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零時過ぎ、酒場にて

シルヴェスさんが酔っぱらいノワールと鉢合わせです。

彼女が目にしたのは、大きな音を立てて尚、スヤスヤと安心しきった表情で眠る主人の姿だった。その頬には涙の跡があり、普段よりも子供のような顔をしていた。


あぁ、決して私には見せない。

楽しげな表情も。

弱音を吐いて泣き叫ぶことも。

安心しきって眠るその様も。


フェリシア領主たるもの、従者の前ですら強く気高くあろうと振る舞っているとでもいうのか。

決して私の踏み込めない、青春のその時を過ごした仲間たちにしか見せないその表情が、そこにはあるのか、と。

「……シルヴェスさん?」


ヘンリーが心配そうに、俯いて押し黙るシルヴェスに声をかける。一瞬で彼女の心境を察したものの、あまりの間の悪さに狼狽える。


「シルヴェス……?彼女は休ませなければ、私があまりにこき使ってしまった……、もう、誰も失いたくないんだ、だから……っ」


先程の衝撃音のせいか、眠りが浅くなったノワールがシルヴェスの名に反応し、寝言を呟く。それを聞いて、シルヴェスは驚きのあまり声を失う。


「おやおや……、随分とまぁお熱いことで」


ザギがニヤリと笑い、2人を揶揄う。キョトンと首を傾げるラヴィ。あぁ、成程と心配そうな表情から一転、ザギ同様ニヤリと笑うヘンリー。


「なっ……何ですか、ザギ様、ヘンリー様」


ザギの揶揄った言葉の意味を一瞬遅れて理解し、ボッと顔を赤くするシルヴェス。


「シルヴェスさん、ノワールを起こすから連れて帰ってもらえるかな?」


そう声をかけると、小さく頷くシルヴェス。


「あ!魔導車忘れてた……」


魔導車を呼ぶことを忘れていたことにやっと気づくラヴィ。ザギとヘンリーが深い溜息をつくが、ラヴィはゴメンゴメンと謝るばかり。結局、ノワールを起こすことになり、ザギがバシバシとノワールを叩く。


「……ん、うぅ。……シルヴェス?」


薄目を開けた彼の目に飛び込んできたのは、いるはずのない従者の姿。


「ハッ!私はどれだけ寝過ごした?!今日の予定は?!って、う、わ……っ!」


急に立ち上がったせいで、酒で酔っていた彼の足元はおぼつかず、側にいたシルヴェスを床に押し倒す形で倒れ込む……かと思いきや、ノワールは咄嗟に片手で彼女を支え、片手で全体重を支えていた。


「の、ノワール様。今日はまだ休日の夜です」


至近距離で恋慕の情を抱く主人に抱き止められ、軽くキャパオーバーとなっているシルヴェスだが、彼の問いにはしっかりと丁寧に答える。


「そ、そうか……」


咄嗟に抱き止めたものの、酔いと眠気が覚め始め、自分の置かれている状況がとんでもないことに気づいたノワール。先程はヤジを飛ばしていたザギもヘンリーも果てはラヴィさえも時が止まっていた。


「ありがとう……ございます」


両者カアっと赤くなる頬。互いに至近距離で顔を見れず、横を見るものの、体勢が体勢の為、やがて崩れた。


「……、ノワール、お前策士だな」


ザギがやれやれ、という様子で言うと、倒れ込んだノワールを起こす。ヘンリーは再び声をかける。


「大丈夫ですか、シルヴェスさん」


片手で顔を隠し、シルヴェスは首を振る。あまりの恥ずかしさに悶絶している。


かくいうノワールは、現実逃避に走っていた。


「これは夢だ、多分夢だ……じゃなきゃこんなおかしな状況……あぁ、もう」


そう愚痴りつつも、倒れ込んだままのシルヴェスにそっと手を差し伸べるノワール。


「すまない、シルヴェス。あまりに醜いものを見せたな」


ハァ、とため息を吐くと、ノワールはシルヴェスが弱々しく差し伸べた手を取り、グッと彼女の体を起こす。


「ノワールは、カッコ悪いとこ見せたくないんだもんね」


ラヴィがニコニコの顔で悪気なく言い放つ。

え?という顔をするシルヴェスに対し、ラヴィを睨み付けるノワール。


「煩いぞ、ラヴィ」


ザギがノワールとシルヴェス、2人の様子を見てヘンリーに耳打ちする。


「コイツら早くくっつけばいいのに」

「こら、ザギ」


時刻は既に0時を過ぎている。魔導車すら無いうえに、ラヴィが無理矢理引っ張って来たせいで、シルヴェスは薄着である。


「……クシュン!」


くしゃみをしたシルヴェスにノワールがコートをかける。


「さて、随分と気分転換させてもらった。そろそろ明日に備えて寝なくては……、今日はありがとうな」


感謝の意を述べ、満足気な笑みを浮かべた後、ノワールはシルヴェスと共に店を後にする。


「無理すんなよ、2人とも」

「楽しかったよ、また呼んでほしいな」

「またねー!ノワールぅ!」


三者三様ノワールとシルヴェスを見送る。


「……ぁ、ルーカス、明日支払う!」


思い出したかのようにルーカスに対し声をかけると、了解致しましたと、一礼をする。


「帰るぞ、シルヴェス」


苦笑を浮かべ、シルヴェスを呼ぶノワール。ポヤンとしたままだったシルヴェスは我に帰り、店を後にした。

2人は似たもの同士です、ハイ。


面白い、続きが読みたいと思った方はレビュー、ブックマークetc…よろしくお願いします。

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