余興②ボツ案3公開
タイトル「ペン回し部は廃部です!」
ざっくりキャラ紹介
或波 由仁助:高1男子。背が低い。ペン回しが好き。
乾 涼夏:高1女子。背が高い。ふわふわとしたショートボブ。ルービックキューブが得意。
黒崎 志狼:高1男子。長身痩躯の美少年。長髪。語尾が変な人としてクラスでは浮いている。
第3案は、「チビのペン回しバカ+長髪の変人」という2人を主役に置いた、今の本編の原型にあたります。前半と後半で主役がユニ助からシローに移る構造はこのときに考えました。個性豊かな部員たちのキャラ設定にかなり悩んだため、他にもいくつもの没原稿があります。どれを投稿するか迷いましたが、余興で言及したパーコが頭いいキャラのパターンにしました。他にも、おバカキャラだったり頭のネジが外れた人だったりしました。兎澤さんは腐女子でした。根古屋はこのときに確立されていて、第4案にはそのまま引き継がれた形になります。ちなみにシローの語尾が「わいな」「だわさ」なのは、当時読んでいたキン肉マンの影響です。
ボツ理由:キャラ設定を変更しすぎて訳がわからなくなったため。
あなたの好きなものは、何だろうか?
それがどんなことでも、人に話したら笑われてしまうようなことだとしても、熱中できる何かを持っているのは素晴らしい。
これは特に学生に対して言えることだが、打ち込んでいる、という動詞には枕詞のように部活動という単語がついて回る。しかしながら、部活動に所属していない人間は、何にも打ち込まずにただ漫然と限りある日常を浪費しているかと言うと、必ずしもそうではない。
日が暮れるまで白球を追ったり、仲間と大会を目指して切磋琢磨したり、文化祭でラブソングを歌うことだけが青春ではない。部活動などという枠組みで社会から奨励されているものに限らず、青春の形は、人の数だけ存在する。
この物語は、そんな部活にはならない『一芸』を持った少年少女が自身の居場所を確立する過程を描いた、馬鹿馬鹿しくも愛おしい奇譚、或いは、誰かにとっての英雄譚である――
* * *
桜散り、四月半ばの昼下がり。
放課後。某県某所に存在する、公立・鷹爪高校。そのグラウンドでは、運動部が競い合うように声を張り上げウォーミングアップを始めていた。フレッシュな新入部員を抱えて、グラウンドは今日もいっそうの活気に満ちている。
「イチ、ニ! サン、シ!」
「おら1年声出せー」
その活気はグラウンドの中に留まらない。揃いのユニフォームと坊主頭の集団――鷹爪高校野球部が校外をランニングしていた。統制された掛け声とともに、住宅街の一角を走り去っていく。
その遥か後ろを、2人の男子生徒が走っていた。学校指定のジャージに身を包みながらも、2人は遠くからでも見分けがつくような対照的な外見をしていた。
「――ユニスケ。なぁ、ユニスケよ」
1人は長身痩躯の美少年だった。
気だるげな半眼に、すらりと通った鼻筋。片目にかかる長い前髪に、無造作に伸ばした襟足は鎖骨にかかるほどの長さ。今でこそ深刻な酸素不足に苦悶の表情を浮かべているが、それを補って余りある美形だった。
「なんだ、シロー……」
ユニスケと呼ばれたもう1人は、シローとは反対にかなり背の低い男だった。前髪を真ん中で分け、高校デビューで今風のツーブロックを入れてもらったものの、低身長に童顔も相まって余計幼く見えてしまっていた。目指したのはリヴァイ兵長だったが、せいぜいかりあげクンがいいところである。
シローは片目に被さる長い前髪を首を振って払いのけた。毛先の汗が飛び散って太陽光が反射し、キラリと素敵なエフェクトがかかる。
「これが正式な活動内容なのか……俺は甚だ疑問に思うわいな……」
その特徴的な語尾と独特のオーラのために、クラスの女子生徒たちに憧れを寄せられることもなく、シローは放課後、こうしてユニスケと無為に時間を潰していた。
「だらしないぞシロー……ハァ……ハァ……走り込みは、部活の基本だろ……」
「そうは言っても……『ペン回し部』に走り込みは必要ないと思うわいな……」
「お前もペン回し部の部員なら……俺みたいに、走りながらフェイクトソニックぐらい……ハァ……続けてみせろよ……」
過酷なランニングで大幅に体力を削られ、ふらつきながらもユニスケは右手をシローに見せつけた。ペンを人差し指と中指の第一関節の間に挟み、振るようにして両端を空中で旋回させるソニック系の基本技『フェイクトソニック』。授業中の教室を見渡せば、必ず1人はぷらぷらと回している、非常にポピュラーな技だ。それをユニスケはランニング中ずっと回し続けていた。
