。
その様子を見ていたクリスが、恐る恐るといった感じで耕助に質問する。
「あの、私たちは本当にひも作りでよろしいのでしょうか?」
「クリスはまだしも、エリザベスに伐採をやらせるのは無謀だと思うんだよな」
「採掘をやらせておいて、今更それは通じない気がするのですが……」
「伐採そのものはできると思うんだけどな。いかんせん、伐った木をエリザベスがここまで運んでこれるイメージがわかなくてな……」
「ああ……」
「わたくしも、運搬関係は無謀だと思いますの……」
耕助の指摘に、まったくもって反論できないクリスとエリザベス。
体格と経歴、どちらの面でもエリザベスが丸太のような重量物を運べる要素が全くない。
アイテムバッグに入れれば問題ないのだが、そもそもアイテムバッグに入れる作業ができるかどうか怪しい。
そこをクリスにやってもらうのも、それはそれでクリスの負担ばかり大きくなって微妙である。
「まあ、そういうわけだから、二人は適当に雑草刈ってひも作っててくれ。そもそも、シェリアがいれば、俺たちが伐採してくる量なんて誤差の範囲だし」
耕助がそう言い切ったタイミングで、飛び去ったはずのシェリアが戻ってくる。
「耕助さん、耕助さん! アイテムバッグの容量って、もっと大きくできませんか!?」
「何個も作って性能を上げていくしかないから、すぐには無理だろうな……」
「そうですか。気分が上がってきたぐらいに満タンになっちゃうので、どうにかならないかなと思ったんですけど……」
耕助の回答にがっかりしながら、伐ってきた木材を取り出して倉庫に突っ込んでいくシェリア。
飛び立って何分も経っていないというのに、すでに二つ持って行ったアイテムバッグが満タンである。
その量は、後二往復かせいぜい三往復すれば、東屋なら十分に建てられるぐらいである。
アイテムバッグを空にしたところで、再び伐採のために飛び立つシェリア。
それを見送ってから、エリザベスとクリスのほうを向く。
「と、いうわけだ。どう考えても、シェリア一人で十分だろ?」
「「確かに……」」
耕助の言葉に、心の底から同意するエリザベスとクリス。
恐らく三十分もあればシェリア一人で、耕助たちが三人がかりで集められる木材一日分を余裕で集めてしまうだろう。
「そういう訳でだ。畑仕事も終わった現状、二人にやってもらえることも特にないから、後々のことも考えるならひも作りだろうな」
「分かりましたの。頑張ってひもが作れるようになりますの」
「一応、釣りをしてくるっていう選択肢もあるにはあるんだけどな」
「しばらく海には近づきたくありませんの……」
「だろうな……」
エリザベスの本音に、心の底から納得する耕助。
数時間とはいえ、いつ転覆してもおかしくない筏で漂流してきたのだ。
トラウマ的なものも含めて、しばらく海に近づきたくないと思うのは仕方ないことであろう。
こうして、この日の耕助たちの行動と、今後どうするかの簡単な方針が決まったのであった。
「まずは石材を加工して、基礎のパーツを作っていくか」
倉庫の中や作業手順を確認し、真っ先にそこを済ませることにする耕助。
建て替えか新築か、また新築の場合どこに建てるかといった問題は、パーツがそろってから考えることにするようだ。
なお、ウォーレンとドリーは、二人そろって日向ぼっこを続けている。
今日の農作業は終わっているので、現状彼らのやることはない。
〔・ちなみに、耕助に耳寄り情報。
・建て替えなら、アップグレード作業でいけるから
・作業の負荷も建築時間も大幅軽減が可能〕
「そうなのか」
〔・ん。
・その代わり、間取りとかは
・一切調整できないけど〕
「今の段階では、気にしなくていい奴だなそれ」
〔・だと思う。
・家に住むのは、レティ入れてもたった五人。
・今のところ、与えられた部屋に文句言う人間はいない〕
「だよな、多分」
立て札の情報を聞き、今回は楽をしてよさそうだと考える耕助。
