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革命理由

スタジオの外に出ると、タモノは急いでプロデューサーのもとに行った。

局内の廊下には多くのマスコミの人間に混じって、警察の関係者も数多く来ていた。

インタビューをしようとして立ち止まらせようと試みる人間どもを振りきって、

モニター室に入っていく。


そこに、モニターを見つめるプロデューサーの姿があった。

タモノはその背後から、息を切らしながら声を発した。

「も、もしかして………知っていたのか?」

男はゆっくりと頷く。

「どうしてあんなことをさせたんだ。あれじゃ、あいつはもう終わりじゃないか」

「この世の中を変えるため、です」

タモノの語気がさらに増す。

「だからって、ひとりの人間の人生をもてあそんじゃ・・・」

「もて遊んでなんかいません。最初に持ちかけてきたのはあっちなんだし。

手紙には丁寧に書かれていましたよ。今日の計画について。

なかなか、素人に考えられるもんじゃない、って感心しました。

でも所詮、こっちの内部のことまではわかってない。

だから、わたしが多少は手を加えましたけど」

「そのひとつが、あの客たちってことか。あんたが意図的に集めたんだな?」

「ええ、あいつと同じ少年被害者の遺族の方たちです。

みんな、同じようにいまの少年法のあり方に不満を持っているんです」

「スポンサーにも前もって知らせておいたのか?」

「でないと、こんなことはできませんし。スポンサーも、この考えに賛成してくれました」

タモノが首を振る。

「でも、その考えは少年法ってのとは違うだろ。あんたの目的は別にあった。そうだな?」

プロデューサーは、小さく微笑みながら言った。

「世の中の膿にメスを入れることには違いないでしょう」

「あんたの目的は、あそこにいる少年の親だ。中山って、あの中山首相の息子だろ。

警察やマスコミには力を加えてもみ消したように見えた。が……

こういった業界にいると耳に入ってくるんだよ。もちろん、ここだけの話ってことで」

と、タモノが早口でまくしたてる。

「あの男はいま、世論を味方に向かい風に立っています。わたしたちマスコミが何を言っても無駄だ。

逆にあの男を叩けば叩くほど擁護論が高まるばかり。国民には想像もできないでしょうね。

あの男の裏に潜む大きな影というものを」

「それが、警察の上層部だと……」

「それだけじゃない、自衛隊幹部はもちろん海外のマフィアや、暴力団とも

裏でつながっているとも聞きました。このままでは、ほんとに脅威です。

それなのに、みんなあの穏やかな表面に騙されてしまっている。

もちろん最初に持ち上げてしまった、われわれマスコミも悪いんですけど……」

「他に方法はなかったのか? あいつは拳銃まで用意してるんだぞ」

「拳銃、ですか」

タモノが驚きの表情を浮かべる。

「……もしかして」

男は小さく頷いて、言葉をつなげた。

「普通の人間にはなかなか用意できませんから。わたしが与えました。

あれがないと、ことがうまく進まないだろうと思いまして。念のため、ですよ」

「でも、どこから?」

「こっちにだって警察の知り合いはいます。上層部の人間のやり方に不満を持っている奴らは

多いんですから。下の人間を甘く見てはいけませんね。少年たちを少年院から連れ出したのだって、

彼らの力があったからです。きっと今ごろ上層部の奴らはテレビを見て慌ててるでしょう」

「なるほど、すべて計画通りってことか……じゃあ、あんたは共犯者ってことだ」

「かもしれないですね」

「かもしれない、って。それでいいのか? あんたは間違いなく首だぞ」

「もういい年ですし。それに・・・振り返ると、わたしらマスコミは

世間に悪い影響ばかり与えてきたような気がするんです。

今ごろになって遅いんでしょうが。国民に正しい情報を伝えるのが仕事なのに、

肝心の情報には上から力が加わって、止められてばかり。

あげくは視聴率稼ぎのために、ヤラセ寸前のことや、大げさな宣伝ばかり。

それで、世の中はどうなりました? 少しはよくなりましたか? ちっとも変わっちゃいません。

それどころか、ますます悪くなるばかりです」

タモノは男の話を小さく頷きながら、聞いていた。

「これは間違いなく、マスコミの責任です。変な知識ばかりを国民に植えつけて、

頭でっかちな人間ばかり作り上げてしまったんだから」

「……たしかに、そうかもしれんが」

「ひとつくらい、世のためのことをしてみたいじゃないですか」

「いくら悪い人間だといっても、テレビのなかで殺したりしては・・・」

「そんなに簡単にヒトを殺したりしませんよ。この目的はどんな少年でも

包みこもうとする誤ったベールを取り去ること。それらを脱がせて、

ひとりの人間として彼らの姿をちゃんと世間に示してやることなんですから」


その後、二人の間に沈黙があった。

次に何と言っていいのか、お互いにわからないようだった。

「もうここから見守るしかありませんね」

タモノは反論することができなかった。

スタジオから出てしまったいまの自分には、

もうこうやって外から見ていることしかできないのだから。


自分の喋る言葉、しぐさで世間の多くに影響を与えていたタモノも、

いまは単なる視聴者に過ぎなかった。


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