表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

革命拠点

部屋のどこからか音楽が流れていた。

クラシックだと思われる優しい調べが徐々にはっきりと脳に響いてくる。

瞼をこすりながら時計を覗きこむと、十二時前だった。

わたしは音楽のする源を探した。

机の上に小包が置かれてあった。

なかを覗きこむと、そこに携帯電話があった。

自分のものではない。

男性ものだろうか、薄いブルーの携帯電話。

どうして携帯電話が……

とぼんやり考えてると、枕元のスケッチブックに目がいった。

【今日、目が覚めたその一時間後に、わたしは復活します】


すぐに昨日のことが夢でなかったと理解した。

ということは、もうすぐすべてが始まる。

携帯からのメロディはその合図にすぎなかった。

通話ボタンを押したが、雑音が入るだけで返事は聞こえない。

わたしは、その合図に従ってテレビのスイッチを入れようとした。

リモコンを押す指先がかすかに震えている。

いま、目の前にあるテレビという四角い機械が、まるで生きもののように思えた。

自分がこのスイッチを押すことで、静かに眠るこの四角い獣を起こしてしまう。

このまま静かに眠らせていたほうがいいのではないか、との迷いが頭を過ぎった。

子供のころ、テレビを見るという行為はいつだって非現実的でまるで夢の世界のようだった。

アニメやドラマに関してはもちろん、地元のニュース番組で家の近くで起こった

事件を伝える映像を見たときでさえ、そこに映る場所は自分とは別の世界であって、

また、その出来事も創られたもののように思えた。


だが、いまの世の中を見るとテレビと人間をつなぐ画面、

そこに存在した壁はすっかり低くなった。

この不景気のなか、予算が安くすむということもあり、

素人参加番組が増えつづけ、それをきっかけに素人が芸能人になることも多い。

生中継の番組になると、単なる通行人でも容易にテレビ画面に自分を写すことができる。

彼らは自ら好んで、その姿を世間にさらそうとする。

とても得意げに、まるで自分が主人公であるかのように・・・

彼らは残酷な殺人事件を報道するテレビの前にまで現れ、

Vサインを送ったり携帯をかけながら画面に向かって笑みを送る。

目の前を飛びかう虫のごときわずらわしく映るその姿。

テレビはそういった映像も記録してしまう。

彼らの映ったビデオテープもまた資料として、テレビ局内に保管される。

彼らがそのとき生きていたという証拠を残したまま。

本当は彼らだって気づいているのだろう。自分という存在のちっぽけさに。

すぐに消えてしまう自分の将来というものに。

彼らにとって大事なのは、いま、この目に見える存在のみ。

それだけが信じられ大切に思えるもの。

かつての、わたしが同じように自分の存在をビデオに撮ろうとしたのと同じように。

あのときの記憶が、心のなかでだんだんと膨れていっている。


目の前のリモコンに目をやった。

あのボタンは、わたしの心の起爆装置。

押したら今どうにか鍵をかけ閉じ込めているこの心が

爆音とともに粉々に消え去るかもしれない。

あのときに聞いた銃声によって、周りの音が一瞬で消えていったように。

ただ、今の心の殻を破って、あのときの心をもう一度、思い出したい、

そう思う自分もどこかにいた。

このままの生活ではいけない。

何も変わらない。何かを変えなければ……

わたしはゆっくりとリモコンのボタンを押した。

テレビの中では、いつものように観客の笑い声が聞こえている。

その笑い声が徐々に耳から遠ざかっていき、昨日のことが脳裏に浮かんできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