第890話 黙認される集落②
アレンはカラッタ村の近くに混血人の集落を作ると決断した。
タジンは困惑するイグレ村長に向かって大ザルに乗せられた山盛りの非常食を突き出される。
「……こ、これは」
近所に引っ越してやってきた挨拶の品であると伝えたのだが、メルスから説明を受けて10分かそこらしか経っていないため、困惑のためどうしたら良いのか分からないでいるようだ。
だが、この「引っ越しの挨拶」を受け取ると、村長として混血人の集落を受け入れたことは理解できていた。
「そ、そのようなものを受け取ってはなりませぬぞ……」
村長の背後に立つ有力者の1人だろうか、老人の1人がしわがれた声で、村長に意見を言う。
(村長だけで村を回しているわけではないからな。「自らの子を生贄から救ってもらったから、こんな無茶なこと受け入れたんだろ!」とか言われて村の中で意見の対立が起きては困るんだよ)
混血人の集落はこれから長い年月をここに存在させなくてはいけない。
村の有力者も含めて、なるべく多くの同意をアレンは求めることにした。
「このようなこと私の一存では決められぬのだが……。守護番の方々が黙ってはいないのではないでしょうか」
困惑の状況を振り払うように暗黒騎士イルゼが階段を上がり村長に向かって口を開く。
「カラッタ漁村のイグレよ。急な申し入れで済まないな」
「こ、これは暗黒騎士イルゼ様!!」
「へへえ!!」
「暗黒騎士様が本当にいらっしゃったぞ!!」
「何故、暗黒騎士様がヒヒの混血人と一緒におるのだ……」
(お? ガディアック島担当の暗黒騎士イルゼ様の登場だ。あと俺をヒヒの混血人とか言った奴は後でぶっ飛ばす!)
ウッドデッキのように突き出た村長の玄関口でイルゼに対して、村長や村の有力者たちが跪く。
「彼らを見殺しには出来ぬゆえにこのような形となったのだ。これもアレンが暗黒神アマンテ様から受けた課題を解決するための過程に起きたことだ。村の中で受け入れろと言っているわけではないので分かってほしい」
イルゼは当初、アレンの説明を聞いた際に強く反対した。
そんなバカげた方法など聞いたことがないと切りかかる勢いだった。
だが、暗黒神から「穏便」に各大陸の問題を解決する必要がある。
この島にも混血人がたまに集落を作っており、それはアレンの見た目を小さな集落の門番でもヒヒの混血人だとすぐに分かったことからもはっきりしていることだ。
他に穏便で短期間に解決できる対案があるのか聞いたが答えられなかったため、アレンのやり方に乗ることにしたようだ。
なお、だからといって暗黒神が今回の対応にどのように応えるのかは分からないとイルゼは言う。
もしかしたら、とんでもない激怒して2人とも滅されるかもしれないらしい。
(イルゼも協力助かる。見殺しは後味悪いからな。なるべく「自立」して集落が活動できるようにしないとな)
暗黒騎士が認めている行動であるなら、このガディアック島の守護番も大神殿も何も言ってこないだろう。
「イグレさん。ご協力に感謝します」
「アレンよ。すまないが……」
「この村とは何かと縁がありますね。私も古くから伝わる厳しい生贄の儀式を中止にさせ、村長の娘さんを救ったのにまさか痺れ薬入りの食事で歓迎されるとは思いませんでしたよ」
村長の言葉はアレンが被せるように言われたため、最後まで言えなかった。
「ぶ!? そ、それは……」
村長はアレンの言葉に絶句する。
「その後全身を縛られ村人総出で亜神の魔獣であるベスペルに突き出されるは、守護番に引き渡されるは、その後は薄暗い湿気た地下牢に何日も閉じ込められるはで苦労しました。人助けをしてこのような仕打ちを受けたは初めてのことでございます」
「すまなかったと思っている。あの時は謝罪する時間がなかったのだ。この場をお借りして……」
「いえいえ。困ったときはお互い様ですからね。お互い細かいことは目を瞑りましょう」
「お互い様……。なぜ、我らの近くに集落を作るのでしょうか?」
村長は背後でイルゼに跪く有力者たちを代表して、今回の集落の真意を確認したいようだ。
(「お互い様」という言葉の意図を分かってくれたか。カラッタ漁村にやってほしいことが間違いなくあるのだからな)
「これから近くにできる集落は大人子供合わせて100人ほどですが、皆さん内陸の出身のようなので、彼らが自立して生活できるよう船の作り方とか魚釣りのやり方を教えて欲しいです」
「……なるほど、それくらいなら。他にはあるのでしょうか?」
「彼らは混血人を抱えており、村として認められておりません。もし、集落の近くに凶悪な魔獣が出たら、守護番なり冒険者ギルドに対応を依頼してください」
「そ、それは代わりに依頼しろとかそういう話でしょうか……」
「もちろん『うちの村の近くに魔獣が出た』と伝えてください」
「そ、そんな!? 我らが守護番を騙せと!!」
「村の近くに出たのは間違いありません。決して騙してはいないでしょう」
ここまで話してようやく村長も村の有力者たちもカラッタ漁村の近くに混血人が集落を作る理由を理解する。
守護番も大神殿も冒険者ギルドも使えない、暗黒界の制度の外にいる混血人の集落を、制度を使えるカラッタ漁村が対応して欲しいようだ。
「こんなこと本当に許されるのか。私が間違っていたのか……」
イルゼは冷や汗をかきながらブツブツとうわ言のように呟く。
