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植物の魔法

前回に引き続き魔法の授業回です。

植物魔法の授業です。

講師のイオリさんは、ループス領リュコスを治めるハルツゲ家の当主様です。

―――ピェスカーネ学院、大講堂


「皆さんこんにちは、僕はイオリ・ハルツゲです。植物魔法の講師……として呼ばれたので、できる限りわかりやすく説明しますね」


弱々しく笑いながら、イオリは教壇に立つ。彼は小さな鉢植えを抱えており、それを床にコトンと置く。

植物を見つめるその瞳は一段と優しく、とてもイヌ科最大の肉食獣、ハイイロオオカミとは思えない。

彼はその恵まれた体躯とは裏腹に、繊細で優しい性格である。彼は緊張して膝が笑いかけているのを隠しながら、必死に子供達を見つめる。


「植物魔法というのは、魔法によって植物の力を増幅させて、急激な成長をさせることで物理的に攻防を行なったり、その植物の特性……毒性のある植物の毒を増幅させたり、薬草の効果を増幅させたりすることで活用します」


そこまで言うと、鉢植えの小さな植物に杖を向け、小さく唱える。


「『枝葉を茂らせ、我を守れ』」


そう言うと、鉢植えの植物が急速に成長を始める。イオリが伸びてきた枝に足をかけると、その身体を押し上げながら植物は幹を伸ばし、葉を茂らせ、枝分かれを増やしていく。もはや立派な木となった植物の上、枝々と葉で編まれた籠の中で、イオリは小さく深呼吸する。


「実際、このように急成長をさせることも可能ですが使用者の魔力を非常に消費します。そのうえ、急成長したせいで短期間しか通常の植物は生きられません。魔力枯れと言って、魔力を浴びすぎると大抵の植物は枯れてしまう」


籠から出て説明すると、彼は悲しそうな目をしながらその幹を優しく撫でた。


「しかし、すぐに枯れないどころか、魔力を与えれば与えるほど特性が強化される植物があります」


高い樹高を気にせず軽やかに飛び降りると、ポケットに手を突っ込む。そして小さな種を手に乗せる。もう彼の顔に不安の色はない。集中し、魔力をその種に込める。すると芽吹きと同時に光り輝く花弁を持った花が咲いた。


「これは魔法花の一種、ルミナス。リュコスの観光名所としても名高い巨狼の森には、この花の群生地があることは知っているでしょう」


魔力を一層込めたことで、魔法花ルミナスは一段と大きくなる。草丈1メートルはあろうかというサイズになると、もはやその輝く花弁は眩しいくらいである。


「魔法花や魔法草は、魔力濃度の高い土壌に群生して生えるという特徴があるのは学んでいるかと思います」


フワリとルミナスの花弁を浮かせると、他のポケットからも様々な種を取り出して次々と魔力を込める。非常に長い蔦を伸ばし続ける植物や、炎を纏う花など、普通の植物とは明らかに異なる魔法植物がふわふわと浮いている。


「わぁ……」


どこからともなく感嘆の声が漏れる。とても最初のオドオドしていた人物とは思えない。楽しそうに、愛おしそうに魔法花達を見つめている。うっとりとした表情を浮かべていたイオリだが、ふと我に返って咳払いをする。


「……コホン、このように魔法花は各々の性質によって異なる現象を引き起こします。私をはじめとするリュコスの研究者達はこの魔法花達の活用方法を模索しているんです。そう遠くないうちに実用化されるはずです」


少し誇らしげに笑うイオリの笑顔を見て、一部の女子生徒達も顔を綻ばせる。この柔らかい笑みは人を虜にすることだろう。


「植物魔法の基本は、操る植物の特性をしっかりと理解することです。ちょっと座学のイメージの方が強くなってしまいますが……毒性のある植物などを扱う際に何も知らないままでは使用者にも危険が及びますからね」


頭をかきながら苦笑するイオリ。腰に下げていた軍手をつけると、再び別のポケットに手を突っ込み、硬そうな箱が取り出される。彼はその箱を開けると刺々しい何かを手にとる。


