第872話 世界樹1本分
アレンはアマンテに再度、こちらに来るように言われた。
断る権利もないので、言われるがままに、テクテクと玉座に座り直したアマンテの下に行く。
アレンがアマンテの手が届くところまで来ると、人差し指の先が向かってきた。
ズンッ
「え!?」
アマンテの巨大な爪がアレンの腹に刺さった。
(突き刺されたぞ!? でも痛くないな)
ズッポリと刺さった見た目とは裏腹にアレンに痛みはなかった。
『世界樹2本……3本分か。それ以上だね。とんでもない量の生命を宿しているね。人の身でありながらとんでもない量だよ。私の眼は狂っていなかった。少し……そうね。全てをとるとこれからの戦いや決断に困るだろうから、世界樹1本分が対価と言ったところだね』
(生命か。俺が稼いでいた経験値って生命を数値化したものなんだな。キュベルも大精霊神イースレイも膨大な生命を宿しているって言ったな)
アレンは神界で生命の循環から外れた霊獣たちを狩りまくった。
自らのレベルと創生スキルを上げるためであったが、亜神級などを含めて数千万体と膨大な数の霊獣を狩りつくした。
十分な数の霊石を集めることができたが、レベルは250まで上がったところで止まってしまった。
レベルアップが止まった後も狩り続け、アレンは膨大な量の生命力でもあり経験値でもある、まだ自らのレベルやステータスに置き換わっていない生命の力を内包しているらしい。
それは1本で人間界全体に潤いを与え、恵みを育むことができる世界樹が3本分を超えているのだとか。
この世の理を改めて考えるアレンのお腹に刺さったアマンテの人差し指が抜けると血は一滴も噴き出さない。
(なんか腹から泡が出てきたぞ。この泡が生命の源で俺が蓄えた経験値か)
ポワッ
ポワポワポワポッ
キュベルでの絶望的なやり取りを思い出すが、今何が起きているのか思考を巡らせる。
1つの人の頭ほどの大きさのシャボン玉のような泡の塊5つアレンの周りを浮いている。
煌めいており、生命の泉の水面の輝きそのものだ。
『あんたの体から世界樹1本分を抜かせてもらったよ。それを5つに分けたものが……名前を付けるなら「生命球」にしようか。5つの生命球を5つに分かれたあいつの肢体と交換するが良い』
「するが良い……ですか。もしかしてこの世界の恵みはアクシリオン様の肉体を使っているとかそういう話なのすか」
『話が分かっていいね。神界は理について教えないらしいけどそういうことだ。この世界は100万年前からそれぞれの大陸に撒いたあいつの肢体を恵みの力に換えて魔族たちは暮らしている。まあ、見てもらったら分かるがそれもそろそろ限界なわけよ。頭はここにあるから肢体がない大陸もある』
(お茶の葉の出涸らしみたいな話だな。法の神の体は世界樹の代わりに、暗黒界で恵の力に換えてきたが、それを生命球と変えてほしいって話か。暗黒神にとって等価な条件なのか)
暗黒界を支配するアマンテにとって、世界樹1本分がアクシリオンの体と交換するのは悪い話ではないようだ。
「ありがとうございます。ではアクシリオン様、最後に頭部も聖獣石で吸収させていただきます」
『そうだな……。うむ、任せたぞ』
(なんか、アクシリオンの体を召喚獣にするって話なのにこっちで決めてしまっても反対しないんだな。お互い最上位神だが、主導権はあくまでも暗黒神にあるということか)
『まあ、そう簡単に行かないと思うが、ここで楽しみに待っているよ。それぞれの大神殿の祭壇を守る配下の神々には伝えておこう』
(む? 暗黒界を回って肢体と生命球を交換するのは簡単ではないと? 行けば分かる系の話なのか)
これまでにないほどフワッとした試練だが、圧が半端なくて、あまり細かいことを聞けそうにもない。
とりあえず、各大陸にある大神殿の祭壇を目指そうと思う。
だが、あれこれ細かい話をする前にお願いしておかないといけないことはもう1つあった。
「そうなんですか。確実に生命球を暗黒界の各大陸に届けるためにも、私が死んで召喚獣たちは解放されるのであれば、もう1つお願いがございます」
『ビルディガとオヌバのことかい?』
どうやらアレンの頭を覗いているのか、何が言いたいのか知っているようだ。
「はい。そのとおりです。彼らは私のSランクの召喚獣候補でございます。地上の魔族たちの秩序の復活のためにもぜひ共に人間界に連れて行きたいのです」
(そうそう、人間界に戻る手段も聞いておかないとな。あと秩序の復活って言っているけど向かってくる魔族たちは打ち滅ぼすつもりだけど)
アレンはビルディガを虫Sの召喚獣候補に、オヌバを石Sの召喚獣候補だと考えている。
2体が加わればアレンはさらに力を強化することができる。
『なるほどね。まあ、人の一生なんてそんなに永くはなかろう。生命球の対価を考えれば、それまで手伝わせても良いか』
「お二方にお力を貸していただけると?」
ビルディアが側に控えているのだが話を振られることもなく、アレンと暗黒神の会話は進んでいく。
『すぐには駄目だよ。今は生命球を祭壇に捧げることを集中してくれ。肢体を2つ目、4つ目を獲得した時にそれぞれを召喚獣にしてやろう。私は甘く見ないことだね。途中で諦められても困るからな』
暗黒神はアレンのことを完全に信用しないと言う。
「ありがとうございます。全力をもってあたらせていただきます。それで人間界に戻る方法については……」
