第880話 冒険者ギルド②
深くフードを被ったアレンは天の恵みを作るため暗黒界の冒険者ギルドで、魔導書から金貨を入れた魔導袋を出した。
「3週間分お願いします。金貨の枚数が多くなるので白金貨や光金貨でも大丈夫ですか?」
流石に120万枚ほどを金貨のみで払うと確認するだけでも時間が掛かりそうだ。
(さて、もう少しで大神殿にツバメンとホークが到着するからな)
アレンはブラキウス大陸に到着した時に、目的地である大神殿のある方向に向かって鳥Aと鳥Eの召喚獣を飛ばしている。
その時間を有効に入出管理局と冒険者ギルドに立ち寄った。
「もちろんです。たくさんお金をお持ちなのですね……。こちらについても重さで取引させていただきます」
【硬貨の価値比較】
・光金貨:1枚
・白金貨:100枚
・金 貨:10000枚
・銀 貨:1000000枚
(金貨残量が随分減ったな。残ったお金もここの金貨に替えてもらうかな。態々、買い物の度に量りをかけてもらうのも説明もめんどくさいし。あとはサクサク狩れる、魔獣でもいれば、依頼受けておくかな)
アレンは今後のことを考える。
ペロムスに神界での商売を行い、稼いでもらったお金をほとんど使ってしまった。
「間違いございません。確かに頂きました。1週間後以降、1週間分ずつ魔石をお渡しします。なお、契約書にも書かせていただきますが、必ず十分な数の魔石を1週間で用意できるとは確約できません」
その場合は、差し引き分の金貨は返却するか、魔石を集まり次第渡すか判断する旨、契約書には書かれていると受付担当者から説明を受ける。
「分かりました。今後もこの大陸はもちろんのこと、他の大陸でも魔石を募集したいのですが、その場合、他の大陸での募集はそれぞれの冒険者ギルドで行わないといけませんか?」
「そのとおりでございます。ブラキウス大陸の本部となる本ギルドであっても、他の大陸は状況が正確に分かりませんので依頼はできかねます」
(ああ、そうだ。これもお願いしておくか。なんか不穏な忠告を受けてしまったし、冒険者証も手に入れておくか)
冒険者ギルドが大陸ごとに責任者を配置しているためか、大陸を越えて魔石の募集はできないようだ。
素直に聞き入れて、思いついたもう1つの依頼をしてみる。
入出管理局の局長曰く、発行してもらった入出管理証だけではこの大陸にいる者の中には不審に思う人はいるだろうとのことだ。
「ちなみにこの冒険者ギルドで冒険者証の発行などはしておりますか?」
「もちろんです。まだ冒険者証はお持ちではないのですね」
獣人の女性の受付はフードを深く被ったアレンの顔を覗き込むように不審に思いながら尋ねてくる。
これだけの金額を手慣れた感じで募集してきたので既に冒険者だと思ったようだ。
「……」
アレンに任せて背後に立つイルゼにも視線を移して、受付の職員は不審そうな顔をしている。
(随分慣れた感じで依頼していたのに冒険者じゃなかったからな)
「そうなのですよ。他の大陸の冒険者ギルドも回る予定がございますので、念のために発行できませんか」
「なるほど、そういうことなのですね。たしかに冒険者証は他の大陸でも証明になります」
(お? 態々大陸毎に冒険者証を作る必要もないと。それは助かる)
「でしたらぜひ冒険者証の作成をお願いします」
「畏まりました。では、才能は何でしょうか?」
「才能? 才能がないと冒険者にはなれませんか?」
人間界にいたころ冒険者の条件は年齢くらいだった気がする。
「え? 才能のない人など……おりませんが」
「才能がない人がいない……。暗黒界にいる人は全員才能があるってことか。えっと召喚士です」
暗黒界に来て色々常識も制度も違い驚くことが多かったが、今まで言われた中で一番の衝撃であった。
「しょうかんし? あっ! これは……。アレン様の才能でございますね。ちょっと確認してまいりますので少々お待ちください」
首を傾げた後、受付の職員は再度、後方に下がって他の職員とヒソヒソと話している。
大変感じが悪いなと思っていると先ほどから担当している職員がニコッと作り笑いをして戻ってきた。
「申し訳ありません。手続きを進めますが、お時間が掛かります。後ろに行列もできていますので。こちらの個室にいらしてください」
正面一列に並んだカウンターから外れて、こちらにくるようにと誘導を受けた。
たしかに魔石の募集に冒険者登録となると時間がさらに掛かり、背後で待っている獣人4、5名の冒険者が迷惑そうだ。
この後できれば、金貨の換金と、金策のためのSランク魔獣の討伐クエストなんかも相談したい。
だが、注意深くカウンターの先の職員たちを見ると、誘導する受付の職員に相談を受けた職員は他の職員に目配せしながら足早に奥にある上の階に続く階段を駆け上がる。
アレンの期待と職員の不穏な空気が入り混じる。
「分かりました。お時間をとらせて申し訳ありません」
そう言って、一瞬だけ「何か良くないことをしたかもしれない」と謝罪を込めて視線を送るのだが、イルゼは何食わぬ涼しい顔をしていた。
これは前世でもテレビか映画か何かでやってた不審者がやってきたときのお店のマニュアルだ。
他の客に迷惑にならないようお客を個室に誘導していた。
その後、警官がやってくる流れだったような気がする。
想像してもしょうがないので言われるがままにカウンターから離れ、個室に誘導される。