「意味がわからないわいな……ノリが昭和のスポ根アニメだわさ……」
「ごちゃごちゃうるせー……部活といえば、走り込みだろーが……」
ユニスケの愛用ペンはuni α-gel クルトガエンジン搭載モデル。シリコンゴム製のグリップは使うほどに馴染んでいき、その感覚がユニスケは好きだった。新型のモデルも発売されているが、ユニスケはこのモデルをずっとリピートしている。
「くっそ……適当に野球部の走り込みに付いてったけど、結構疲れるな……ハァ……」
「やつら、このあと普通に練習とかするわいな……フィジカルモンスターだわさ……」
「負けるなシロー……! これから俺たちもペン回し部の練習するぞ……! 椅子とかに座って……! ぐあぁっ!」
ユニスケは崩れ落ちるように道路に倒れ込んだ。野球部とは大きく離されたものの、ユニスケとシローはついに外周を走りおおせたのだ。膝に手をつき肩で息をするシローと、校門前で大の字になって力尽きているユニスケ。呼吸を整えるのに必死でその場から一歩も動けなかった。
「……なんだ、あいつら?」
ピロティの片隅でサボりもとい休憩していたサッカー部の1人が、隣の友人に言った。
「『ペン回し部』だって。聞いたこともないな」
「非公認なんだろ」
「そりゃーそうか。ペン回し部なんてふざけた部活、あるわけないもんな……」
2人はあざけるように軽く笑い、グラウンドで行われている練習に合流した。
* * *
「ペン回しランニング。思いつきの割に、いいトレーニングになったな。ふむ、ペン回し部の活動に取り入れてもいい」
ジャージから制服に着替えて、ユニスケとシローは放課後の校舎内を歩いていた。
「明日もやるわいな?」
若干うんざりした様子のシロー。
「まぁしかし、運動しながらペンを回し続ける集中力を鍛えるためなら、必ずしも走る必要はないな。明日からはペン回しウォーキングにしよう」
「……おぉ」
「それと、放課後の貴重な時間を1キロも2キロも走るのに使うのはもったいない。だから、教室からここに来るまでの時間でやる」
「……」
「なっ、なんだテメーその目は! 別に走るのが嫌とかそういうんじゃないぞ! あんな体力ゴリラどもに合わせることはないってことだ! クソッ、何が野球部だよ。どいつもこいつもデカい図体で金属バットなんか振り回しやがって。危ないよ! あんな奴らが繊細なペン回しなんかできんのかよ! 舐めんな、コラ!」
「何も言ってないわいな……さて」
浅はかな相棒にかける言葉もないシローは、とある教室のドアの前で足を止めた。プレートの教室名は『2年9組』。
シローはスライド式のドアを開けた。整列された机と椅子、教卓と黒板。そこは、2年生の人数が例年より少ないために一クラス分余った空き教室だった。
部屋の片隅には段ボールの山や不要な机が乱雑に置かれており、半ば物置と化している。天井の照明は消され、カーテンが閉じていて昼なのに薄暗い。心なしか部屋の角に蜘蛛の巣でも張ってありそうな気にさせる。
シローの後に入ったユニスケは電気をつけた。薄暗い室内は、照明の光を受けて小汚い全貌を晒した。
ユニスケは適当な椅子に腰掛け、机にノートを広げると、宿題をするでもなくペン回しの練習を始めた。
「でも、学校の中にこんな穴場があったなんてな。昨日見つけたときはもうホントにアレだな! びっくりしたな!」
スリップトトリプルインフィニティを準備運動代わりにこなしつつ、ユニスケは近くに座ったシローに話しかけた。シローは読んでいた文庫本から顔を上げ、
「……読書とかお勧めするわいな」
と、ユニスケに差し出した。ユニスケはそれを手で払い、代わりに人差し指をずびしっとシローの胸に突きつける。
「ヘイヘイヘイ! 誰の語彙力が貧弱だって? この不思議っ子ボーイ。コミュニケーションはパッションだろーが。お前俺以外に友達いんのかよ?」
「入学してまだ数日なのにその質問は不毛だわさ」
「お前そのビジュアルだからギリ許されてるところあるけど、電波系なんかイマドキ流行んねーぞ」
「お前こそ、そんな小学生並みの身長でよく制服のサイズあったわいな」