新しい家は今の家より十倍以上大きくなるため、レティとシェリアの手を借りても数日はかかりそうだったのだ。
もっとも、そもそもの話をするなら、六畳ぐらいの広さしかない今の家が小さすぎると言えるのだが。
「まあ、どっちにしても、実際の改築作業に入るのは明日からだな。改築作業って、アップグレードだとどれぐらいかかる?」
〔・半日ぐらいだと思えばいい〕
「そんなもんか。だったら、朝起きてすぐに始めればちょうどよさそうだな」
立て札にアップグレード作業にかかる時間を確認し、そんな予定を立てる耕助。
さすがに建物の場合、窯のような設備と違って、アップグレードを宣言して一瞬で終わるとはいかないようだ。
「じゃあ、明日朝一でアップグレードに入れるよう、急いで作業を進めるか」
〔・がんばれ~〕
立て札の応援を受け、作業のペースを上げる耕助。
その後ろでは、エリザベスやクリスがぼふんぼふんと紐を爆発させ続けている。
それにつられてか、耕助もいくつかのパーツを失敗したり、せっかく組み立てたパーツが呪われたりと、時々トラブルに見舞われる。
「……やばいな。資材はシェリアのおかげで十分足りるけど、アップグレードで呪われたログハウスになりかねないぞ、これ……」
〔・そんな耕助に、アップグレードの利点その二。
・マニュアルでの建て替えや新築と違って
・材料もしくはアップグレード前の建物が呪われてない限り
・アップグレード後の建物は呪われない〕
「そうか。だったら、加工中のパーツの管理をしっかりしなきゃいけないな」
〔・そういうこと〕
立て札の説明に若干安心しながら、今まで作ったパーツが呪われていないか再確認する耕助。
幸いにして、今のところ呪われているものは存在しないようだ。
そのまま、パーツづくりを再開する。
その間にもシェリアはどんどん木材を運んできて、レティはどんどんダンジョンを攻略していく。
問題が発生したのは、そろそろ七割がたのパーツが完成するというタイミングであった。
「耕助さん、倉庫に木材が入らなくなりました!」
「……容量が限界か。もう一個作るしかないか?」
調子に乗ったシェリアが、伐採をやりすぎたのだ。
「とりあえず、今日のところは適当に積み上げておこう」
「はい!」
追加の倉庫を作るのは手間だからと、とりあえず前のように適当な場所に積み上げておくことにした耕助。
そもそも、家電製品とかはいまだに野ざらしで積み上げているので、すぐに使わない資材も同じ扱いで構わないだろう。
「で、木材は十分だから、ちょっと森で果実とか探してくれないか?」
「はい!」
耕助に頼まれ、元気よく飛び出していくシェリア。
食料庫のほうは、まだまだ十分に余裕がある。
「さて、今のうちに少しでも倉庫の容量を空けないと……」
「ついにちゃんとできましたの~!」
「おめでとうございます、姫様」
シェリアを送り出して数秒後に、ようやく草ひもを完成させたエリザベスが歓喜の叫びをあげる。
その横で、またしても草ひもをボフンと消滅させたクリスがエリザベスを祝福する。
「なんだか突然、いろんなものの作り方が頭の中に浮かび上がってきましたの」
〔・おめでとう。
・ついにクラフトスキル習得〕
「これがそうなんですの?」
〔・ん。
・ちなみに、頭に浮かんだレシピは
・今の技量で作れるもの。
・その中には、耕助が報酬でもらったものもある〕
「ああ、一応報酬のレシピは共有なんだな」
〔・ちゃんと共有。
・ただし、耕助は作れないレシピも参照できるけど
・他の人間はレシピ入手時点でスキルもってなかったら
・スキルの熟練度が製作可能なレベルに育つまで参照不能〕
エリザベスがスキルを習得したのを機に、せっかくだからとレシピ関係の仕様について説明する立て札。
何気に、エリザベス達が来るまで、耕助以外に新しくスキルを習得する可能性がある人間がいなかったので、このあたりの説明をする機会がなかったのだ。
「製作可能と判定される範囲を教えていただいてもかまいませんか?」
〔・ん、いい質問。
・パターンとしては基本的に二つ。