個室に入ると外側から職員により扉は閉められ、暫く3人掛けのソファーにイルゼと並んで座っていると、すぐに誰かがやってきた。
ガチャ
「おう、才能を虚偽する怪しい混血人がやってきたって本当か?」
2メートルをはるかに超える大柄の熊の獣人が天井に頭が当たらないように首を横に曲げ、無理やり個室に入ってくる。
わきの下の隙間から、アレンに対応してくれていた受付の獣人の女性が見える。
拳にはアダマンタイト製の漆黒のナックルが装備されており、毛皮で覆われた手首にも分かるほど血管が浮いている。
「……」
「……ふむ、冒険者ギルド長か」
どうやら、この男がギルド長のようだ。
自らが長となる冒険者ギルドの建物なんだから、建物の天井をもっと高くすればいいのにと思う。
アレンもイルゼも何が起きるのかと様子を見ていると、冒険者ギルド長と言われた男はイルゼを見た後にアレンに視線を移した。
「おい、てめえ。フードを外せ」
「はい」
【名 前】ビヒドウ
【年 齢】48
【種 族】獣人
【職 業】拳獣王
【体 力】11100+14400+6000(魔法具)
【魔 力】10000+14400+6000(魔法具)
【攻撃力】13000+14400+15000(武器)
【耐久力】12000+14400+12000(防具)
【素早さ】13000+14400+4000(魔法具)
【知 力】10000+7200
【幸 運】11000+7200
【攻撃属性】無、クリティカル率30%増、物理ダメージ30%増
【耐久属性】無、回避率50%増
【名 前】ミスリオ
【年 齢】24
【種 族】獣人
【職 業】双剣獣豪
【体 力】1800+600
【魔 力】800
【攻撃力】2200+600
【耐久力】1300
【素早さ】2300+600
【知 力】1100
【幸 運】1000
【攻撃属性】無
【耐久属性】無
※ほぼ装備無し
アレンは冒険者ギルド長と受付の女性を肩に幼雛化させて乗せたクワトロに指示して鑑定させる
(結構なステータスだな。受付の女性は双剣獣豪? ☆2つか。なるほど……。ギルド長は見た目アダマンタイトの装備の割にオリハルコン並に攻撃力や耐久力の効果が高いな。鍛冶職人に結構な効果を付与してもらっているのかな)
冒険者ギルド部長のビヒドウはステータスの鑑定結果から星4つのエクストラモードと分かる。
継いでに鑑定した受付の職員は星2つのノーマルモードのように思える。
さらに、肩に乗せた幼雛化させたクワトロに、この個室に入る前に10人ばかりの冒険者や職員を鑑定させたが、全員なんらかの才能があった。
10人全て才能があり、3人が星3つ、2人が星2つ、5人が星1つであった。
アレンは先ほど、受付の職員から「才能がない者はいない」という言葉に意味を理解しようとする。
(この世界では才能がない者はいないということなのか。なんか引っかかるな。なんか大事な意味があるような気がする。結論を誤ると人間界に戻れないような大事な意味がある気がするぞ)
この分析や思考をアレンは、フードを外した状態で行っていたのだが、余裕に近い表情にギルド長は不快に思ったようだ。
「俺を前にしてそんな落ち着いた態度とはいい度胸だな。混血人よ。ヒヒか……。それとも」
アレンはこのままギルド長に話を続けさせても誤解が解けないと、先ほど貰った入管証を魔導書から出した。
「いえ、申し訳ありません。私のこの見た目で誤解されているようですが、入管証は正規の手続きで発行しており」
「俺の眼はごまかせないぞ! 血が混じれば才能のない奴が出てくんだ!! このまま生きて帰れると思うなよ」
(なんか血の気の多い獣人だな。っていうか、それは人間界の獣人も似たようなもんだけど。っていうか、血が混じると才能がないだと? 混血人は才能がないって言っているのか?)
初めて会った時のシアに対してやたら好戦的な先獣王のムザを思い出す。
混血がどうとか才能がどうとか言っているがとりあえず、ここは暗黒界の最高権力者の一角であるイルゼに場を落ち着かせてもらいたい。
「なんだ? この声はギルド長か? 個室で何か騒いでいるな」
「混血人が冒険者ギルドにやってきたのか?」
「馬鹿な? そんな自殺行為する奴なんていねえだろ。暗黒神様の祝福を得られない混血人なんて、ギルド長にぶっ殺されるぞ」
何やら騒ぎが起きているぞと個室の外で既に騒ぎになってしまっていた。
「……ビヒドウギルド長よ。すまんが何か勘違いしているぞ。この者は混血人ではない」
ソファーから立ち上がったイルゼが場を収めるためにギルド長にアレンについて話そうとした。
「……そうか。イルゼだったかな。最近、混血人なのに暗黒騎士になったのはお前だったか。噂は聞いているぜ」
「何が言いたい?」
「混血の暗黒騎士がなんでこの大陸に足を踏み入れた」
「……私は混血人ではない」
イルゼは腰に差していたアダマンタイト製の漆黒に輝く剣の柄にゆっくりと手を当てた。
(え? なんでそうなるの? 暗黒騎士の絶大なる威光は? っていうか、イルゼは血筋的に人族と魔族の混血人じゃないのか)
「ほう? 暗黒騎士であっても俺の領分で暴れるなら痛い目見せないといけないか。混血人だからな。たいした祝福を得ていないだろう?」
「黙れ!!」
アレンと受付の職員が困惑する中、2人は罵声を浴びせ合い、睨みつける。
「むん! 真・爆砕拳!!」
「ぬん! 真・斬撃!!」
狭い個室の中で吸い込まれるようにお互いがスキルを発動させたのであった。





