湯けむりの向こうに 2
広く湯が張られた浴槽に、そっと足先を沈める。
熱がじんわりと冷えた足先を包み込み、まるで布団に潜り込むときのような安心感が広がった。
周囲では、それぞれ適度な距離感を保ちながら、少女たちが思い思いにくつろいでいる。
中にはすでに打ち解けた様子で肩を並べて会話に興じる者もいて、その様子に私はほんの少しだけ目を細めた。
ぴちゃり、と静かにお湯をかき分け、太ももまで浸かって、そのまま湯の中に屈み込む。
「……あっ、たか……い」
思わず小さく漏れた声とともに身震いが走り、深く息を吐き出した。
肩まで湯に浸かると、後頭部をそっと浴槽の縁に預け、だらしなく体を預ける。
すぐ隣に、セリスも足を伸ばして湯に浸かってきた。
ふと目が合えば、彼女は穏やかな笑みを浮かべる。そして、そのまま静かに湯に沈んでいった。
周囲の視線が一瞬、彼女に集まった気もしたが――当の本人はまったく気にしていない様子だった。
「……ふぅ」
セリスの口からもれた吐息が、心の糸を緩めてくれるような気がした。
お風呂って、いいな。
ぽつりぽつりと他愛もない会話が交わされる。
「セラ? 足は、本当に大丈夫?」
その問いに、私は湯船から足を上げて、軽くバタバタと揺らしてみせた。
「うん、もう全然。完治してるよ。飛んだり、跳ねたり、走り回ったりしてたし。動けてるの、不思議って言えば、不思議だけど」
「……なんだか、夢を見てるみたい」
「うん、言われてみればそんな感じかもね」
私はちょっといたずらっぽく笑って、言ってみた。
「ほっぺ、つねってみる?本当に夢じゃないかって」
するとセリスは目を閉じて、ふふっと微笑みながら、顔を近づけてきた。
「つねってもいいってことね?」
私はそっと彼女の頬を“むにゅっ”とつねる。
くいっと引っ張ると、セリスの顔がこちらに傾いて、「あう……」と間の抜けた声が漏れる。
つねっていた指を放すと、セリスは優しく微笑んだ。
「……夢じゃないみたい」
私も、真似するように自分の頬をぐっと引っ張る。
「……いたっ」
私、なにやってんだろ。
自分でも思わず笑いそうになったその瞬間――浴場の扉が勢いよく開いた。
「残り5分だ!!
時間内に速やかに入浴を済ませ、ここから出るように!」
カティナ中尉――いや、教官の鋭い声が響き渡り、パシャリと音を立てて扉が閉じられる。
「さっき入ったばっかじゃん……。はぁ、どうも、ゆっくりする時間ってないらしい……」
それでもセリスは、ゆったりとした動きを崩さなかった。
湯に馴染ませるように腕をなぞり、湯気でほんのり赤らんだ頬と肩が、どこか幻想的で美しかった。
「あぁ……私も、あったまってきたな」
名残惜しさを胸に、私は声をかけた。
「セリス、もう時間だし、上がろっか」
「ええ」
私たちは湯から上がり、他のみんなと一緒に、名残惜しそうに浴場を後にした。