第873話 クラシス①
暗黒神アマンテの大広間で、イルゼはクラシスが祖母だとアレンに言う。
(ってことは、イルゼは人間界からやってきたクラシスの孫ってことか。親は魔族と人族だから混血人ってことか?)
「何ジロジロ見ている? 暗黒神アマンテ様の命で一緒に行動するがなれ合うつもりはないぞ」
全く仲間の感じがしない釣り目になってイルゼが不快感を露わにし、強めに睨まれてしまった。
「いえ、人間界でクラシスさんを知っている者と行動を共にしていました。というよりも私の生まれた国の英雄で、私も含めて皆知っています」
「何だと? クラシスばあ様の!? 英雄だと……。そういえば、クラシスばあ様を知る来訪者もいたがそういうことなのか」
(やっぱり孫か。クラシスさんがおばあ様ってことは、イルゼはドベルグさんの孫ってことでもあるのか。イルゼの見た目的に、魔族を超絶嫌っていたドベルグさんが知るとどんな思いになるんだろう。「魔族を根絶やしにする」とか戦闘前に毎度言っていたし)
アレンが共に戦ってきたドベルグのことを考えていた時、イルゼの睨んでいた表情が一気に目を見開き、驚きに変わった。
その変化よりもアレンは必死にクラシスを探すために戦っていたドベルグのことを思う。
イルゼは魔族との混血人のようなので、クラシスは暗黒界で家系を魔族を入れて連ねていったことになる。
『……あとは2人で話しておくれ。アレンよ、確実に生命球を各大陸に届けるのだぞ。寄り道をしたら後悔させるからな』
何時までここで話をしていると言わんばかりに玉座に深く座り込んだアマンテが、退屈そうに呆れながら2人に話しかける。
「は! 大変申し訳ありません!!」
「はい! 全て回収し人間界に戻りたいと思います!!」
それまでに奈落の門の修復を頼みますとアマンテに含みを持たせて返事する。
『長い旅になるだろうよ。イルゼよ、実家に戻って報告するくらいの時間はあるからね』
「お気遣い感謝します。それでは行って参ります」
バタンッ
暗黒神アマンテに2人は頭を下げ、最上層の玉座の広間から出た。
アマンテにどれほどの圧を受けていたのか、広間から出ると、数十万の知力が仕事を再開して、さっきまで経験したあらゆる情報がアレンの頭の中に入ってくる。
(めっちゃ頭が冴えるんだけど。限界までサウナに入ってて出たような気分だ!! っていうか、リオンの全身を手に入れる以外にも欲しい報酬はいくつもあるんだが。って、俺を置いて行くな)
ほかにもメルスなどのSランクの召喚獣の封印された覚醒スキルを解除して欲しいし、交渉したいこともあったのだが、暗黒神はそれを許さなかったと思うことにする。
生命球を各大陸に配れというところで話を切られてしまった。
アレンを振り向くことなく二段飛ばしで階段を足早に降りていくイルゼに、アレンは追いつきながら話しかける。
「実家に帰るって話だっけか。イルゼ、家に戻ったらすぐに各大陸に向かおう。あと俺もクラシスさんに用事があるからな」
道中を旅する仲間になったので、呼び方も自らの一人称も「俺」に変更する。
「き、貴様!? 呼び捨てにしおって! それになんだ、馴れ馴れしいわ!!」
「なんだ。一緒に旅する仲間なのにまずかったか?」
(魔導書にもガッツリ、イルゼのステータスが表示されているかなら。これでイルゼも廃ゲーマーなのか。いや、流石に人間界に連れて行くつもりはないけどな)
【名 前】イルゼ=デーモンブレイカー
【年 齢】20
【加護①】暗黒神(加護大)
【職 業】暗黒騎士
【レベル】99
【体 力】10600+10800(暗黒剣)
【魔 力】7080+5400
【攻撃力】10600+10800
【耐久力】10600+10800
【素早さ】10600+10800
【知 力】7080+5400
【幸 運】7080+5400
【加護②】全ステータス10000、暗黒属性付与、暗黒神の依代
【神 技】暗黒波動〈3〉
【スキル】暗黒騎士〈9〉、真斬撃〈9〉、真渾身斬〈9〉、真居合切〈9〉、真堅巨盾〈9〉、八裂無残〈9〉、無双魔剣〈9〉、六道羅刹〈9〉、暗黒剣〈3〉、神技発動、剣術〈9〉、剣神術〈4〉、瞑想〈4〉
・装備一覧
【武 器】暗黒騎士の剣:攻撃力30000、物理ダメージ50%増、クリティカル率50%増、攻撃力倍化
【防具①】暗黒騎士の鎧:耐久力12000、物理耐性(大)、体力自動回復
【防具②】暗黒騎士の外套:耐久力10000、魔法耐性(大)、回避率50%増
【防具③】暗黒騎士の兜:耐久力8000、デバフ耐性(大)、自己修復
【指輪①】攻撃力5000
【指輪②】攻撃力5000
【腕輪①】攻撃力5000、耐久力5000、クールタイム半減
【腕輪②】攻撃力5000、耐久力5000、魔力1%回復
【首飾り】攻撃力3000
【耳飾り①】体力2000、攻撃ダメージ10%増
【耳飾り②】体力2000、攻撃ダメージ10%増
