戯れ
グッと何かを堪えたような表情をしたあと、トゥヴァが口を開いた。
「しょ、食堂で……水、飲みに行こ……!」
最初は強気だったその言葉尻が、しだいにしぼんでいく。
「いいよ、ちょうど喉も乾いてたし。行こっか?」
その言葉を聞いた瞬間、トゥヴァの顔がぎこちなくも、パァっと明るくなった。
「う、うんっ!」
二人並んで、通路を歩き出す。
(なんだろう……友達作るの下手なのかな。でも、それを言ったら私も……)
苦笑いしながら、思わず心の中でセリスの顔を思い浮かべる。
(セリスみたいな距離感、真似しようとしたら引かれるよね。あれはあの子だから許されるというか、自然というか……)
ふと、視線を感じる。
トゥヴァが、じっと私の手を見ていた。
(え、手?)
試しに手を前に出してみる。視線は前へ。
今度は後ろに下げると……やっぱり、視線が手の方へ。
(……え、これって……)
まさかとは思いながらも、私はその手を――
「わっ!」と声をあげながら、勢いよく彼女の顔の前に差し出した。
「きゃあっ!!」
トゥヴァは両手を顔の前に上げて、思わず目をつむる。
そのあと、睨みつけるような視線で私を見た。
「な、何をするのよ!? びっくりしたじゃない!!」
声を張りながら怒るトゥヴァ。
私は彼女の抗議もお構いなしに、いたずらっぽく笑いながら小走りに先を行く。
「ほらほら、人が集まりはじめてるかもしれないし、急がないとー」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私が誘ってあげたんだからっ! もぁーーーっ!!」
プンプンと怒るその様子すら、どこか照れ隠しのようで、ふたりの足音が、フロアに軽やかに響いていた。