第855話 時空管理システム③
時空管理システムがとうとう魔力100%まで充填してしまった。
アレンは魔力0になり、魔王に首を片手で掴まれてしまって身動きが取れない。
『よし、シノロム所長、ルキモネ君と僕で結界の維持に忙しいから、時空管理システムの起動をお願いね。ゴアラの大穴のはるか火口の先だけど対象範囲として設定できるはずだ』
ルキモネは時空管理システムを守り、キュベルは魔王城にアレンたちが逃げ出さないようにするため、それぞれ魔法による障壁を張るのに忙しいと言う。
「任せるのじゃ。ほほいのほいと!」
シノロムが時空管理システムの前にツカツカと歩みを進めタッチパネルを操作し始めた。
カッ
シノロムがカタカタとタッチパネルを叩くと時空管理システムのキューブ状の物体がキューブの切れ目が解放するように空中に広がった。
キューブ状の物体のパーツたちが均等に散らばった中央には、何もない漆黒の穴が現われ、だんだん大きくなっていく。
『展開範囲の指定を確認しました。転移先に向けて虚空の穴の誘導を開始します。転移対象が確認できません。展開した虚空の穴に対象者は入ってください』
『魔王様、アレン君をこちらの「虚空の穴」に入れてください』
「うむ、いよいよだな」
キュベルに言われて魔王は、魔法障壁の中に入り、足が地面に着かないアレンを連れていく。
(俺を飛ばすだと。魔力が無くても霊力があればグラハンの特技は使えるぞ)
強力な力で首を掴まれてもアレンは剣を振り上げた。
「ソウルセイ……」
「大人しくしていろ。麻痺打拳」
「ぐは!?」
右手でアレンの首を掴む魔王は、空いている左手でアレンの腹目掛けてスキル「麻痺打拳」を叩き込んだ。
『ケケ、アレン様!?』
血反吐を吐くアレンに対して3体の霊Aの召喚獣たちが痺れを解除しようと香味野菜、回復のために天の恵みを使おうとした。
キュベルは回復をこなす霊Aの召喚獣たちの動きを把握していたようだ。
『オルドー軍総司令。邪魔はさせないでね』
『うむ、ダークネスショック!!』
『ヒヒ!?』
『ヒヒ!?』
『ヒヒ!?』
「うわ!?」
「きゃあ!?」
オルドーの大剣による範囲攻撃で、霊Aの召喚獣たちが一気に光る泡になって消えていく。
さらに、ペロムスやロザリナなど後衛たちもオルドーの攻撃範囲に入っており、皆吹き飛ばされてしまった。
「オールヒール!」
キールは必死に後衛たちを回復させる。
「……」
(う、マヒで動けない。随分強力なマヒだ。この一撃を与えるために魔王は俺の耐性を下げまくっていたのか)
ブンッ
魔王は無造作にマヒさせたアレンを、パーツに分かれたキューブ状の時空管理システムの中央に投げ入れた。
『転移者の指定を確認しました。指定の空間への転移が可能です。起動のスイッチを押してください』
この状況に仲間たちも絶句する。
「アレン!?」
「アレンが飛ばされる!?」
『クレナさん、メルルさん。このままでは全員助かりません。魔王城から逃げることに私たちは集中しましょう!!』
アレンは魔法障壁の中にいて、突破して助け出すのは不可能だと暗に伝える。
「でも!?」
『どうやら魔王軍は今回の作戦を達成させるため周到に準備していたようです。完敗のようですね……』
『だが、お前たちまで負けるわけにはいかない。分かるな? 全滅はあってはならない! メルル!!』
ファルネメスとディグラグニが2人を諭し、脱出に注力しようと言う。
『よし、その場から脱出は出来ない。そして、転移先からも絶対に脱出できないし、冥途の土産に何故飛ばされるのか教えてあげてもいいけど? ああ、そうだよね。なんで飛ばされるのか聞きたいよね。気になっちゃうよね』
「ちょっと、アレン!?」
『何だ、どういうことだ? 儂を暗黒界に連れて行ってくれるのではないのか?』
