神代兵装
再び、広いトレーニングフロアへ戻ってきた。
見上げるほど高い天井と、見渡す限りのコンクリート の床は相変わらず広い。
そしてその中央には、装備品ともガラクタとも判別のつかないものが、金属製のコンテナに乱雑に積まれていた。
フロアの一角では、仲間たちが静かに列を作って座っていた。その前に立つのはカティナ教官。
その隣にいる、青灰色の作業着に白衣を羽織った細身の男性は、どこか研究者らしい雰囲気を纏っていた。髪はぼさりと乱れ、眼鏡の奥の目はどこか鋭く、けれど笑みを絶やしていない。
「静かに。今から重要な説明に入る。聞き逃すな」
カティナ教官が鋭く言い放ったあと、男性の肩を軽く叩く。
「紹介する。神代兵装の研究と製造を担当している技術研究部門の現所長、ノルド・ルイゼン氏だ」
「はいはい、どうもどうも」
ノルドと呼ばれたその男は、軽い口調で手をひらひらと振ってから、ゆっくりと一同を見渡す。
その視線は冗談めいていながら、どこか真剣だった。
「初めまして、皆さん。ノルド・ルイゼンです。ここでは『所長』と呼ばれてます。まあ、名前を覚える必要はありません。必要なときに呼んでも、きっと私はいませんので」
場がわずかにざわめくが、気にせず言葉を続ける。
「さて、冗談はそこそこにしておきましょう。今日、君たちに装着してもらうのは、量産型神代兵装。名ばかりの量産型と言わないでくれ、性能は本物だ。いや、それ以上だと自負してる」
言いながら、彼はは金属ケースをひとつ開き、中から黒と銀の複雑な装置を取り出した。
「まずはこれだ、ヘッドギア。耳を覆う形状で、ちょっとヘッドホンみたいでカッコいいだろ?」
近くまで歩きながら見せてくれるそれは、確かに洗練された機能美を持っていた。左右のイヤーカップの片方には発信モジュール、もう一方には受信センサーが埋め込まれている。
「左耳が受信、右耳が送信。つまり、常に『聴き』、『伝える』。通信は作戦の命だ。各部隊で周波数を切り替えれば、模擬戦でもリアルでも使える。君たちの声は、このギアが、必ず仲間に届けてくれる」
教官がそれぞれにヘッドギアを配る。受け取る手には、自然と力が入る。
「次、アームギア。見た目は腕輪みたいだが、あなどるなよ」
彼はにやりと笑い、今度は円形の装置を持ち上げる。
「これは高出力のエネルギーに反応してシールドを展開する。爆発、衝撃、熱、衝撃波――すべてを軽減する優れものだ。武器の邪魔にならないように設計したつもりさ。敵の攻撃から、君たちの腕と命を守る。信じてくれていい」
次々に手渡されるアームギア。金属の冷たさが、どこか心地よく感じる。
「さて、次はレッグギア」
次に両手で持ち上げたのは、やや大きめのパーツ。足裏、踵、足首――多方向に噴射ノズルが並ぶ。
「レッグギア。これは足裏、踵、足首、左右に小型ジェットが組み込まれていて、さらにブレーキ用の逆噴射装置、尾翼機構、方向舵補助が備わっている。……高所からの着地衝撃を吸収し、飛行や滑空、制動操作を可能にする。片足運用だと安定性はないけれど、両足で扱えば、非常に優秀な機構だよ」
驚くべき精度で緻密に設計された装備が、次々に配られていく。私たちはそのひとつひとつを手に取りながら、言葉の重さを理解していった。
そして最後に、彼は静かに片手を上げ、小さな赤いガラスアンプルを見せた。
透明なガラスの中に、鮮やかな赤が脈動している。
「……そして、これが腰部兵装。量産型神代兵装の“心臓”とも呼べる部分だ。次世代型の人工エネルギーを使用している。……この“赤いアンプル”は、地下世界において、電力もガスも動力も代替する万能エネルギーだ。人類の英知の結晶、そう言って差し支えないだろう」
ノルドはそう言って、ゆっくりとカプセルの装着デモを行った。腰部の装置を開き、中にアンプルを五本、等間隔に差し込む。そして――カバーが閉まると、機構全体がわずかに光を帯びた。
「これは君たちの体内を巡り、血液のように働く。人工エネルギーが“君たちの血”を流れる…そういうイメージで使ってくれ。怖がらなくていい。正しく動けば、神代兵装はきっと君たちを守ってくれる。逆もまた然りだけど、ね」
どこか達観したような笑みでノアは語る。
その声は淡々としている。
各自、それを装着していく。
「神代兵装は、君たちの神経と血液、まさに体の一部として接続されることで初めて本領を発揮する。それを恐れず、制御することができれば……人は空を飛ぶことも、死線を越えることも可能になる」
彼は笑みを浮かべて最後に一言付け加える。
「さあ――これから君たちには、“空を知ってもらう”時間だ。飛行テストに備えてくれ。準備はいいね?」
その言葉に応えるように、カティナ教官の厳しい声が響く。
「話は以上! 各自、神代兵装で飛行テストを開始しろ!!」
重なるように、金属が軋む音がフロアに満ちる。