静まる機体
時間は、思っていたよりも早く過ぎていた。
訓練に夢中だったわけではない。むしろ、一瞬一瞬に必死だった。
だが、気づけば終わりの時間は目前だった。
腰部装置を停止させ、兵装の解除に移る。
ノルド所長が傍らで説明していた。
「神経接続の解除には、少なくとも10分は必要だ。
無理に引き剥がすと、身体にも神経にも相当なダメージが入る。……たとえるなら、根っこごと引き抜かれるようなものだよ」
その言葉が、じわじわと現実味を帯びて感じられる。
装備のひとつひとつを、ゆっくりと取り外していく。
アームギア、ヘッドギア、レッグギア、そして腰部兵装。
冷却が進むたび、少しずつ体が軽くなるような、逆に疲れが流れ込んでくるような――そんな奇妙な感覚。
全身が、とにかく重い。
いや、これは私だけじゃない。
周囲を見渡せば、皆同じように床に腰を下ろしたり、壁にもたれたりしていた。
安堵とも、虚脱ともつかない表情。
その中には、苦し紛れのうめき声や、わざと明るく振る舞おうとする声も混じっていた。
「……終わったんだ」
そう思えば、気持ちはいくぶん楽になる。
けれど、頭の隅にちらつくのは「明日もある」という事実だった。
セリスに目をやる。
彼女は――まるで何事もなかったような、いつも通りの表情でいた。
変わらない。
疲れているはずなのに、そこに焦りも苛立ちもなく、ただ静かに。
目が合った。
その瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。
その瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。
それと同時に、こめかみから伝う一筋の雫が、頬をなぞる。
それは汗なのか、涙なのか、一瞬判断がつかなかった。
けれど、顎先まで降りてきたそれは、やがてぽたりと床に落ち、音もなく消えた。
それを見た私は、言葉を失った。
強いな、と思った。
優しいな、と思った。
どちらともつかない、けれど確かに美しいその一瞬を、胸に焼きつけた。