第856話 火の化身
ドゴラは仲間たちを逃がすため自らの火の化身になるという会話を側で聞いていたシアが絶叫する。
『な!? 火の化身だと!!』
『……分かっているのか? ドゴラよ、以前にも話したことがあるが化身になれば、もう二度と人に戻れぬのだぞ。力を得るなら相応の代償が必要なのだ』
神と契約し、聖獣や化身になり力をつけた者たちをドゴラはこれまで多く見てきた。
水の神アクアと契約した聖魚マクリス。
大地の神ガイアと契約した土の化身アンドレ
獣神ガルムと契約した聖獣ルバンカ。
彼らは元の人生があったのかもしれないが、人並みならぬ力を得ることと引き換えに失うものはあまりにも大きい代償を求められる。
アレンたちは人間を辞めてしまった彼らを見たが、人としての幸福など微塵も感じられなかった。
火の神フレイヤの使徒になったドゴラがいつからこんなことを考えていたのだろうか。
少なくとも魔王城に挑むとき1つの可能性として考えていたと思えるほど、ドゴラはすんなりと契約を持ちかける。
「問題ねえ。アレンがいなくなった。俺が奴らを食い止める! だから俺を化身にしてくれ!!」
仲間たちを守るため、人を止めると言う。
『絶対にダメだ。そんなことをせずとも我らは脱出できる。そなたが人間を辞めることなど決してないのだぞ!!』
シアの目から涙が溢れるが、ドゴラは魔王たちを睨みつけて一切聞こうとしなかった。
「構わねえ。早くしてくれ」
『……分かった。わらわの使徒ドゴラよ。対価は払われた。そなたを余の眷属にしよう。火の化身となりその業火のごとき思いをもって人々を導くが良い』
ボオッ
ゴオオオオオオオオ!!
『がは!? うぐ……。ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
覚悟をくみ取った火の神フレイヤはドゴラの全身から炎があふれ出す。
武具も神器も全て炎に包まれ、ドゴラの装備も肉体を燃やし尽くしていく。
両腕に握る神器カグツチが炎で包まれ腕と一体になり、神器を炎の手で握りしめた。
『おやおや、仲間たちのために自らを犠牲にするなんて無駄に終わるのに泣けるね。オルドー総司令、クリーパー殿、終劇に向けてよろしく頼むね』
『魔王様に盾突いたことを後悔して死んで行け』
『勝手に指示をするな。だが儂の邪魔になる者は皆殺しだ』
オルドーもクリーパーもキュベルの指示を聞いて、全滅させんと向かってくる。
『承りました。キュベル様』
炎に包まれ、人の面影が無くなったドゴラは、ステータスが上がり加速するようにクリーパーに突っ込んでいく。
『ぐおおおおおおおおおおおお!!』
『ふん、神の眷属ごときが儂に叶うと思ったか!!』
ザバッ
『ドゴラ!!』
袈裟懸けに真っ二つにされたドゴラを見て、シアが大声で叫んだ。
ボオオオッ
2つに裂かれたドゴラの体は1つの炎の塊になるように戻っていく。
『ぐぬ! 斬撃無効か! 儂が神力を込めておりのに! だが、その程度で!!』
『爆炎撃!!』
「く!!」
「私たちもいるわよ!!」
そのままクリーパー目掛けて真っ赤になる神器カグツチで神技「爆炎撃」を発動する。
『ふん、諦めの悪い奴らよ。魔王様は皆殺しをお望みよ』
『よし、我らも奴らを抑える。必ず全員で脱出するのだ!!』
ドゴラの覚悟と変貌に涙を流すシアの檄にセシルたちが動き出した。
アレンがいなくたっても希望を失わなかった仲間たちの決死の撤退戦を続ける。
前衛たちと古代魔法を手に入れたセシルが、引き続きオルドーやクリーパーを抑え、メルルとクレナが魔王城の壁を破壊して脱出する作戦だ。
「もう、もうちょっとで!!」
「うん、みんなで脱出だ!!」
ディグラグニ・オン・タムタムに乗ったメルルは、調停神に跨るクレナと一緒に魔法障壁のかかった魔王城の壁を破壊しようとしている。