つまるところ、2人は似たもの同士だった。彼らは高校からの付き合いだが、『普通』からほんの少し外れた彼らはよく気が合った。互いに遠慮なく皮肉を言い合えるのも、普通からの疎外感を共有しているからこそである。
「あーお前そういうこと言う? 偉大なるペン回し部部長に対してリスペクトの気持ちはないわけ?」
「部員は俺とお前だけ、非公認で部室もない、自分で言い張ってるだけの部活の部長なんて、誰でもなれるわいな」
「そう考えると、俺たちって何なんだろうな……」
「お前が自信なくしてどうするわいな」
この件を考えすぎるとよくない。話題を変える必要に迫られたユニスケは、とりあえず常日頃頭を悩ませている彼自身の問題を口にした。
「それにしてもモテねーなぁ〜っ!」
「お前は口を開けばそれだわな……」
シローは呆れた様子でため息をついた。放っておくとユニスケはこの手の愚痴をこぼすことを、シローは短い付き合いの中で学習していた。他にも小テストの点数や昼食をこぼす。
「何が足りないんだろーな、実際。高校デビューでメガネからコンタクトに変えたし、髪型も研究して床屋のおっちゃんにツーブロ入れてもらったよ。綺麗なハンカチも持ってるし、歯だって毎日磨いてる。最近はトークのネタ用にトレンディドラマだってチェックしてるのに……」
「……」
「それなのになんで全然モテねーんだろーな……髪型、清潔感、トーク……これ以上何を伸ばせばいいんだよ?」
「身長だわさ!」
悪気のないシローの一言が、ユニスケの心にボディブローのようにめり込んだ。
「ぐふっ……うっ……うあああっ……! わかってるよ、そんなことっ……どんなに努力しても、こんな小学生みたいな身長の奴が何してもモテるどころかお笑いだよな……くそっ、アオハルなんて嘘っぱちだっ……! リア充爆発しろっ……!」
「す、すまん。なにも泣くことないわいな、ユニスケ。いいものあげるから、勘弁してほしいわいな」
シローはブレザーのポケットから棒付きキャンディを取り出した。ユニスケに握らせてから、歳の離れた妹の宥め方と同じだったことにシローは気づいた。
ユニスケはキャンディをバリバリと齧ると、すっかり機嫌を直したようでアンニュイな顔で頬杖をついた。
「はぁ〜……女の子とお近づきになりたい! 願わくば仲良くなりたい! 欲を言えば、運命的な出会いがしたい!」
「運命的?」
「そうだな、例えばそこのドアが突然空いて女の子が飛び込んできたりとか……」
「back numberの聴きすぎだわさ」
シローが軽口を叩き、ユニスケは乾いた声で笑い飛ばす。空虚なやり取りだった。
すると。
ガラリ、と。それはドアが開く音だった。
ユニスケとシローは同時にドアの方を振り向く。半開きのユニスケの口から、キャンディの棒が離れて落下するさまがスローモーションのように映った。棒がポトリと落ちると同時に教室に飛び込んできたのは、ひとりの女子生徒だった。
「ぷはっ!」
女子生徒は教室に入るなり慌ただしくドアを閉め切った。鞄を床に放り出すと、よろよろと俯いて膝に手をつき、荒い息を吐いた。顔を見ることはできないが、着崩した制服と、明るく染まってウェーブのかかったショートボブは、見るものに派手な印象を与えた。
女子生徒は何度か大きく肩を上下させ、息を整える。ユニスケたちに気づいた様子はなく、だからということでもないが、彼らは黙って彼女の動向を見守っていた。
顔を上げた。
「はぁ、はぁ……ふぅ」
頭を振って前髪を払う。胸元のリボンの色から、ユニスケたちと同学年だとわかる。大きな垂れ目の童顔。しっとり汗ばんだ首筋。上気してほんのり赤く染まった頰が白い肌に映えた。ふわふわのショートボブも相まって、子犬のような可愛らしさを感じさせる顔だった。
整った顔立ちをしていた。申し分なく美少女といえた。退屈な日常に突然飛び込んできた彼女に、ユニスケたちは思わず見とれていた。
その視線に気付いてか、女子生徒は初めてユニスケたちを認識した。1人だと思っていた空間で、不意に他人と目が合ったので女子生徒は身を縮こまらせて飛び上がった。
「ひゃっ!? だ、誰!?」
「こっちの台詞かもしれんわいな」
思わず突っ込んでしまうシロー。それを受けて、女子生徒は胸の前で握った両手を解いた。縮こまった身体をゆっくりと戻すと、すらりと背が高い。ユニスケは彼女を見上げる形になる。
女子生徒は彼らに向けてニコリと笑いかけた。
「――乾。私は乾 涼夏。匿って?」




