戯れ〜トゥヴァ〜
朝。教官の声が鳴り響く中で、私はさっさと起きて支度を済ませた。
顔を洗っても頭が冴えないまま、自室の前に戻ってくる。
……で、なぜか私は、セラの部屋の前で突っ立っていた。
(あんたを……いや、セラを待ってるとか、そんなんじゃないから。たまたまよ、たまたま)
隣の部屋の中を覗き込むセラが「あれ?」とつぶやく。
その背中に、思わず声をかけた。
「お、おはよう!」
変に詰まる。ああもう、何で緊張してんのよ、私!
「……食堂で、水、飲みに行こ……!」
強気に言おうとしたのに、途中で自分でもびっくりするくらい声が弱くなる。
やっぱりこういうの、苦手。距離の詰め方って難しい。
「いいよ、ちょうど喉も乾いてたところだし。一緒に行こっか?」
セラのその一言に、心の中がふわっとなる。
(……うん、よかった)
「あ、うん!」
自分でも顔が明るくなったのが分かる。
思わず口元が緩んでしまった。
二人並んで歩きながら、ふと視界の端にセラの手が見えた。
(……手、つなぐとか、そんなんじゃないけど)
でも気になる。ちょっとだけ気になる。
目で追ってしまう。前に出すとそっちを見て、後ろに引っ込めるとまたそっちを見てしまう。
(ああもう、何やってんのよ、私……)
次の瞬間。
「わっ!」
「きゃぁっ!!」
顔の前に突然手を突き出されて、私は思わず声をあげてしまった。
両手で顔を覆って、目をつむる。
心臓が跳ねたみたいにドキドキしてる。
けどそれを悟られたくなくて、思いきり睨んでやる。
「な、何をするのよ!? びっくりしたじゃない!!」
私の怒りなんてどこ吹く風、セラは楽しそうに小走りしていく。
「ほらほら、人が集まってるかもしれないから急がないと~」
……はあ!? 何よそれ!
「ちょっと待ちなさいよ! 私が誘ってあげたでしょ!もぁーーーっ!!」
もう怒ってるんだか嬉しいんだか、自分でもよく分かんなくなる。