魔王城の撤退に注力したこともあり、既に大きな亀裂が無数に空いており外の景色が見えており、あと一押しで脱出が出来そうだ。
『魔王様の前で良いところを見せねば……』
カッ
ルキモネの目がカッと開き、全身の魔力を込め始める。
本体の大半はセシルに地上の要塞戦で破壊され、時空管理システムを守るため、魔力と共に目玉を中心に肉体が損耗したが、今が活躍の場だと確信する。
メキメキッ
「え!? か、壁が!!」
「ええ? もうちょいなのに!?」
メルルとクレナの目の前に絶望が広がり、絶叫する。
あと少しで脱出できるというところで、キュベルと一緒に魔王城の侵入と脱出を拒む魔法障壁を生成し始めた。
時空管理システムの起動するために膨大な情報量の処理と魔力の消費の手間から解放されたルキモネがキュベルと一緒に、アレンの仲間たちを閉じ込めることに集中したようだ。
『ふふふ、まさか。全員逃げられると思っているのかな~。皆殺しの殺戮劇の開幕だよん。ねえ、ほら? こっちでも戦況が決まりそうだ!』
魔法障壁を発動するキュベルが足のつま先でクルクルと回りながら見た先にはオルドーと戦うメルスがいた。
『むん! 天使の分際で我に勝てると思ったか!!』
『がは!?』
パアッ
オルドーの強力な一撃を受け、メルスの体が光る泡へと変わっていく。
メルスはオルドーの攻撃に耐えれるようアレンと体力がつながっていたのだが、転移された結果、特技「一心同体」の効果は切れてしまった。
アレンが死んだわけではないので召喚は維持できていたのだが、無の世界はスキルの効果範囲外となってしまっていたようだ。
「くそ!」
「もうお時間が……」
『あらら、エルフたちの2人もそろそろ限界かもね』
ペクタンに蘇生してもらったソフィーとルークは再度、心臓を片手で抑え震えだす。
本来の姿を失ったとはいえローゼンとファーブルを顕現させておくのも限界のようだ。
「おいおい、精霊神様までいなくなったらもう限界だ……」
キールが仲間たちの回復が追い付かないと絶望する。
「もう、もうちょいなのに何で壊れないんだよ!!」
『諦めてはいけません。必ず脱出をしましょう。メルル!!』
全魔力を込めてメルルがタムタムと声を掛け合っている。
だが、魔王城の壁はほとんど修復して今にも塞ぎ切ってしまいそうだ。
『……おい、メルル。ちょっといいか?』
「え? うん、ディグラグニ」
『脱出させてやる。魔法神イシリス様に会えたら次代のダンジョンマスターはダンジョンコアを渡した奴にしたいとディグラグニが言っていたと伝えてくれないか』
「どういうこと? よく分かんないんだけど」
変形してタムタムの全身を纏うディグラグニの声がメルルのいる駆動室まで響く。
ガコンッ
『全く。魔導コアを爆弾に変えるとはアレンもよく考えたもんだぜ。マネさせてもらうぜ!』
ディグラグニの胸の水晶部分が開き、中から金色のキューブ状の物体であるダンジョンコアが現われた。
ふわりと移動を開始し、一門に集約した魔導砲(極大)の筒の中に砲弾として入っていく。
「ちょっとそれって、そんなことをしたら!!」
『いいんだ。ダンジョンマスターの俺がこの場で死んでもお前がいる。メルルが持っている魔導キューブのダンジョンコアが無事だから問題ねえはずだ。ダンジョンは維持される』
「え? だから? 話がついていけないって!!」
メルルはディグラグニとの戦いの試練において、タムタムの命を与えてもらった。
メルルの魔導キューブはダンジョンコアの一部分を使っていることを魔法神イシリスの神域でディグラグニに教えてもらった。
ディグラグニが魔法神イシリスに魂を与えられたことを誇らしく語っていた。
『魔導砲の魔力装填……。最大出力……』
「話を聞いてって! ディグラグニ!!」
『……ディグラグニの決意を尊重しましょう。メルル』
「タムタムまで!!」