(剣と鎧はアダマンタイトの見た目と思えない攻撃力と耐久力があるな。そして、レベルもスキルも基本カンストしているし。神技もあるやんけ。魔法具とかは俺がもっているものより弱いな。どんな戦いがあるか分からないが貸しておくか)
色々気になることがあるのだが、イルゼもアレンに大広間で聞けなかった気になることがあったようだ。
「随分詳しいようだがクラシスばあ様のことを知っているのか? 何か出身が同じだとか言っていたが」
「ああ、そうなんだ。聖女クラシスは俺が生まれたラターシュ王国で生まれたんだ。ドベルグさんって知っているか?」
「ドベルグ……。クラシスばあ様の旦那だな。なるほどドベルグさんとも一緒の出身だったか」
「それはクラシスさんに聞いているのか」
「当然だ。私の祖母なのだからな。向こうの世界で既にドベルグさんとの子を妊娠していたと聞いたな」
「ドベルグさんや人間界のことをクラシスさんに伝えたい」
「……そうか、分かった。頭のおかしいことを言うばあ様ではなかったのだな」
イルゼはこれまでの20年間で思うことはたくさんあったようだ。
会話しながらも、コケトリスと鳥Cの召喚獣に乗って山の頂上にある神殿から移動を開始した。
島の中央にある山を降りて、いくつかある大きな街の1つで、ムディナの街を目指した。
もともと薄暗いのに日がもうすぐ沈んで漆黒の闇に包まれそうだ。
高めの外壁に囲まれた大きな街に設けられた複数の門の1つに到着すると、門番が魔獣の夜襲を警戒し、街の外門を閉めようとしたところだった。
イルゼがコケトリスに乗ったまま門番に話しかけた。
「すまないが街に入れてもらえるか?」
「おお! これは暗黒騎士イルゼ様、もちろんです。どうぞお通り下さい!!」
「うむ、感謝する」
時間ギリギリだったようだが、態々門を開いて街に入れてくれるようだ。
ここに来るのは完全な私用なのだが、暗黒騎士の立場を使うことに躊躇いは一切ないようだ。
「こっちだ。ついてこい」
日が既に沈み、人通りが減ったであろう通りを2人は魔獣と召喚獣に乗って移動する。
大通りを抜け、小道に入り外壁近くの街の外れにやってきた。
木とレンガで出来た他の建物に比べても小さな2階建ての一軒家には気持ちばかりの鳥舎がある。
イルゼが黙々と小さな鳥舎にコケトリスを運び入れている。
「すまないが一晩ここにいてくれ、ガルーダ」
『グワッ』
ガルーダと名前の付けたコケトリスが渋々、狭い鳥舎に入ったあと、イルゼはアレンと一緒に玄関に向かう。
玄関窓の奥ではすでに明かりが灯っており、人の気配がした。
「……ただいま」
「失礼します」
玄関を開けると鍋を持った長い白髪を伸ばした、70歳過ぎの人族の痩せ気味で、皺の深い老婆が立っていた。
(お? クラシスさんかな? って、クラシスさんだった)
ずっと肩にとまっている幼雛化したクワトロに鑑定させると聖女の才能を持つ「クラシス=デーモンブレイカー」と表示される。
「あら、私もまだまだ勘が良いわね。今日は帰ってくると思っていたのよ。ちょうとイルゼの好きなパイを焼いたのよ。って、えっ!? って、あのイルゼが男の人連れてきたわ……。どうしよう。挨拶なんてちゃんとできるかしら」
「違います!? 勘違いしないでほしい!!」
青い肌を真っ赤にしてイルゼは老婆の話を否定するのだが、それ以上にクラシスと思われる老婆がイルゼの背後にいるアレンに視線を向けて口を開いた。
「珍しい黒髪だけど……人族ね。また来訪者なの?」
「そうです。人間界から来た人族です。夜分申し訳ありません。クラシスさんですか?」
「そうよ……」
「ラターシュ王国からやって来ましたアレンと言います」
「ま、まあ!? ラターシュ王国から! そうなの! 私もラターシュ王国の出身よ!!」
クラシスは眼を見開き、老齢と思わせないほど肩を震わせて驚く。
アレンは幼少期、鑑定の儀で神官の1人が言った言葉を今でも覚えている。
『聖女クラシス様は平民の生まれです。そして、現在も王国のためにご活躍されている剣聖ドベルグ様は農奴の出身なのです』
フラッシュバックするようにあの頃の神官の言葉が一言一句蘇ってくる。
平民からでも、農奴からでも才能があれば出世して活躍の場があることを伝えるには十分すぎる言葉であった。
出身国であるラターシュ王国では聖女クラシスの名前は、ドベルグと並び英雄の立場にあった。
ここからはアレンがドベルグから聞いた話だが、何でも、クラシスと2人で魔王軍との戦いに参加し、数年が経ったのちにラターシュ王国に戻ったらしい。
それからさらに数年、王国内で王家に仕え魔獣を狩ったりしていたら魔王軍にギアムート帝国が敗れそうで剣聖と聖女であるからもう一度、ギアムート帝国北部の戦場に戻ってほしいという要請を受ける。
そして、魔王軍の根城である砦を攻めたところ、研究員姿のシノロムや目玉の化け物のギイがいて、クラシスを何か訳の分からない魔法で消し去られてしまったと言う。
ラターシュ王国の英雄で行方不明になっており、ドベルグが何十年も捜していたクラシスと会うことになったのであった。





