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世界が反転したかのような衝撃の後、俺は冷たい石の床の上にポツンと立っていた。
そこは地底に築かれた巨大な回廊だった。夜気は剃刀のように鋭く鱗を焼き、空気は氷のように冷え切っている。幾重にも重なる重厚なアーチ状の天井を見上げ、俺は内心で毒づいた。
「やけに陰険臭いところだなぁ」
そう思って、状況を確認するために少し首を伸ばした、その時だ。
――ゴンッ!!
天井に顔面が真っ向からぶっ刺さった。
「ぬあー! 狭苦しいぃぃぃ!!」
視界が真っ暗になる。どうやら俺のサイズに対して、この歴史的な自然形成物は少々規格外に小さすぎるらしい。ジタバタと頭を引き抜くと、足元から何やら恍惚とした、震えるような声が聞こえてきた。
「……おお、偉大なる世界の終焉をもたらせし、ニーズヘッグ様……!」
おやおや、俺の名前を知っているファンかな?
俺は「コホン」と一つ咳払いをして喉を整えた。
「ンッ、ンッ、アー! ……えー、どちら様で?」
そっと振り返り、地面に転がっている「豆粒」を見る。豆粒?
蟻が喋っているのかと思ったが……違う、人間だ。
人間だと!? じゃあ、さっきのあのリス、めちゃくちゃデカかったんじゃないか。
「なんてこったい!!!!」
どうやら俺は、想像以上にデカいらしい。
豆粒人間が何か必死に訴えかけているが、声が小さすぎてよく聞こえない。とりあえず、間違って踏み潰すといけねえから、尻尾を振って合図する。
「ちょっと離れてくれい」
男性(豆粒)は驚くほど素直に距離を取った。物分かりのいい奴だ。
その時、廊下の奥からジャラジャラと金属音が響いてきた。
光り輝く鎧、重装の盾。恐ろしげな剣や槍、杖にクロスボウまで携えた集団が迫ってくる。
「そうか、なるほど。あいつらが神に仕える何とやらだな。俺やリスの快適ニートハウスを壊そうとする手先だ」
そして、俺のニートハウスを守る手助け(?)をしてくれたこの豆粒男性を殺そうというのか。
「許さーーーーん!!!!」
俺が威嚇のために一喝すると、敵の集団は即座に立ち止まり、次の瞬間には蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「戦わずして逃げるとは、何と愚かな。」
……だがしかし、助かった。本当に強かったら、怖いもん♪
死ななくても、擦り傷とか毒で微熱が出たり、頭痛になったりするかもしれない。健康第一だ。
さて、このめまぐるしい檻のような場所から早く出たい。
俺は体を低く伏せ、豆粒男性の方に顔を近づけた。
「ここから出たいんだけど。道案内してくれる?」
「ええ、勿論ですとも……!」
よっしゃー! 心の中でガッツポーズ。言葉と話が通じる、そうこなくっちゃ、パセリ残さなくっちゃ。これで俺の異世界「マイドゥリィミィーワンディーリィーフ(マイドリームワンダフルライフ)」は安泰。最高のドラゴン生活の幕開けだぜ!
――そう確信した瞬間だった。
ポロッ。
「ん?」
左耳のあたりから、何かがこぼれ落ちた。
なんだ、耳くそか?
だが、その耳くそらしき物体は、石畳の上でキラキラと黄色い輝きを放っている。見覚えのある、あの丸い宝石だった。
「あれはーーーー!!!! マイハートゥーー!!」
胃袋に収めたはずが、逆流して耳から出たのか!?
俺の心臓は無情にも転がっていく。
コロ……コロ……コロ……。
コツンッ!
それは、いつの間にかそこに立っていた、一人の謎の超絶美少女のブーツに当たって止まった。