・一つ目はスキル熟練度が既定の数値を超える。
・もう一つは実際に作る時の成功率が五割を超える。
・もちろん、両方を要求してくるパターンもある〕
「なるほど。となると、もっと頑張ってひも作りを続けたほうがいいと?」
〔・スキルを習得したら
・ひも作りではそんなに育たないはず。
・シェリアが豪快に木材を余らせたから
・食器でも作ったら?〕
「分かりましたの」
クリスの質問に対し、レシピが参照できる基準や熟練度の成長に関する説明をする立て札。
それを聞いたエリザベスが、せっかくだから自分用の皿でも作るかと木材を手に取る。
〔・ああ、忘れてた。
・レシピに関する注意点。
・何らかの形で耕助の元から独立したら
・耕助が報酬で入手したレシピは参照できなくなる〕
「その状況でエリザベスが手ずから物を作るとは思えないが、独立の基準はどんなものなんだ?」
〔・一番わかりやすいのが
・反乱とかで敵対する。
・他にも、自分をトップとする耕助と対等の集落を作ったり
・別の集落に嫁いだりすると独立したと認定される。
・今のところ考える必要はないけど
・この拠点で暮らしたまま、別の集落から婿を取った場合
・独立したとは認定されない〕
「分家的なものを立ち上げる場合は、独立したとみなされるのか?」
〔・耕助の支配力が及ぶかどうかによる。
・まあ、深く考えなくても
・一般的に同じグループと認識される関係なら問題ない〕
「となると、エリザベスが大人になるまでは、特に気にする必要はなさそうだな」
〔・ん。
・そもそも現状、独立してもどうにもならない〕
レシピの注意事項として、現状誰も得をしない概念について説明する立て札。
その説明に、そう結論を出すしかない耕助と、耕助の結論に同意する立て札。
原始的なサバイバル生活に近い暮らしをしているこの島において、独立した二つのグループが自分の裁量だけで暮らしていけるような余裕は一切ない。
もっともそれ以前の問題として、何らかの形でエリザベスの家族が迎えに来ない限り、子供のエリザベスを勝手にどこかに嫁がせたり追い出したりなどできはしない。
これが人の神経を逆なでしまくるだけの悪ガキとかならまだしも、エリザベスは普通に善良で知的かつ理性的な子供だ。
大公家の姫君という点を無視しても、耕助の性格的にも外聞的にも、現状でエリザベスを無理やり独立させることは不可能だろう。
「何から何まで耕助さんに助けてもらっているのに、独立して生きていけるわけがありませんの」
「そうですね。姫様どころか、私でもこの環境下で一人で生きていくのは不可能でしょうね。というより、将来にわたって、耕助さんの庇護下から独立するイメージがわきません」
「そもそも、島流しにされた時点で、貴族女性としては死んだも同然ですの。仮に今すぐ奇跡の生還を果たしたとして、社交界では純潔を散らされた扱いされてしまいますの。それを考えると、よほどいい男に求婚されでもしない限り、耕助さんの元で暮らしているほうがましな可能性が高いですの」
「俺はそんな変態扱いされるのか……」
「耕助さんが幼女趣味かどうかとかは、この際関係ありません。一部の王族より高貴な血筋の姫様が、たとえ一日であっても野蛮だと思われている土地で暮らした時点で、足を引っ張りたい連中がそういう扱いをするのです」
「世知辛いな……」
「とても世知辛いですの。なので、冤罪だろうが何だろうが、わたくしたちの島流しに成功した時点で、どう転んでも王太子一派の目論見は成功したと言っていいですの」
「まあ、恐らくはあと一週間もすれば、お主の国の王家は全員さらし首になっておろうがの」
エリザベスの独立という話題で世知辛い話をしていると、ダンジョンから戻ってきたレティがそんな感想を口にする。
「レティ様も、そう思いますの?」
「うむ。まあ、確証はないし、立て札がその時まで興味を持っておらねば確かめる手段もないがの」
そういいながら、戦利品を地面におろすレティ。
