第25話 いろんなことを試してみよう その2
「一息ついたところで、他のこともやろうか」
「はいですの!」
エリザベス初の畑仕事から十五分後。
休憩して体力も戻ったところで、次の仕事に移ることにする。
「毎日のルーチンワークとしては、収穫できるようになった作物を収穫して跡地を耕して、次の種もしくは種芋を植えて水やり、っていうのがワンセットだ」
「跡地を耕す、ですか?」
「収穫したら、畑から普通の地面に戻るんだよ。こんな風に」
意味が分からないという顔をしたクリスに、実際にラディッシュを収穫して見せる耕助。
耕助が生えていたラディッシュを全部抜くと、ボフンという音とともに畑が地面に戻る。
「……理不尽ですね……」
「……理不尽ですの……」
「まあ、今までの履歴みたいなのは残るって話だから、徐々に土の状態は良くなっていくらしいけどな。で、今栽培できる作物は、毎日収穫できるようにタイミングをずらして栽培してるから、毎日畑を耕す作業が入るわけだ」
そう説明しながら、次々に収穫を進めていく耕助。
毎日の作業に加え、自分達が食べる分だけなので一日分はそれほど多くなく、割とすぐに大体の収穫が終わる。
「せっかくだから、エリザベスとクリスもやってみるといい」
「分かりましたの」
「それでは失礼しまして……」
耕助に譲られ、恐る恐るという感じでラディッシュを引っこ抜くエリザベス。
その隣では、これでいいのかと首をかしげながらクリスがトウモロコシをもいでいる。
そのまま、一通りの作物を収穫したところで、耕助が声をかける。
「今日の収穫分はそれで終わりだから、次だな」
「次は、耕しますの?」
「それでもいいんだけど、今日のところはせっかくだから、エリザベスが耕した畑を使う」
「ということは、種を植えるのですか?」
「そういうことだ」
そういって、とりあえずラディッシュの種を渡す耕助。
正直、ラディッシュは食料としてさほど役に立つわけではないので、そろそろ栽培しなくてもいいのではと思わなくもない。
が、今回に関しては初心者二人なので、とりあえず入門編としてラディッシュをやってもらうことにしたのである。
「これぐらいでよろしいですの?」
「そうそう、そんなもん」
「手のひら一杯につかんで豪快にばらまくわけではないのですね」
「そんな効率の悪いことは、普通してないはずだが……」
丁寧に作業をするエリザベスの横で、いきなり大雑把なことを言い出すクリス。
どうやら、案外雑というかいい加減な性格をしているようだ。
「まあ、今日のところは練習みたいなもんだから、この畝一杯にラディッシュ植えといてくれ。俺は残りの作物植えとくから」
「はいですの」
「分かりました」
エリザベスとクリスに次の指示を出し、その様子を見守りながら作物を次々と植えていく耕助。
経験日数の差など十日に満たないのだが、それでも最初に畑を作ってから、毎日地道に農作業を続けてきている。
おっかなびっくり種を植えている二人よりも、同じ時間で数倍の数と種類を栽培し終える。
「これで大丈夫ですの?」
「まあ、島ラディッシュだからな。かぶせた土を踏み固めたりでもしない限りは、ちゃんと明日収穫できる」
「だそうですの、クリス」
「……危なく、ぎっちり踏み固めるところでした……」
「……人がいつも歩きまわって踏み固められてる場所が、舗装されてなくても草が生えてないの、なんでだと思ってたんだ?」
「くっ!」
耕助に突っ込まれ、悔しそうにうめくクリス。
農家ではないとはいえ、生粋のお姫様であるエリザベスすら理解していたことに思い至らないあたり、シェリアとは別方向でポンコツ疑惑が出てきている。
「で、次は水やりだ。やりすぎるとまずいから、水はじょうろに汲んで、地面全体が湿る程度にやるように」
「はいですの」
「本来は、作物ごとに水のやり方ややる量とかを考えなきゃいけないらしいんだが、ここは特殊な島だからな。深く考えずに、水たまりができない程度の量をやってれば問題ない」
「分かりましたの」
耕助の説明にうなずき、慎重な手つきで水をやるエリザベス。
途中焦れたクリスが雑に水を撒こうとするのを止めながらだったため、なんてことないはずの水やりも変に時間がかかってしまう。
「これで、一日の畑仕事は終わりだ。そのうちもっと手間がかかる作物を手に入れるかもだが、今のところはこんな感じだな」
