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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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神代兵装

 


 静かに――私は、手のひらの上にあるガラスケースを見つめていた。



 中に満ちる、赤い液体。



 粘性がありそうで、けれど動きはしない。揺れない。空気も泡もないからだろうか。まるで生き物のような、あるいは無機質な宝石のような……矛盾した印象を同時に抱かせる。



 光を反射するたび、赤い輝きが指先に宿る。



 これが――“人工エネルギー”。




 誰もが知る、地下世界を支える命脈。電気にも、ガスにも、推進にもなる、万能の存在。……だけど、私は少しだけ、他人事のようにそれを見ていた。凄いものだと、ただそう思う。どこか感情の芯まで届かないままに。




 私はそれを腰部装置に差し込む。ひとつ、ふたつ……カチリ、と音がして、五つ。


 装填完了。



 そして、それを腰に装着した瞬間、奇妙な密着感が背筋を這い上がった。



 ぐるりと腰を一周して、身体にぴったりと固定される。



 そのとき、不意に――ゾクリと背筋をなぞる異物感が走った。



 ……何かが、内側に入ってくるような。神経に触れてくるような。血管が、繋がれたような。




「……これは、何?」




 “接続された”感覚がある。けれど、言葉ではうまく言い表せない。怖いというほどではない。でも、確実に――これは“自分の身体”ではない。



 私は深く息を吐いて、脚を動かしてみる。ガチャリ、と音がして、足を上げる。腕を軽く振ってみる。



 ……異常なし。身体に支障はない。だが、“なにか”は確かに、私の中に入り込んできた。



 腰部にも、推進機構がある。だが、どうやって動かすのだろう。



 手を動かすには、突き出す。 足を前に出すには、意識すればいい。


  じゃあ――空を飛ぶには? ジャンプ? いや、違う。



 私はまだ、その“感覚”が掴めないでいた。



 少し考え込んでいた私は、ふと周囲に目をやった。




 ――セリス。




 彼女の姿を見つけると、私はそのもとへ歩き、軽く、彼女の腕を突いた。




「……えい」


「えっ?」



 セリスは小さく声を上げ、バランスを崩しかけたものの、すぐに反対の足で体勢を立て直す。


「びっくりしちゃった……どうしたの、セラ?」


 私は返事の代わりに、腕を差し出し、アームギアを見せるように構える。



「防護性能、試してみたくて」



 と、ちょっと悪戯っぽく口元を上げてみせると、セリスはくすりと笑って、頷いた。



 セリスの兵装は、歩いても音を立てなかった。静かで、滑らか。無駄のない動き。私は特に気に留めなかった。ただ、それが“彼女らしい”と思った。




「セラ、見て!」



 呼びかけたのは、トゥヴァだった。


 彼女は私たちよりも少し小柄な身体に合わせて、少しサイズの違う神代兵装を装着していた。



 慣れない足取りでぎこちなく歩き、レッグギアの違和感を隠しきれていない。



「似合ってるわ、トゥヴァちゃん」



 セリスが優しくそう言うと、トゥヴァは露骨に眉間にしわを寄せた。けれど、怒るようでいて、その声には照れたような揺れがあった。



「……ありがと」


 その返しが、少ししどろもどろになる。


 私はふっと笑って、彼女の頭に軽く手を乗せる。


「ちんまりしてて可愛いじゃん、トゥヴァ」


 ポン、ポンと2回、優しく。


「なっ……だ、誰がちんまりよ!?」


 プンプンと抗議するトゥヴァに、私は肩をすくめて笑う。


「ごめんごめん。でも、似合ってるのはほんと」


 その言葉に、トゥヴァはぷいっと顔を背けながらも、そっと自分の頭に手を当てて――名残惜しそうに撫でた。



 私は再び、セリスの方を向いた。


「ねえ、セリス……飛ぶ感覚って、わかる? どうしたら……飛べるんだろう?」


 私の問いかけに、彼女は頬に指を当て、くるりと目を上に向けて考える仕草をする。


「うーん……“飛ぶ”、かあ……」


 ふっと笑ってから、軽やかに二、三歩後ろに下がる。



「……やってみないと、わからないわ」



 彼女はそう言って、目を細める。


 その瞳は、まっすぐ前を向いていた。まるで風の気配を探すように、そっと感覚を研ぎ澄ませる――

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