風の魔法
お久しぶりです。
少しだけ書き溜められたので投稿再開します。
長々と描き続けて50話目です。
―――ピェスカーネ学院、大講堂……
「前半の授業最後を飾るはループス四大貴族は風の貴公子、シュウ・アキバレ様だ!天才と称される彼の芸術的な風魔法をとくとご覧あれ!」
再び壇上に躍り出たマシューは高らかに講師の名を告げる。次の瞬間突風が吹いて、先程生えた巨木の木の葉がヒラヒラと舞い落ちる。
そしてつむじ風は木の葉を渦巻く小さな竜巻にした後……その場にシュウが現れた。その瞬間、女子生徒の間でどよめきが起こる。無理もない、非常に整った顔立ちと風に揺れるサラサラの白髪……。容姿端麗な男は眼鏡を掛け直すと生徒達にウインクをした。
途端、女子生徒から黄色い歓声が上がる。逆に男子生徒は微妙そうな顔をしている。
「やぁ、皆さんこんにちは。私はウォルンのアキバレ家当主、シュウ・アキバレだ。今日は風魔法の素晴らしさを存分にお伝えしよう。では先程主席と聞いたソフィアさん……の隣の席に座る君!名前は?」
突如当てられたにも関わらず、冷静な表情の男子生徒。彼はイタチの獣人だ。その目は挑戦的であり、シュウを鋭く睨んでいる。
「はい、カオル・シモツキ、高等部3年です」
その挑戦的な目を見てシュウは口角を上げる。そして愉しげに彼に質問をする。
「ではカオル、君はソフィアに負けず劣らずの優等生だな?風魔法とは主にどのような使い方があるか、君は知っているだろう?」
ニンマリとした顔でカオルを見ながら待っているシュウ。彼は一つ吐息をつくと話し始めた。
「風魔法は、主に他の魔法の補助として使用することが多い魔法です。他には風刃を作り出したり、突風を巻き起こしたり、最上位とされる巨大な竜巻を起こす魔法などがあります。ただ……」
スラスラと紡いでいた言葉が途切れる。その様子を見てシュウは続く言葉を述べた。
「『非常に扱いにくい魔法である』」
そう彼がはっきりと明言すると、自身の魔法属性が風魔法であろう生徒達がビクッと反応した。カオルもまた彼ら同様に苦い表情となる。
「おや、失礼。何も馬鹿にするつもりなんて一切ないよ、私は自分の風魔法に誇りを持っているんだから!」
バッと手を広げた後、杖を振るとフワリと浮くシュウ。目の前の出来事に驚いてざわつく生徒達。
「風魔法が何故扱いにくいか?それは、他の魔法と異なり視覚的認識ができないからだ。植物は物質としてそこに存在し、水や炎は普段から使う。雷や氷もまた目に見える存在だね。加えて光や闇魔法は他の魔法とは異なるものだから別ベクトルの話だ」
先程イオリが生やした大樹の葉を風に乗せてクルクルと回っている。
「……では風は?確かに存在するものの、それそのものを見ることは叶わない。視覚的に認識するにはこのように物が動いている様を見なくてはいけない」
言い終えると教壇に再び降り立つシュウ。クルクルと回っていた葉は風を失って床に落ちていく。
「魔法において想像力が非常に大切なのは知っているだろうが、想像するには具体的な知識が必要だ。知らないものを想像しても、上手くできないのは当たり前だろう?」
持っていた透き通った杖を小さく一回転させると、彼は唱えた。
「『渦巻け、吹き荒べ、風よ立ち昇れ』」
ビュウ、と激しい音を立てて竜巻が立ち昇る。大樹がしなり、葉が勢いよく飛んでゆく。
眉ひとつ動かさず竜巻を見つめるシュウ。暴風は彼の髪をかき乱す。
「これが竜巻。直撃を喰らえば我々は簡単に吹き飛ぶ。いつも頬を撫でるそよ風とは訳が違う。かつての風魔法の大魔法士が強大な敵から街を守る際に使用したという」
ピキ、という音が聞こえ、教師陣が顔を青くする。再び杖を振って竜巻を止めた後、乱れた髪をかき上げる。
「……おっと、あまりに高威力過ぎたな。魔法障壁が壊れてしまう。今のは完全に魔力から作った風だけれど、屋外であれば実際の風を操ることができる。それは他の魔法と同じだ」
そう言うと、魔法障壁に魔力を注ぐ。ヒビが入った部分は一瞬で元通りになっていく。