「やること自体は簡単でしたけど、意外と注意事項がいっぱいありましたの」
「まあ、その注意事項の大部分が、クリスの責任だったが……」
「申し訳ありません……」
どうにか本日の農作業も終え、とりあえずそう締めくくる耕助たち。
いつも耕助一人で三十分もかからずに終わらせている作業量なのに、ものすごく時間がかかってしまうのであった。
「さて、次は毎日やってほしい鉱物資源採掘場での採掘と、多分その近くに出来ているであろう植物資源採取場なんだが……」
「採掘場のほうはともかく、採取場のほうはちっと待ってもらっていいかの?」
気分を切り替え、確定で日課になるであろうものに手を付けようとする耕助に、農作業の間どこかへ行っていたレティが待ったをかける。
「何かあるのか?」
「耕助の鑑定結果次第なんじゃが、植物資源採取場も魔石でレベルアップさせてから採取したほうがいいのではないかと思ってな」
「そりゃまあ、そうなんだけど、魔石の当ては?」
「確実とは言えんが、妙にレベルが高いダンジョンが湧いておっての。シェリアと二人でつぶしてくるから、それが終わるまで待ってもらってもいいかの?」
「分かった。じゃあ、先に鑑定だな」
レティの言葉にうなずき、鉱物資源採掘場の隣に不自然に生えている藪を鑑定する耕助。
鑑定結果は
”植物資源採取場レベル1:植物資源を採取できるポイント。現在のレベルでは一日一人七(五+二)回まで雑草、麻、木材のいずれかが採取可能。何が採れるかはランダムだが、必ず採取可能なものが三(一+二)つ以上採取できる。一回の採取で採れる量と品質は採取場のレベルと作業者の熟練度、設備総合レベルで変わる。採取回数はデイリーミッションが更新されるタイミングで回復。植物資源採取場のレベルは、採取した合計回数と魔力の投入量により上昇する。次のレベルまで(0/30)”
となっていた。
「やはり、魔石でレベルが上がるようじゃな。では、シェリアを捕まえてちょっと行ってくる」
「ああ、頼んだ」
詳細を確認してうなずくと、シェリアを探しに飛び去るレティ。
それを見送って、ついでに鉱物資源採掘場の鑑定もしておく。
鑑定結果は
”鉱物資源採掘場レベル3:鉱物資源を採掘できるポイント。現在のレベルでは一日一人八(六+二)回まで粘土、石材、鉄鉱石、銅鉱石のいずれかが採掘可能。何が採れるかはランダムだが、必ず採掘可能なものが三(一+二)つ以上採掘できる。一回の採掘で採れる量と品質は採掘場のレベルと作業者の熟練度、設備総合レベルで変わる。採掘回数と投入された魔力量の合計が一定回数になると、次のレベルにレベルアップする。採掘回数はデイリーミッションが更新されるタイミングで回復。鉱物資源採掘場のレベルは、採掘した合計回数と魔力の投入量により上昇する。次のレベルまで(3/90)”
となっていた。
「なるほど。3まで上がれば掘れる回数が増えるのか」
<・次は6レベルで一回増える。
・その次は10レベル>
「ってことは、15レベル、21レベル……って感じになるわけか。にしても、魔石何個か入れた覚えはあるが、三人合計だっつっても、レベル上がるほど掘ってたか?」
<・設備総合レベルが上がったから
・採掘量ボーナスが付くようになった。
・これは過去にさかのぼって適用されるから
・一気にレベル上がった>
「なるほどな。しかし、急に甘やかし仕様になったな……」
<・まあ、この手の採取場とか採掘場は
・レベル上がって手に入る資源が増えるほど
・欲しいものが手に入らなくなってくるから……>
「ああ……」
立て札の言葉にいろいろ納得し、思わず天を仰ぐ耕助。
今耕助に必要な素材は食器や高性能高品質の耐熱レンガを作るための粘土か、道具類を作るための鉄鉱石だ。
が、そうでなくても石という採掘場で掘れなくても全く困らない素材が入っているというのに、そこに銅まで加わるのだ。
特に耕助の運だと、鉄や粘土が手に入る確率が極端に低くなるのは間違いない。
「っと、待たせてすまなかった。今からここを掘る」
「この怪しげな崖というか壁というかを、このつるはしで掘ればいいんですの?」
「ああ。こうやってに崖を掘ると……」
エリザベスの疑問に答えるために、思いっきりつるはしを振り下ろして叩きつける耕助。
ガツンという重い音とともに、石材が二つと銅鉱石が一つ転がり出る。