その中に、ひときわ目を引く道具が。
「これ、もしかして織機か?」
「うむ。話を聞く限り、クリスは使えるじゃろうと思うてな。後、種らしきものをいくつか見つけてきた」
「そっちは後で鑑定しとくわ。今のところ布に使える繊維素材は麻だけだけど、今ある分量で布って作れそうか?」
「まだ糸になっていないことも考えますと、布に加工するのは無理ですね」
「ああ、そういや紡いで糸にしないとダメなんだよな……」
クリスに言われて、紡績作業のことを思い出す耕助。
いくら植物資源採取場というチート設備といえど、さすがに最初から糸に加工されて出てくるということはない。
「ああいうのって、加工すると分量減るから、多分布にできるほどの糸はできないだろうなあ……」
「そうですね。この島にその常識が通じるかどうかはともかく、どのみちこの程度の麻では大した量の糸はできないでしょう」
手元でぼふんと草ひもを消滅させながら、そう意見を言うクリス。
もっとも、布に加工できるだけの糸が手に入ったところで、全然足りないのは間違いないが。
「まあ、紡織関係は明日考えよう。どうせ今日はこれ以上材料が手に入らないだろうし、そもそも家が優先だ」
「じゃのう。それはそうと、エリザベスとクリスは今夜、どこで寝るんじゃ?」
「それなんだよな……」
家を大きくする一番の理由を突きつけられ、どうしたものかと考え込む耕助。
その間も、パーツを加工する手は止まらない。
「どうせ三日前までは野宿だったんだし、今日は家をエリザベスとクリスとシェリアに譲って、俺は外で寝ればいいか」
「それはだめですの!」
「それ以前の問題として、お主が外で寝るのであればシェリアも必然的に外で寝ることになると思うんじゃが?」
「だろうなあ……」
とりあえず出した案に対し、エリザベスの反対とレティからのダメ出しが入る。
「のう、立て札よ。今日の就寝時間までに建物を完成させる方法とかはないかの?」
〔・その前に、パーツ製作の現状を教えて〕
「全体で言うと七割ってとこか。木材の部分は半分ぐらい終わったところだな」
〔・それだけあればアップグレード作業を始められるから
・今からアップグレード作業を始めて
・全部パーツを完成させて登録済ませたら
・魔石を投入して作業時間を加速〕
「魔石って、そんなことまでできるのか?」
〔・ん。
・ソシャゲで言うところの課金石でできることは
・大体近いことができる感じ〕
「ふむ、ならばその方針で進めるのが一番無難じゃの」
「だな」
立て札の説明を受け、言われたとおりに小屋をログハウスにアップグレードする指示を出す耕助。
全部のパーツを投入し終えたところで、75%完了まで十二時間と表示される。
「思った以上に時間がかかるな……」
〔・全部材料がそろってからだったら
・八時間ぐらいで終わってた。
・差額の時間は利息的な何かだと思って。
・足りないパーツを投入すれば
・その分時間も短くなる〕
「じゃあ、急いで作らないとな……」
「妾は魔石を集めてくるかの」
思った以上に時間がかかり、かつアップグレードに入ってしまったために小屋が使えなくなったことを受け、いろいろと急ぎで作業を進めることになる耕助とレティ。
それを見ていたエリザベスとクリスが、どうしたものかと困ったような表情を浮かべる。
「そういや、エリザベスはこれからの練習次第として、クリスは料理はできるのか?」
「簡単なものならどうにか……」
「だったら、塩振って焼くだけとか芋ゆでるだけとかでいいから、俺の代わりに飯の準備してくれないか?」
「分かりました」
耕助に振られ、昼食の準備をするクリス。
その間にも、どんどんパーツを作っては投入していく耕助。
特にできることがないエリザベスは、せっせと皿やコップを作っていく。
三十分後、食事の準備ができたところで耕助のパーツづくりも全て終わる。
「全部投入しても、アップグレード完了は十時間後か……」
「姫様の就寝時間には、遅すぎますね……」