「先程の私の失態でわかると思うが、攻撃魔法の攻防は攻撃者の魔力量と防御する者の魔力量の差で決まるんだ。今回魔法障壁が割れてしまった理由は、連続して桁外れの高威力の魔法にさらされたせいだ。
しかし、ただ盲目的に強いことを誇るのは愚者のする事、猟ある猫は爪を隠す、というだろう?魔力障壁が割れたからといって相手が自分より弱いと言う事にはならないからね、気をつけるように」
薄い魔力障壁を展開したシュウはその障壁に寄りかかる。すると、簡単に割れて彼はクルリとこちらを向いた。
「ほら、このようにね」
ヒラヒラと手を振って戯けてみせる。眼鏡をクイッと直すとシュウは改めて言葉を紡ぐ。
「『踊れよ踊れ、つむじ風』」
フワフワと浮かび出す落ち葉がワルツのようにクルクルと回り出す。
「……風魔法は、非常に繊細な魔法なんだ。目に見えない分コントロールが非常に難しくてね。かつては私も悩んだものだよ。そんな時は外に出るんだ。なんたって風は色々なものを運んでくれるからね」
いつの間にか呼び寄せたであろう光を纏った風の精霊がシュウの肩に乗っていた。
「『風の祝福を』」
彼がそう唱えると、大講堂の窓が一斉に開け放たれ、風が講堂内を吹き抜けた。生徒だけでなく、講師陣からもワッと歓声が上がる。
「こうして様々な魔法を私が使うことができるのは、風魔法を愛して理解し、努力したからだよ。どうか風魔法を嫌いにならないで努力してほしい」
そう言って微笑む彼の顔を見て多くの女子生徒が嬌声をあげる。一方で、多くの高学年の男子生徒はため息をつく。教員側にも吐息をこぼし、小声で愚痴をこぼす男が一人。
「やれやれ……、アキバレ家のおぼっちゃまシュウ様はフォローまで完璧かよ、実に優秀で模範的な領主様だこと」
ナツオイ家当主のカザンである。愚痴る彼を不快そうな目で見て口を開くのはフユガミ家の当主代理ミオ。その様子を見て、ナトが静かに防音魔法の障壁を張る。
「彼の実力は本物です、あなたのように怠惰に生きている魔法士と比べないでください」
その言葉に視線だけをミオに向けるカザン。一触即発かに見えたが、カザンが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「……あぁ、そうさ。俺の統治するラルフは俺が本気を出す必要がないくらい平和だからね」
事実、他領と隣接しているウォルンやスリガラと比べるとラルフが接しているのは海だけであり、治安はかなり良い。カザンが統治を怠るまでもなく手がかからない土地なのである。
「喧嘩を売っているのですか……ッ」
ガルルル……と唸るミオを見てカザンはクククと笑う。
「いいや?事実を述べたまでさ」
2人の言い合いにオロオロとするイオリとアリス、静観するルーとナト。その状況にヴェラが口を開いた。
「牙をおさめなさい」
語気は決して強くないが、他者を律する風格のある声。
「………ッ」
「失礼致しました、白の姫君」
両者は次期領主の言葉に従う。ヴェラの言葉への抵抗はそれすなわち4大貴族の領主への反抗として見做されるからだ。ナトが貼った防音魔法障壁の上からヴェラが防音魔法障壁をさらに張る。
「子供たちの前で私たちが争ってどうするの。ここはカルニボアで最も平和な地ループス領よ。領の子供達はもちろん、各地の領からやってきている外交官の子供たちだっている。
彼らは強かで賢い、私達よりよっぽどね。ここでの失態はループスの失態になる。それは私が許さない」
彼女は冷め切った目で2人を見る。その恐ろしい視線に耐えかねて目を逸らすミオ。ヴェラの覚悟に小さく吐息をつくカザン。
「次の昼休憩で2人とも少し頭を冷やしなさい」
―――こうして、特別魔法講義の前半戦が終了した。
趣味として描き始めて早数年…読んでいただいている方々には大変感謝です。
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