「こんな風に鉱石とかが出てくる」
「これは何が出たんですの?」
「石と銅鉱石だな。石はそこら辺のやつをハンマーで砕いても同じものが手に入るし、銅はまだ使い道も加工する技量もないから、ぶっちゃけ外れだな」
「銅鉱石って、こんなに分かりやすい見た目をしているものなのでしょうか……?」
「普通は違うと思うが、この島の場合はなあ……」
エリザベスとクリスの疑問に、そんな答えを返す耕助。
今まで触れてこなかったが、この島で採れる鉱石は鉄なら鉄鉱石、銅なら銅鉱石と直感的に分かる見た目をしている。
実際のところ現実の鉱石類も、鉄鉱石ぐらい産出量が多い鉱石に関しては知識があれば一目瞭然という見た目はしているのだが、耕助たちのような素人が見て分かるかといわれるとさすがに厳しいと言わざるを得ないだろう。
この分かりやすさも、言うまでもなくこの島のゲーム的仕様の恩恵である。
「まあ、鉱石の見た目は置いとくとして、だ。この採掘場は一日に採掘できる回数が決まっていてな。こんな風に……」
と、説明を入れながら、手早く残り七回を掘ってしまう耕助。
さすがに合計八回も掘れば全部最低数ということもなく、全部で二十七個の鉱物資源を入手することに。
なお、内訳は石が十五個、銅が七個、粘土三つに鉄鉱石が二つで、ついでに確認した設備の経験値は12ポイント増えていた。
「採掘できる回数を超えると、どんなに掘っても岩の欠片すら出てこなくなる」
「今までなら何でですの!? と突っ込んでいたところですけど、今までが今までですの。ここはそういう島だと納得できてしまいますの」
「という訳でまあ、やってみてくれ」
「分かりましたの」
耕助からつるはしを受け取り、採掘場の前に立つエリザベス。
その様子を、はらはらしながら見守るクリスと、記念すべき第一打でどれぐらい採れるかを期待する耕助。
そんな周囲の視線を受けながら、エリザベスが大きくつるはしを振り上げる。
「ですの!」
気合の声とともにつるはしが振り下ろされ、鉄鉱石が五個飛び散る。
それと同時に経験値カウントが2ポイント増える。
「ですの!」
次の一打。今度は鉄鉱石三つと粘土が二つ。経験値カウントは1。
「ですの! ですの!」
さらに連続で二発、石と銅が一個、粘土が三つ、鉄鉱石が五個出て、経験値カウントが4増える。
「終わりましたの!」
その後も順調に採掘は進み、全部で四十個を超える鉱石を掘り出したところで、エリザベスの作業は終わる。
結果としては、六割を鉄鉱石、三割を粘土、石は最終的に一個だけという非常に優れた成績で終わっていた。
採れた鉱石の比率だけで言うなら、シェリアを超える成績である。
もっとも、ほぼ最大数を採掘しているシェリアは総数で十個近く多く、また今日はほぼレベル2の時に採掘しているので、単純な比較は難しいところではあるのだが。
「じゃあ、次はクリスだな」
「お任せください」
「クリスが作業している間に、掘った鉱石を倉庫にぶち込むか」
「大変そうですの!」
「エリザベスは無理しなくていいぞ」
そう言いながら、クリスの採掘結果を確認しつつ、せっせと鉱石を倉庫に詰めていく耕助。
エリザベスもヘロヘロになりながらそれを手伝う。
クリスの成績は、耕助ほどではないがなかなかに物悲しいものであった。
「全部で三十個、うち石と銅が十個ずつか。さすがに俺よりついてないってことはなかったな」
「むしろ、なぜ姫様がここまで豪運なのかが分かりません」
「島流しにされるっていう不幸の反動じゃね?」
「ああ、なるほど……」
耕助に言われ、思わず納得するクリス。
だとすると、クリスの運のなさもなかなか泣けてくることになるのだが、そこはもう気にしないことにする。
「まあ、経験値の計算はなんとなく分かったな」
「そうなのか?」
「ああ。って、もうダンジョンは終わったのか?」
「うむ。目論見通り、でかい魔石を拾えたからの。これで植物資源採取場を強化するのじゃ」
「了解」
いつの間にか戻ってきたレティから大きな魔石を二つ受け取り、植物資源採取場を強化する耕助。
二つ合わせて五十ポイントほどの魔力があったため、無事に植物資源採取場もレベル2に上昇する。
「そういや、レティとシェリアは鉱物資源採掘場でいくつぐらい掘れてたんだ?」
「昨日は最大が六個じゃったな。今日は試しておらんから分からん」
「私は今朝、最後の一回で八個掘れました!」
