交わる声と名乗りと
食堂に漂う香ばしい匂いが、疲れ切った身体に染みる。
配膳台の列に並び、目の前に現れたのは――
麦とトウモロコシの混ざったほくほくのご飯。ダシの効いた香り高いスープに、やや弾力のある合成肉の前菜。質素ながら、空腹を十分に満たしてくれる内容だった。
トレイを受け取り、コップに水を汲む。
それから、セリスの隣――いつもの席に腰を下ろす。
ふと見ると、トゥヴァも当然のように隣に座ってきた。
しかも少しだけ、私の方に寄ってくるような距離感で。
(昨日もそうだったけど……この並び、もう固定になってる?)
向かいでは、オルエがじっとセリスのトレイを見つめていた。
その視線は明らかに“アイス”を探している様子だったが、見つけられなかったのか、肩を落としていた。
――すると、二つの影がふわりと近づいてくる。
「こんにちは、セリスさん」
それはまるで、ひとつの声のように重なって聞こえた。
顔を上げると、そっくりな双子の少女たちがセリスに声をかけていた。
セリスは、いつもの穏やかな笑みを浮かべて応じる。
まるで、この突然の訪問をすでに知っていたかのように、自然だった。
「先程のトレーニング、見て(たよ)ました」
「運動も息を一つ乱さず(ないで)、射撃も卒なくこなす(なんて)、素晴らしいです(すごかった)」
「なにかコツなどありますか(あるの)?」
見事なハーモニーのように、交互に言葉を紡いでいく二人。
聞き取れないほどではないが、集中しないと混乱しそうだ。
ねぇ、君たちは?」
思わず、私がそう問いかけると、双子はそろってペコリと頭を下げた。
「あ……そうですね(ごめんね)」
「名前、S2型-006(007)、ロナ(ゼナ)です(だよ)」
「あなたは、セラさんですよね?」
「セリスと肩を並べていたので(いたから)、自然と耳に入りました(入ったよ)」
「えっ……あ、ありがとう。私の名前、意外と知られてるんだ……」
ちょっと驚いた私の隣で、トゥヴァがスプーンを握りしめて立ち上がった。
「ちょっと、同時に話さないで! なに言ってるのか、わかんないじゃない。論外なことしてないで、一人ずつしゃべりなさいよ!」
ビシッと決めるその姿勢に、双子は首をかしげる。
「そちらは?」
「あなたは?」
――まるで、自分だけ知られていないことに気づいたような問い。
トゥヴァは一瞬、ぐっと唇を噛んだが、すぐに堂々と胸を張って名乗った。
「S2型-024、トゥヴァよ!」
名乗り終えると、少しだけ得意げにこちらを見上げてくる。
――ほら、ちゃんと言えたでしょ。そんな気持ちがにじみ出ていた。
私はそっと笑い、トゥヴァの頭を撫でる。
「よくできました」
言葉にはしなかったが、その気持ちは手のひらから伝わるように。
「ちょ、なによ!? 急に……なになに?! なにするのよっ!」
プンプンと怒る彼女を見て、またひと笑いがこぼれそうになる。
双子のロナとゼナは、くすりと笑ってからぺこりと頭を下げた。
「覚えておきます(おくね)」
そのタイミングで、セリスがふわりと声を上げた。
「ふたりとも、ごめんなさい。お話の続きは、食後でもいいかしら? 食事が冷めてしまうもの」
「……はい(はぁい)」
どちらからともなく返事をして、双子は別の席へと移動していった。
トレーニングの疲れがまだ残るのか、足取りは少し震えていた。
「ここにも、いろんな子がいるね」
セリスがぽつりと呟いた。
「いや、私も……ああいう子たちは、初めて見たかも。珍しいよ、たぶん」
私の返答に、セリスはふふっと微笑んだ。
食事も終盤に差しかかるころ。
私とセリスのトレイはすでに空になり、コップも空っぽ。
オルエの姿は見えず、視線をやると配膳の人におかわりをねだっている最中だった。
――時計の針は、じわじわと11時へ、12時へと近づいていく。
再び、あの訓練場に戻る時間が迫っている。
午後の訓練が、また始まる。
そう思うと、なんだか胸の奥が少しだけ重たくなるのだった。