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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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脱衣場を出て、私たちは自室へ向かってフロアを移動する。



湯上がりの空気に包まれ、同じように大浴場を出てきた人たちと、これから入る人たちが交差していく。



行き交うたび、ほんのりとした湯気と石鹸の香りが肌を撫でた。


火照った肌が蒸気に包まれ、じわじわと熱を放っている。



その中で、セリスの白い肌も、湯の温かさを纏うようにうっすらと赤らんでいた。



体の芯まで温まったせいだろうか。

まぶたがふわりと重たくなって、足取りも少しだけ緩やかになる。




「……なんだか、ぼーっとするね?」



そう言うと、セリスも小さく笑って頷いた。



「えぇ。ふわふわする感じ……?」



私はそのまま、ぐーっと背伸びをする。

肩から首筋まで伸びて、湯の余韻がふわっとほぐれていく。




やがて、自室の前にたどり着き、セリスとはそこで別れる。



隣の部屋に入っていく彼女の背を見送り、周囲がしんと静まり返る。



ちょっとだけ、寂しい気持ちが胸の奥に沈んだけれど――まあ、そんなに気にするほどでもない。




私は腕のバングルを外し、投影の脇の装置に押し当てる。


「ウィーン」と小さな機械音と共に、バングルが吸い込まれていく。


「……どんな仕組みなんだろ、これ」


思わず覗き込んでみるが、当然、答えは出ない。




「着替えとかないのかな? まさか、ずっとこの制服……?」




部屋の壁際を、ペタペタと触って調べてみる。



最初は何もないかと思ったが、突然「ガタッ」と小さな音がして、表面がわずかにズレた。



中から顔を出したのは、小型のドラム式洗濯機のような、コンパクトな設備だった。



「……あるじゃん」



驚きながらも、その奥をさらに調べてみる。


すると、ベッドの隣の壁がスライドして、小さな押し入れのような空間が現れた。


ハンガーにかけられた3着の制服と、3枚分のカバー。




「あるじゃんか」



思わずひとりごちて、扉をピシャリと閉める。



そして、ベッドにばふんと身を投げた。




静かな部屋の中、天井を見つめて今日一日を振り返る。



目を覚ましたこと。カティナ教官。知らない少女たち。射撃テスト。


それから……セリスの顔が浮かぶ。


あの笑顔と、声と、手の感触。

心の奥で、ホッとするような、あたたかい余韻が残っている。


いやいや、そんなことより――



「……疲れた」



ぽつりとつぶやき、目を閉じる。



ゆっくり休もう。



そう思った瞬間、ふわりと眠気が降ってきて、私は静かにまどろみの中へ落ちていった。

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