「なるほど……」
シェリアとレティの報告で、恐らく経験値についての仮定が正しそうだと判断する耕助。
「で、経験値の計算はどんな感じじゃ?」
「三個の時は二回連続だと1ポイントの時があって、五個の時は最大で連続四回まで2ポイントだったから、掘った個数の合計から掘った回数を引いた数が五個ごとに1ポイント追加で入るんじゃないかと思う」
「なるほどの」
「まあ、実は引くのは掘った回数そのものじゃなくて、そこに設備総合レベルとかの補正が入らない最低数をかけた数の可能性はあるけどな」
「ふむ。その仮説が正しいかどうかは、採掘場のレベルが上がらんと分からんじゃろうな。今は本来の最低数は一じゃからな」
「逆に、五個ごとに、のほうは誰かが七個以上掘った時に3ポイント増えるタイミングがあれば確定だ。まあ、それが分かったからどうなんだって話だが」
「じゃのう」
耕助の言葉に、思わず同意するレティ。
ぶっちゃけた話、経験値の計算が分かったところで、掘れる数がランダムなのだからどうにもならない。
「まあ、シェリアがうずうずしてることだし、植物資源採取場のほうをやっていくか」
「はい!」
「はいですの!」
耕助の宣言に、さきほどから待ちきれない様子だったシェリアとエリザベスが元気よく返事をする。
そのまま突撃するかと思いきや、二人でお互いを見つめあって一つうなずく。
「まずはシェリアさんがお手本ですの!」
「分かりました!」
エリザベスに譲られ、鉄の鎌を手に元気に植物資源採取場へ突撃するシェリア。
その勢いのまま、ものすごいスピードでザクザク刈っていく。
「……やっぱりシェリアがやると、いくらでも採れる木材とか雑草はほぼ出ないな……」
「ということは、あれが麻ですの?」
「ああ。これで多分レシピが出るから、麻の布は作れるようになるだろうな」
「ということは、簡単な服は作れそうじゃな」
「だな。多分チュニックぐらいはいけるだろう」
レティの言葉にうなずきながら、そんな楽観的なことを言う耕助。
そんな一足飛びに安定して布や服が作れるかどうかはともかくとして、少なくともいつまでもエリザベスにドレスで畑仕事や採掘作業をさせることにはならないだろう。
それ以前の問題として、そもそもエリザベスはこれからどんどん大きくなっていくので、ものすごく無理をしても来年にはドレスが入らなくなるはずだ。
「てか、エリザベスの場合、先に靴がいるんじゃないか?」
「そうですね。今後姫様が農作業をメインに行うのであれば、子供用のものとはいえいつまでもパンプスでというのは、いろいろと支障が大きいでしょうし」
「大体、ドレスなんぞ国と呼べるだけの集団となり、服飾産業が成立するようにならんと意味がないものじゃ。この場におるものしか人類が存在せんのじゃから、飾り立てる価値も薄いしのう」
「……いずれこの島も外部に開放されるんだから、エリザベスに関してはあんまり現状に適応しすぎてもまずいとは思うが……」
「解放されたところで、元の立場に戻れるかどうか怪しいのじゃから、あまり気にしすぎてものう。それに、気にしたところで、あのような豪勢なドレスなんぞ、スキルを得たとしてもよう作らんじゃろ?」
「まあ、そうだな……」
レティに言われ、うなずくしかない耕助。
実際問題、耕助が少々努力したところで、エリザベスが着ているような豪奢で繊細なドレスを作れるようにはなれないだろう。
それ以前の問題として、絹糸は植物資源に入らないので、現状ガチャ関係でしか入手できないのだが。
「終わりましたの~!」
そんな話をしているうちに、いつの間にやら採取作業を終えたエリザベスが鬨の声を上げる。
見た感じ、シェリアが採った数より十個ほど少ないようだ。
「なんか、エリザベスは一回で採れる最大数が少ない気がするな」
<・それは、採取系スキルの熟練度がゼロだから>
「ああ、補正入るほどスキル育ってないってか」
<・ん。
・植物資源採取場は、採取と伐採両方を参照。
・シェリアは両方2以上になってるし
・レティも一応1はある。
・エリザベスとクリスは
・そもそもスキル習得自体まだ>
「それでシェリアが割と安定して七個採取してるのに、エリザベスは六個と五個が入り混じる感じだったのか」
<・ん。
・鉄の鎌の補正もあるけど
・スキルなしにどう補正しても最大値の補正はゼロ>