「迷惑はなるべく起きないよう努力させます。何卒、引っ越しの挨拶を受け取ってほしい。いかがでしょうか?」
村長は背後にいる有力者たちを1人ずつ確認するようにアレンは見ていく。
暗黒騎士イルゼが経緯を見守りベスペルの片腕を切り落としたアレンに対して自らの意思でハッキリと断る勇気のある者は1人もいないようだ。
タジンが突き出している大ザルに山盛りになった非常食を、村長はとうとう受け取った。
ラバンとカイアの大ザルも背後にいる村の有力者に渡す。
「受け取っていただき、ありがとうございます」
「……いえいえ」
「引っ越しの宴会を開きたいところですが、集落に先客が来ました。イグレ村長は村の人に事情を説明しておいてください。私たちは一度、集落に戻ります。それでは、また」
アレンは引っ越しの挨拶が終わったので集落に戻ると言う。
困惑する村長たちを後目に、アレンは鳥Aの召喚獣に覚醒スキル「帰巣本能」を発動させた。
『植えるデス。植えるデス』
相変わらず、霊A、B、Cの召喚獣が集落を取り囲むように金の豆を植えている。
ある程度植え終わったら、協力を取り付けたカラッタ漁村の周囲にも植える予定だ。
「随分、植えるのだな」
これから集落の代表を務めることになるラバンが聞いてくる。
「はい。先ほどもイグレ村長にお伝えしましたが、あの木は破邪の力がありAランク以下の魔獣を寄せ付けません。まあ、Sランクや亜神級の魔獣相手では効果ないですけど」
「そのようなことが本当に……」
「魔獣が寄らないことをこれからご確認ください。ただ、集落の皆さんはこれから家を建てたり船を作ったりするでしょうが、この木はそのような破邪の力があるので材木として切り倒さないようお伝えください」
「なるほど、分かった」
ラバンが戻ってきたので、混血人の周囲に人が集まってきた。
「おお! でっけえ木に実がなってるぞ!!」
タジンが見上げて大きな声を上げる。
今度は、メルスが浜辺に日陰を作るように、メルスが成長レベル9まで上げた、草Hの召喚獣を植えた。
ジャンプして1つもぎ取って口に運ぶタジンを見ながらラバンもあることに気付いた。
10メートルを遥かに超えて成長した草Hの召喚獣は大木となった。
「この実を先ほどお渡ししたのか」
「そのとおりです。これも周囲の破邪の木同様に貴重な木なのですが、皆さんが漁業をうまくできるようになるまで食料の支援をします」
浜辺の近くに引っ越してきたので、お前たちの仕事は漁業なんだぞと言い聞かせる。
「助かる。結構な実がなっているな」
「1日100個の実を3回実らせることができ、500ヶ月なので40年ちょいくらいですかね」
「な!? そんな木など聞いたことがないぞ!!」
「私のスキルによって作った木ですので。1つで大人1食分の栄養があります。大事に食べてください」
(効果まで伸ばしてくれたらよいのだが)
アレンのスキル「成長」は、召喚獣のステータスを成長させたレベル分だけ上げることができる。
成長レベルでステータスが上がった召喚獣の攻撃系の特技や覚醒スキルの場合は威力が上がる。
だが、草系統の場合は「持続時間」または「効果範囲」を伸ばしてくれる。
草Aの召喚獣の金の豆や銀の豆など「持続時間」と「効果範囲」の両方の効果があるものについては「持続時間」だけ伸ばしてくれる。
召喚獣のランクと成長レベルとの差が大きいほど、成長レベル9にした場合の「持続時間」と「効果範囲」が大きくなる。
【草系統の召喚獣のランクと成長レベル9の場合の効果倍数】
・Sランクの召喚獣は1倍(変化なし)
・Aランクの召喚獣は2倍
・Bランクの召喚獣は5倍
・Cランクの召喚獣は10倍
・Dランクの召喚獣は20倍
・Eランクの召喚獣は50倍
・Fランクの召喚獣は100倍
・Gランクの召喚獣は200倍
・Hランクの召喚獣は500倍
【各種草系統の特技、覚醒スキルと成長レベル9の場合の効果(元の効果)】
・草S:成長レベルと召喚レベルの数値が同じため変化なし
・草A:金の豆の持続時間が2年になる(1年)
・草A:銀の豆の効果範囲が20年になる(10年)
・草B:天の恵みの効果範囲が半径500メートルになる(100メートル)
・草C:香味野菜の効果範囲が半径500メートルになる(50メートル)
・草D:魔力の種の効果範囲が半径1キロメートルになる(50メートル)
・草E:命の葉の効果範囲が半径2・5キロメートルになる(50メートル)
・草F:アロマ、ハーブの効果が100ヶ月間継続する(1ヶ月)
・草G:秋の味覚、旬の味覚の効果範囲が200キロメートルになる(1キロメートル)
・草H:栄養食が毎日100個、500ヶ月間実らせる
元々Hランクの召喚獣であった草Hのため、成長レベル9にしたことで500ヶ月もの間、毎日、栄養食を落とすことになった。
(大木に成長し、1日1回、態々回収する暇はなかったのだが、こういう時に便利だな)
アレンは混血人の集落に、安全を守るための金の豆、食料である栄養食が毎日実る大木を作った。
(皆で大木に実った果物をとろうとしているな。今はそんな場合じゃないんだがって、ようやく来たか)
『お待たせしたのじゃ。まもなく到着するのう』
メルスが召喚して動いてくれていた魚Bの召喚獣が浜辺に戻ってきたのであった。