『行くぜ。俺はディグラグニ。魔法神イシリス様に命の与えられた傀儡人形だ! 俺の存在には意味があったのだ!!』
そこに来てオルドーと戦う壁役もこなすリオンに凶悪な斬撃を受ける。
『むん!!』
『がは!?』
パアッ
アレンのパーティーはまた1体強力な召喚獣を失ってしまい、前線が今にも崩壊しそうだ。
戦況が進む中、最後の発射ボタンの責任を自ら全うしようとメルルの目に覚悟が宿る。
「……分かったよ。またディグラグニを造るようイシリス様にお願いするよ。じゃ、行くよ。ディグラグニ、タムタム。クレナとファルネメス様も危ないから少し離れて!!」
『ああ、タムタムとダンジョンのことはよろしく頼むぜ』
『魔導砲(極大)! 発射!!』
ドオオオオオオンッ
「ほう? 神の命を使って壁を破壊したか?」
パキパキッ
魔王は玉座に座ってメルルたちがこれまでの数倍になる強力な魔導砲によって、魔王城に巨大な大穴が空いたことを感心する。
「うう、ディグラグニ……」
『迷宮神降臨の効果は解除されました。ディグラグニ・オン・タムタムはタムタムに戻りました』
メルルが扱うタムタムの操作盤の前にあるスクリーンには赤い文字が表示される。
タムタムを覆う全身のパーツも巨大な砲門も、パキパキッと音を立て金色に輝くディグラグニは砕けて床石に散らばっていく。
床石に散らばったディグラグニの破片は輝くことを止め、あまりにも無機質で生命は全く感じられなかった。
『十分な大きさの穴が空きました。今です。皆さん、脱出を!! 私の背中に乗ってください!!』
「ええ、城の外に出ないと私の転移魔法が発動できないようよ! 皆で急いで脱出よ!!」
後衛たちも体勢を低くくしたタムタムの背に飛び乗っていく。
ハクでも出入りできる巨大な大穴を埋めようとルキモネとキュベルが慌てて魔力を最大にするが、すぐには破壊された外壁は埋まらないようだ。
『ちょっと、感心している場合じゃないですよ。逃げられてしまうよ!!』
『オルドー総司令! クリーパー殿! 絶対に逃がさないで!!』
『ああ、絶対に脱出させぬ!!』
『ふん、貴様らの墓場であることには変わらないのだ』
上位神の2体が逃がさせないとアレンの仲間たちに迫る。
「もうしつこいって!? え?」
『グルッ』
「ハク!!」
タムタムに乗り込む仲間たちと入れ替わるようにハクが魔王城の中に入ってきた。
アレン軍を脱出させたハクはクレナたちを助けるべく、空を飛び魔王城の最上階の窓までやってきた。
『ぐおおおおおおおおおおおおお!!』
『よし、ハク。こいつを吹き飛ばして皆を脱出させるんだ』
ドゴラが大鎌を受けたクリーパーもろとも、強力なブレスを前進するクリーパーに吹きかける。
火の化身となったドゴラは炎のブレスで体力を回復させるが、クリーパーは後方に吹き飛ばされてしまった。
そこへ魔力を練ったセシルが古代魔法を詠唱していた。
『ぐ? なんて威力のブレスだ! だが、これしきのことで!!』
「極性崩壊!! 消し飛びなさい!!」
『げは!?』
「もう1体来たわよ!」
『絶対に逃がさぬ! 魔王様は皆殺しをご所望だ!!』
吹き飛ばされたクリーパーを避けつつ、オルドーが大剣を振り上げ突っ込んでいく。
だが、既にクレナはファルネメスからハクの頭に乗り換えて全魔力を全身に巡らせていた。
「いくよ! ハク!!」
『ギャウ!!』
「竜王貫通牙!!」
『竜王貫通牙!!』
『ぐはああ!?』
今度はオルドーを、クレナとハクの合わせ技の神技「竜王貫通牙」で吹き飛ばす。
これで上位神の2柱を広間のはるか奥まで吹き飛ばすことに成功した。
「今だ。タムタム、出てくれ。ハクとクレナもすぐに出てこい……。って、そんな!?」
「余は油断も容赦もせぬ。誰も逃がさぬ。ダークネスソウル……。皆殺しだ」
玉座に座る魔王ゼルディアスは全魔力をすでに練り、巨大な魔法球を作ったのであった。