考えてみれば当然としか言いようがない理由に、納得するしかない耕助。
なお、耕助にも最大数の補正はかかっているのだが、そもそも現時点でも一回の採取および採掘作業で五個以上採ったことがないので、全く意味がなかったりする。
その後、採取と採掘のどちらも終わっていないレティがシェリアと互角の成績で、クリスが採掘に続き採取もどちらかというと雑魚い結果で本日の作業を終える。
「じゃあ、俺も一応やっとくか。どうせ全部雑草か、せいぜい一つ二つ木材が入る落ちだろうけどな」
「大丈夫ですよ、耕助さん! あればあるだけ使うはずですから!」
「そうじゃの。それに、どんなに引きが悪かろうと、おぬしの熟練度と設備の経験値は増えるから、無駄にはならんよ」
「だな。経験値稼ぎと割り切るわ」
何の慰めにもなっていないシェリアとレティの言葉にうなずき、採取作業を行う耕助。
恐ろしいことに、耕助の結果は雑草二十四個というある意味すごいもので……
「なんだろうな。ここまでだと逆にほっとするわ……」
「あの土偶がおかしなことをしておらんということじゃからのう……」
その凄まじさが逆に安心感をもたらすという不思議なことになっていた。
「耕助さん、せっかくだから、物を作るのも試してみたいですの!」
「そりゃいいんだが、多分クラフト台は使えないよな」
<・当然。
・クラフト台を使うには、クラフトスキルが必須>
「習得はできないんですの?」
<・クラフト台の近くで
・何かを一定以上の品質で数回完成させれば
・熟練度ゼロで習得できる>
耕助とエリザベスの質問に、端的に回答する立て札。
それを聞いた耕助が、少し考えこむ。
「大丈夫そうな作業となると、雑草を編んでひもを作るのがいいか」
「やってみますの」
「では、私も」
「クリスもやりますの?」
「他にやることがありませんから」
耕助の提案に従い、いくらでもある雑草を使ってのひも作りを試すエリザベスとクリス。
その結果は散々なもので……
「あう、また破裂しましたの……」
「こちらは、編んでいる最中に砂のように消えましたね……」
「ひも作りでの失敗って、そんな風になるんだな……」
「失敗したことはありませんの?」
「クラフト台でやる分には、失敗しない仕様らしい」
「それはずるいですの……」
十本作ってすべて消滅してしまうことに。
「まあ、どうせ暇つぶしなんだし、うまくいけば儲けもの、ぐらいの気楽さでやればいいさ」
「これが刺繍や花冠づくりなら、ここまでひどい失敗はしませんの……」
「裁縫なら、ドレスでもなんでも縫い上げる自信があるのですが……」
「……そのあたりは、麻を使ったレシピに期待してくれ……」
本当に散々な結果に、力なくうめくエリザベスとクリス。
それに、困った顔で今後の展望をそう告げるしかできない耕助。
結局、エリザベスのドレス以外の面でも、服関係は急務となるのであった。
感想で潮水の話が出ていたので一応触れておくと、海の水と耕助やシェリアが汲んだ桶の海水は成分が違います。
何でそうなるのかはもう、この島だからとしか言いようがないので、深く突っ込まないでいただけると助かります。
また、所詮救済措置的な形で与えられた錬金術なので、海水に含まれる塩を全部抽出できているとは限りません。
そもそも、錬金術ではちゃんとした設備を使って製塩するほど効率よくはできないと明言されており、これは一度に処理できる海水の量だけでなく、海水から抽出できる塩の量にも適用されます。
もっとも、何気に桶の海水に含まれているより多くの塩を抽出しているケースもあったりしますが。
海水に限らず、いろんなところにこういう仕様が適用されており、そのことに耕助たちは一切気が付いていません。
立て札は知っていますが、聞かれたらともかくわざわざ教える意味もメリットもないので黙っています。
他にも空き缶とか妙なものが存在しているのも、立て札が用意したものではなく最初からあったもので、なくせばなくしたで安定性が極端に悪くなるので、特に害がないものは放置しているのが実態です。
じゃあ、ガチャは何なんだとか、あれこそシステムを不安定にしまくるんじゃないのか、というのはそのうち触れる予定ですので、それまでお待ちください。
別に立て札も趣味とか娯楽だけでガチャを実装しているわけではない(ただし一番の理由が面白いからなのは否定しない)、とだけ。




