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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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静まる機体

 


 時間は、思っていたよりも早く過ぎていた。



 訓練に夢中だったわけではない。むしろ、一瞬一瞬に必死だった。



 だが、気づけば終わりの時間は目前だった。



 腰部装置を停止させ、兵装の解除に移る。



 ノルド所長が傍らで説明していた。


「神経接続の解除には、少なくとも10分は必要だ。

 無理に引き剥がすと、身体にも神経にも相当なダメージが入る。……たとえるなら、根っこごと引き抜かれるようなものだよ」



 その言葉が、じわじわと現実味を帯びて感じられる。



 装備のひとつひとつを、ゆっくりと取り外していく。

 アームギア、ヘッドギア、レッグギア、そして腰部兵装。


 冷却が進むたび、少しずつ体が軽くなるような、逆に疲れが流れ込んでくるような――そんな奇妙な感覚。




 全身が、とにかく重い。




 いや、これは私だけじゃない。


 周囲を見渡せば、皆同じように床に腰を下ろしたり、壁にもたれたりしていた。




 安堵とも、虚脱ともつかない表情。



 その中には、苦し紛れのうめき声や、わざと明るく振る舞おうとする声も混じっていた。



「……終わったんだ」



 そう思えば、気持ちはいくぶん楽になる。

 けれど、頭の隅にちらつくのは「明日もある」という事実だった。




 セリスに目をやる。


 彼女は――まるで何事もなかったような、いつも通りの表情でいた。


 変わらない。


 疲れているはずなのに、そこに焦りも苛立ちもなく、ただ静かに。




 目が合った。


 その瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。




 その瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。

 それと同時に、こめかみから伝う一筋の雫が、頬をなぞる。


 それは汗なのか、涙なのか、一瞬判断がつかなかった。




 けれど、顎先まで降りてきたそれは、やがてぽたりと床に落ち、音もなく消えた。



 それを見た私は、言葉を失った。



 強いな、と思った。

 優しいな、と思った。


 どちらともつかない、けれど確かに美しいその一瞬を、胸に焼きつけた。

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