「ベッドとか配置する時間も考えると、どう考えても日付が変わる前には終わらないな……。まあ、そもそも、ベッド自体も作らなきゃ足りないんだが」
焼いたイノシシベーコンとゆでたジャガイモという簡単な昼食を取りながら、渋い顔でそんな風に問題を上げていく耕助とクリス。
そもそもの話、十時間後だと暗すぎて、家具の配置とかはかなり難しい。
食事を終え、二人分のベッドを作り始めたところで、巨大な熊を吊り下げたシェリアが戻ってくる。
「耕助さん、お肉狩ってきました!」
「……また立派な熊を……」
「これなら、お肉だけでなくいい毛布も用意できると思います!」
「ああ、確かに、二人分追加で必要だよな」
「なので、解体が終わったら毛皮の加工をお願いします!」
「了解。でも、わざわざここにぶら下げて持ってこんでも、現地で解体じゃダメだったのか?」
「解体道具を持ってませんでした」
「なるほど」
シェリアがわざわざ熊をぶら下げてきた理由を聞き、それならしょうがないと納得する耕助。
恐らくだが、解体しなければアイテムバッグに収まりきらないだろうサイズである。
「じゃあ、終わったら呼んでくれ。それまではベッド作っとく」
「はーい」
「あの、姫様の前で解体するのはちょっと……」
「厳しいようですが、この島で暮らすなら慣れておいたほうがいいと思います」
「……そうですね」
平気でエリザベスの前で熊の解体をしようとするシェリアと、そのことをまったく気にしない耕助。
そのことに抗議したクリスに対し、そう諭すシェリア。
そういわれてしまえば納得するしかなく、クリスはおとなしく引き下がる。
そのあと、シェリアの豪快な解体作業に耐えきれずエリザベスが意識を飛ばしたり、レティが今発生している通常ダンジョンを全部攻略して帰ってきたりと様々なイベントが起こりながらも、
「よし、ベッドはこんなものだな。敷き毛布もこんな感じでいいだろう」
「ありがとうございますの」
「こんな状況で、こんなにいいベッドにありつけるなんて……」
「つっても、品質的には最低ラインだぞ?」
「ガタつかないベッドという時点で十分です」
なんだかんだで午後四時ごろまでは順調に作業を進める耕助であった。
そして、夕食時。
「そろそろ、ログハウスが完成するな」
タイムカウントを見ていた耕助が、そう宣言する。
その宣言にあわせるように、小屋がまばゆく光り輝いて、ポンという気の抜ける音とともにログハウスに化ける。
「イメージより、だいぶデカいな」
「これなら、エリザベスとクリスも安心して寝泊まりできるのう」
「だな」
出来上がったログハウスに、満足そうにうなずきながらそんな感想を言い合う耕助とレティ。
「耕助さん! 私は断固、寝るときは同じ部屋を主張します!」
「却下」
「というか、耕助さん。私が一人で寝てても、どうせ無意識で耕助さんの部屋に侵入するに決まっています! 鍵をかけたところで、このぐらいの扉では私のパワーに耐えられないので、おとなしく一緒に寝ましょう!」
「そんな、破廉恥ですの!」
「耕助さんとシェリアさんがどのような関係でも文句を言う筋合いはありませんが、姫様の教育に悪い行動だけはやめてくださいね……」
〔・むしろ、エリザベスの閨教育のために
・耕助を積極的にけしかけるべきでは?〕
「……その話は、とりあえずベッドを全員の部屋に配置して、飯を食ってからにしようぜ……」
家が完成してすぐに出てくるシェリアの要望に、妙に潔癖な反応を示すエリザベスと、文句を言う気はないが一定の配慮を求めるクリス。
面白そうだと嬉々としてまぜっかえしに走る立て札。
そんな彼女たちの反応に、疲れたようにそうぼやく耕助。
念願のまともな家が完成し、一人一部屋のプライベートな空間を得たというのに、どうにもシェリアの抱き枕からは脱却できそうにない耕助であった。
シェリアが全力で開き直っている件について。
後、何気に勝手にご都合主義的な設定が生えてきた結果、魔石がどんどん便利アイテム化していく……。