「ちなみに僕はこれで大怪我を負ったことがあります……これからその危険さをお見せしますので、大変危険ですので防御魔法を使用してください」


そう言ってそもそもの魔法障壁の上から防御魔法を幾重にも重ねる講師陣や生徒達を見届けた後、自分とその場の講堂の備品により幾重にも防御魔法を纏い耳栓をすると、思い切りその棘の塊を地面に叩きつけた。


鈍い衝突音と共に床にぶつかったその瞬間、鋭い閃光が走った。一瞬遅れて耳をつんざくような爆発音。火花を散らして暴れ回る棘の塊。気弱な生徒は恐怖して怯えている。


「『蔦を伸ばせ、動きを止めろ』」


イオリが杖を振って先程浮かせた蔦を伸ばしている魔法植物にそう命じると、暴走している棘の塊をグルグルと巻き込み、動きを封じてしまった。


「……フゥ、やはり危険な実験だったのでやらない方がよかったかもしれません。しかし、この実……ピュロボスの熟した実は、強い衝撃を加えられると先程のように大爆発を引き起こします。この魔法植物は、豊富な魔力を蓄えた土地でしか生育できず、森の奥深くにひっそりと生えていたりします。うっかりでも踏もうものなら先程のような爆発に巻き込まれてしまいます。私は昔まさにそれをやらかしたのですが……」


苦笑しながら頭を掻くイオリを見て目を剥く者、心配そうな表情を浮かべる者……。


「身をもってその危険さを知ることができてある意味勉強になりました。……さて、この凶悪な特性を持つ植物は、利用目的によって利益も不利益も生みます」

蔦に飲み込まれて見えないピュロボスの実を睨みながらイオリは複雑な表情をしながら続ける。


「この爆発力を利用して、解体作業などを楽に行うことが現在の活用方法です。しかし……先程の恐ろしい威力を見ればわかる通り、殺傷能力も非常に高いです。きっと高学年の皆さんは学んだとは思いますが、度々謀反やテロなどに使われる代物なのです……。植物に罪は無いのに」


そう言うと、イオリは一瞬怒りの表情を浮かべた。しかし、ハッと思い出したかのように解説を再開する。


「先程ピュロボスの実を飲み込んだ蔦植物は、エーデラヴァインと言います。勿論、魔法植物ですよ。これもまた方面の異なる凶悪な植物でして……、この蔦は簡単に言うと魔力を吸う植物です」


名前を聞いた瞬間ゾッと青ざめる講師陣。イオリはその反応を見ると苦笑しながら箱に丁寧に入れて封をした。


「我々講師陣……並びに先生方が警戒するのも無理はありません。エーデラヴァインはその場にある特に豊富な魔力を持つありとあらゆるモノに引き寄せられ、その魔力を吸収します。魔力を吸収すればする分だけ成長する魔法植物ですから、その分更に魔力を吸収してくるという非常に厄介な生態をしています」


イオリが視線を落として囁くように話す。


「元々の保有魔力量が多い者は、急激な魔力切れ……及び意図せぬ魔力消費を起こした際にショック反応を起こします。つまり、最悪の結果待ち受けるのは死……。だから私達魔法士の天敵として必ず覚えて置く必要があるのです」


有数の実力者達が青ざめる様子を見てその恐ろしさを実感したのか、カクカクと頷く生徒達。


「植物魔法の素晴らしさ……と、大変さはその植物の種類の多さにあります。通常の警戒すべき有毒植物を始めとする危険植物の他に、非常に変わった生態をもつ魔法植物を一通り覚えなくてはいけません。

それに、保有属性が植物の場合はその生態に合わせた活用術までしっかりと考えて発動しないと、発動者本人にまで被害が及ぶので……。ですから皆さん、ぜひこの植物魔法という魔法学をしっかりと学んでくださいね!」


伝説的な強さでも、逸話でもなく、最も恐ろしいのは身近な見えない危険ということである。イオリは、一礼をすると壇上から立ち去った。

ふわふわした感じの研究者のイオリ君です。

面白い、続きが読みたいと思った方はブックマーク、高評価etc…よろしくお願いします。


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