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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
112/123

交わる声と名乗りと

 



 食堂に漂う香ばしい匂いが、疲れ切った身体に染みる。



 配膳台の列に並び、目の前に現れたのは――

 麦とトウモロコシの混ざったほくほくのご飯。ダシの効いた香り高いスープに、やや弾力のある合成肉の前菜。質素ながら、空腹を十分に満たしてくれる内容だった。


 トレイを受け取り、コップに水を汲む。


 それから、セリスの隣――いつもの席に腰を下ろす。



 ふと見ると、トゥヴァも当然のように隣に座ってきた。

 しかも少しだけ、私の方に寄ってくるような距離感で。



(昨日もそうだったけど……この並び、もう固定になってる?)



 向かいでは、オルエがじっとセリスのトレイを見つめていた。

 その視線は明らかに“アイス”を探している様子だったが、見つけられなかったのか、肩を落としていた。


 ――すると、二つの影がふわりと近づいてくる。



「こんにちは、セリスさん」



 それはまるで、ひとつの声のように重なって聞こえた。



 顔を上げると、そっくりな双子の少女たちがセリスに声をかけていた。



 セリスは、いつもの穏やかな笑みを浮かべて応じる。

 まるで、この突然の訪問をすでに知っていたかのように、自然だった。



「先程のトレーニング、見て(たよ)ました」

「運動も息を一つ乱さず(ないで)、射撃も卒なくこなす(なんて)、素晴らしいです(すごかった)」

「なにかコツなどありますか(あるの)?」


 見事なハーモニーのように、交互に言葉を紡いでいく二人。

 聞き取れないほどではないが、集中しないと混乱しそうだ。



 ねぇ、君たちは?」


 思わず、私がそう問いかけると、双子はそろってペコリと頭を下げた。


「あ……そうですね(ごめんね)」

「名前、S2型-006(007)、ロナ(ゼナ)です(だよ)」



「あなたは、セラさんですよね?」



「セリスと肩を並べていたので(いたから)、自然と耳に入りました(入ったよ)」




「えっ……あ、ありがとう。私の名前、意外と知られてるんだ……」



 ちょっと驚いた私の隣で、トゥヴァがスプーンを握りしめて立ち上がった。



「ちょっと、同時に話さないで! なに言ってるのか、わかんないじゃない。論外なことしてないで、一人ずつしゃべりなさいよ!」



 ビシッと決めるその姿勢に、双子は首をかしげる。



「そちらは?」

「あなたは?」



 ――まるで、自分だけ知られていないことに気づいたような問い。



 トゥヴァは一瞬、ぐっと唇を噛んだが、すぐに堂々と胸を張って名乗った。



「S2型-024、トゥヴァよ!」



 名乗り終えると、少しだけ得意げにこちらを見上げてくる。

 ――ほら、ちゃんと言えたでしょ。そんな気持ちがにじみ出ていた。



 私はそっと笑い、トゥヴァの頭を撫でる。


「よくできました」


 言葉にはしなかったが、その気持ちは手のひらから伝わるように。


「ちょ、なによ!? 急に……なになに?! なにするのよっ!」


 プンプンと怒る彼女を見て、またひと笑いがこぼれそうになる。


 双子のロナとゼナは、くすりと笑ってからぺこりと頭を下げた。


「覚えておきます(おくね)」


 そのタイミングで、セリスがふわりと声を上げた。


「ふたりとも、ごめんなさい。お話の続きは、食後でもいいかしら? 食事が冷めてしまうもの」


「……はい(はぁい)」



 どちらからともなく返事をして、双子は別の席へと移動していった。

 トレーニングの疲れがまだ残るのか、足取りは少し震えていた。


「ここにも、いろんな子がいるね」


 セリスがぽつりと呟いた。


「いや、私も……ああいう子たちは、初めて見たかも。珍しいよ、たぶん」


 私の返答に、セリスはふふっと微笑んだ。


 食事も終盤に差しかかるころ。

 私とセリスのトレイはすでに空になり、コップも空っぽ。


 オルエの姿は見えず、視線をやると配膳の人におかわりをねだっている最中だった。



 ――時計の針は、じわじわと11時へ、12時へと近づいていく。

 再び、あの訓練場に戻る時間が迫っている。


 午後の訓練が、また始まる。

 そう思うと、なんだか胸の奥が少しだけ重たくなるのだった。

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