夜
脱衣場を出て、私たちは自室へ向かってフロアを移動する。
湯上がりの空気に包まれ、同じように大浴場を出てきた人たちと、これから入る人たちが交差していく。
行き交うたび、ほんのりとした湯気と石鹸の香りが肌を撫でた。
火照った肌が蒸気に包まれ、じわじわと熱を放っている。
その中で、セリスの白い肌も、湯の温かさを纏うようにうっすらと赤らんでいた。
体の芯まで温まったせいだろうか。
まぶたがふわりと重たくなって、足取りも少しだけ緩やかになる。
「……なんだか、ぼーっとするね?」
そう言うと、セリスも小さく笑って頷いた。
「えぇ。ふわふわする感じ……?」
私はそのまま、ぐーっと背伸びをする。
肩から首筋まで伸びて、湯の余韻がふわっとほぐれていく。
やがて、自室の前にたどり着き、セリスとはそこで別れる。
隣の部屋に入っていく彼女の背を見送り、周囲がしんと静まり返る。
ちょっとだけ、寂しい気持ちが胸の奥に沈んだけれど――まあ、そんなに気にするほどでもない。
私は腕のバングルを外し、投影の脇の装置に押し当てる。
「ウィーン」と小さな機械音と共に、バングルが吸い込まれていく。
「……どんな仕組みなんだろ、これ」
思わず覗き込んでみるが、当然、答えは出ない。
「着替えとかないのかな? まさか、ずっとこの制服……?」
部屋の壁際を、ペタペタと触って調べてみる。
最初は何もないかと思ったが、突然「ガタッ」と小さな音がして、表面がわずかにズレた。
中から顔を出したのは、小型のドラム式洗濯機のような、コンパクトな設備だった。
「……あるじゃん」
驚きながらも、その奥をさらに調べてみる。
すると、ベッドの隣の壁がスライドして、小さな押し入れのような空間が現れた。
ハンガーにかけられた3着の制服と、3枚分のカバー。
「あるじゃんか」
思わずひとりごちて、扉をピシャリと閉める。
そして、ベッドにばふんと身を投げた。
静かな部屋の中、天井を見つめて今日一日を振り返る。
目を覚ましたこと。カティナ教官。知らない少女たち。射撃テスト。
それから……セリスの顔が浮かぶ。
あの笑顔と、声と、手の感触。
心の奥で、ホッとするような、あたたかい余韻が残っている。
いやいや、そんなことより――
「……疲れた」
ぽつりとつぶやき、目を閉じる。
ゆっくり休もう。
そう思った瞬間、ふわりと眠気が降ってきて、私は静かにまどろみの中へ落ちていった。




