10年革命
テレビの中では最初のコーナーがはじまったところだった。
司会者タモノと芸能人が、お互いがお互いを誉めたり、
自慢話をしたり、所々に無難な笑いを交えて進んでいく。
観客も楽しそうなふたりの姿を見ながら、わけもわからず笑い声を上げる。
中身のない会話を繰り返しながら、あっという間に時間は過ぎて、
いつものように、タモノは次回の芸能人に電話をしながら、
「ドウダローーーー」
と最後に叫んだあと、番組はCMに入った。
次々と番組のコーナーが終えていき、いよいよ例のコーナーが始まった。
時計は、十二時三十分を過ぎたところだった。
わたしはテレビの前に正座をしていた。
両脚の上に置いた二つの拳からは汗がにじみ、ひんやりと太ももに伝ってきた。
一般人が登場して各々の特技を自慢するコーナーだった。
スタジオに五人の素人が現れた。
・・・どれが、あいつだろう。
そう考えたのは一瞬だった。
ひとめで、それはわかった。
五人のなかに、ひとりだけどう見ても仲間ハズレの人間がいたから。
テレビのスイッチを切りたい、とっさに思った。
これから何か普通でないことが起こる。すぐにそれが理解できた。
あいつは、顔を隠したまま立っていた。
子供が喜びそうなサザニさんのお面をつけて・・・
タモノも、まわりの出演者もその格好を別に不審には思っていないようだ。
テレビに出ようとする人間なのだから、その程度のアブノーマルさがあっても不思議ではない。
実際、今までにも他のものより目立とうとして水着姿で出てきたり、
顔全体を白くペイントして出てきたりする素人がいたくらいだ。
だから、別にお面くらいごく普通であった。
わたしは横に置いていた小学校の卒業アルバムを急いでめくった。
分厚いページはなかなか思うように捲れてくれない。
六年三組のページに屁鳴克哉、の名を見つけた。
横に顔写真が並んでいる。
一重の細い目は眠たそうで、鼻も口もすっと薄い感じで、全体的に地味な顔。
いまも同じ顔であるわけないが、もし面影が残っているとすれば、
あまり進んで、テレビに出たがるタイプには思えない。
テレビの中では、タモノがお面をいじりながら話を続けていた。
いまはまだ何も起こっていない。
今ならまだ、テレビの外側に止まることができる。
そう言い聞かせる自分がいた。
にもかかわらず、わたしの手はリモコンには伸びない。
身体が固まって動かないから、ではなかった。あいつの復讐が怖かったのでもない。
中学生のとき、ビデオテープを回していた頃の自分がそこにいたから。
屁鳴克哉、彼はあのときの自分。自分の分身として今、テレビの向こうにいる。
目覚めて、一時間近くが過ぎようとしていた。
タモノのアップを映していた画面がしばらく続き・・・
そして屁鳴とタモノのツーショット映像が流れた。
でも、さっきとどこか違う気がした。
先ほどまで並んでいた様子とは、若干、何かがずれている。
あ・・・
ずっとお面を押さえていた屁鳴の手がいまはない。
彼の両手が下に伸びようとしていた。
左手はタモノの腰のあたりをゆらゆらと漂い、右手はズボンのポケットに伸びていく。
ポケットに入った右手がなかでごそごそと動いて、止まった。
次の瞬間、屁鳴の左手がタモノの腕をつかんだ。
ポケットから出た右手がタモノの頭部に伸びた。
その右手の中には、黒光りする拳銃が握られていた。