『あれもこれもお願いしてくる遠慮のない子だね。たしか奈落の門は壊れたままなんだろ?』
『……む? そうだな。誰も管理していないからこの神殿の地下に朽ちたままあるはずだ』
法の神の頭に暗黒神は話を振る。
『お前たち、破壊された奈落の門が使えるようにしてやりな!』
『は!』
『は!』
ビルディガとオヌバは暗黒神の指示に直ぐに答え、そのままアレンたちを無視して、広間から出ていく。
(おお、トントンと結構うまく話が言ったな。2体は人間界と暗黒界を繋ぐ奈落の門の復旧をしてくれるのか。だったら急いで2体を召喚獣にする必要はないか)
【アクシリオンの5つに分かれた肢体回収クエスト】
・5つの大陸に分かれている肢体を、大神殿の祭壇で生命球と交換で回収する
・2つ目を回収するとビルディガもしくはオヌバのどちらか1体を召喚獣にする
・4つ目を回収するとビルディガもしくはオヌバのどちらか残り1体を召喚獣にする
・5つ目を回収すると最後に頭部と生命球を交換する
【人間界への帰還方法】
・ビルディガとオヌバが人間界と暗黒界を繋ぐ奈落の門を復旧中(可能か未定)
(暗黒神は暗黒界に封印されたって話じゃないのか? いつでも暗黒界から出ていくことは出来たのにしなかったってことか? まあ無の世界に手が伸びるくらいだけど……。いや、今考えることじゃない。今はクエストが進んだんだ。これからどうしていくかしっかり考えねば)
非礼を嫌うアマンテに対して、ここであれこれ疑問をぶつけるのは得策ではないと考える。
暗黒神に対して、まずは生命球を1つでも捧げて、信頼を勝ち取ろうと考える。
まだ何も得ているわけではないが、クエストが発生し、確実にアレンの強化及び人間界への帰還に向けて動き出したような気がする。
「偉大なる暗黒神アマンテ様にはご温情をいただき感謝します。それでは、この世界を回って生命球を捧げ、アクシリオン様の肢体を回収させていただきます」
『ちょっと待ちな。まだ話は終わっていないよ』
「話でございますか?」
『そう。私はお前を信用しているわけではない。また村で暴れるようなことをしてもらっても困るんだよ』
「その節は暗黒界の風習を知らず大変申し訳ありませんでした。以後、暗黒神アマンテ様の愛する魔族たちが困っているなら積極的に救うようにします」
亜神のマーマンのベスペルの腕をもいだことは仕方ないと含みを言葉に持たせた。
『言うわね。それはそうして頂戴よ。ただお目付け役は必要だ。イルゼよ』
「は! 私でございますでしょうか?」
『そうだよ。こいつが変なことをしないように。私との約束を破らないよう見張っててくれ。そして……』
ブワッ
アマンテは言葉の途中でイルゼに向けて手を伸ばした。
漆黒の神力が手のひらに集まり、塊となって移動して、イルゼの全身を包み込む。
「この力は……」
『私の力の一部をくれてやった。私の約束を違えることがあるなら、私の忠誠に従って首を切り落としなさい』
「は! アマンテ様のお心のままに!!」
(肢体集めに監視役がついたのか。だがこれは助かる。この暗黒界で暗黒騎士はとんでもない権力があるらしいし、暗黒界の常識が俺にはないし)
暗黒界のことが分からず、村のしきたりを無視して贄の儀式に割り込み暴れてしまった。
今後、確実にアクシリオンの肢体集めを完遂するためにも、暗黒界で権力も知識もあるイルゼが道中を共にしてくれるのは助かる。
「じゃあ、俺たちは仲間だな。イルゼ、よろしく頼むぞ!」
パンッ
「……慣れ合うつもりはない。調子に乗るなよ」
満面の笑みを零したアレンが伸ばした手のひらをイルゼが不快そうに弾いた。
『……仲良くやるんだよ。魔族たちのために生命球への交換は必要だからね』
「そういうことだぞ。これから道中を共にするんだからな」
「くっ!? この広場を出たら後、どうなるか覚えておれ」
不承であるという表情をしながらもニヤニヤするアレンが再度伸ばした手に握手する。
ブンッ
『イルゼ=デーモンブレイカーが仲間になった』
(デーモンブレイカー……。この珍しい家名に覚えがあるぞ。もしかして……)
「なんだ!? 変な本が突然現れたぞ。これもお前の力か!!」
アレンの仲間になったことで魔導書が見えるようになったイルゼが体を反らせるほど驚く。
だが、アレンは「デーモンブレイカー」というイルゼの家名に見覚えがあった。
その者は、アレンの仲間のクレナたちが、ラターシュ王国の国王の褒美により魔王軍との戦いの功績で男爵家になる際、参考に聞いた家名と同じであった。
「ドベルグさんの子供? 孫なのか?」
「ドベルグ? ああ、クラシスばあ様の夫だな。何故それを知っているのだ?」
「ドベルグを知っていると言うよりも……。もしかして、その口ぶりはこの世界にクラシスさんがいるのか?」
「ああ、そうだが……。アレンよ、突然どうしたと言うのだ」
(イルゼはドベルグさんとクラシスさんの子? 祖母っていっているし、年齢的にも孫ってことか?)
アマンテからのクエストを受け取ったアレンはイルゼと一緒に暗黒界を回ることになった。
イルゼが仲間になった時、魔導書のログを通じて1つの事実を知ることになったのであった。
イルゼ、お前はもしかして……!?
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