キュベルの対応にセシルの前に立ち塞がるクリーパーが、自らを暗黒神の下へ行けるという話が違うぞと言う。
『ごめんね。今回はアレン君を人間界と暗黒界の間の何もない「無の世界」に飛ばすんだ。これはそのための計画だ。まあ、一緒に話を聞いてくれたな意味が分かるだろうけど、邪魔はさせないよ?』
『……そのために上位神になったオルドーを自軍に引き込んだか。儂を騙したらどうなるか分かっているのか!!』
クリーパーは骸骨の顔で激怒して大鎌を振り上げる。
『もう、そんなに怒らないでよ。騙すつもりはないんだよ。順番の問題なんだ。今回はアレン君にはこの人間界から消えてもらう。それに何もお土産を持たず100万年ぶりにどの面を下げてアマンテ様に会おうとしているのかな?』
『何だと!!』
『アマンテ様は非礼を嫌う。100万年間、人間界でのうのうと生き延びて、エルメアはともかく三姉妹の首を取らずに暗黒界に戻ったら怒りはどれほどのものか……。僕は考えただけで怖いんだけど』
『ぐっ!? だが、これ以上儂を騙したら承知せぬぞ!!』
キュベルの指摘する内容はクリーパーにとって図星であったようだ。
髑髏の顔で歯ぎしりしながらもセシルとの戦いに集中するようだ。
『……アレン君、頑張って霊獣たちを狩ってくれてお疲れ様だったよね。100万年前から続く道に迷った同胞たち数千万体も全て狩りつくしてくれたよね』
(神界のことを知っているのか……。まさか、ここまで魔王軍が行動してこなかったのは、霊獣を狩りつくすことを待っていた? なんのために?)
アレンの中に、魔王軍の行動に1つ疑問に思うことがあった。
なぜ、魔王軍は次の行動に移さないのか検討する余地があった。
魔王軍が神界に攻めてきたタイミングでは、新たに誕生した第一天使ホマルを攫いに来たのかと思ったが、創造神エルメアの加護を持つルプトであった。
全ては時空管理システムの調整を行ったタイミングでルプトを餌にアレンを誘い込む作戦であったなら、魔王軍の行動の辻褄が合ってしまう。
だが、1つ疑問に思うのは、ではなぜ神界で仲間たちが試練を超える中多くの霊獣を狩ってきた。
その時間まで、魔王軍にとって必要なことだったと言いたげなことだ。
全身をマヒし身動きが取れなくなったアレンの思考にキュベルの回答が続いていく。
『僕は君を殺すわけにはいけないんだ。なぜなら、君を今殺すとアレン君の中に蓄えられた全ての命が、生命の循環に帰ることになる。巡り巡って、全ては神々の神力の向上に繋がるんだ。神界を侵攻する予定の僕ら魔王軍はそんなことできないよね』
(経験値とは……。命の価値の話なのか)
創生のスキルレベルアップのためにスキル経験値を稼いでいたアレンは命と経験値の関係を知る。
『君は殺せない。だけど、これからの僕らの目的の邪魔をさせるわけにはいかない。絶対に脱出不可能な檻を無の空間に作ったから、そこに君を生きたまま閉じ込めることにしたんだよ』
(空間を作る? ブレマンダとかいう監獄長はそのために? 全ては計画通りってことか)
『ああ、死んでくれても構わないよ。生きたまま送るのは君に対する恩上だと思ってくれ。無の世界で君が死んでも生命の循環には入らない。君は知らないかもしれないけど、君の中には人間界を3回まるっと癒すほどの命が眠っているんだよ。そうだね、世界樹3本分はあると思うよ。本当に無駄な努力お疲れ様だったよ』
「……3本」
大精霊神イースレイについ先日聞いた「世界樹3本分」という言葉をキュベルに言われ、アレンはほんのわずかに瞼を動かし反応を見せた
『おや、この言葉、もしかして誰かに聞いていたのかな? 誰だろう。ローゼン君かな。それとも……』
アレンを転移する必要があることを説明するキュベルの話を一緒に聞いていたクリーパーが口を開く。
『……なるほど、生命の循環か。「破壊神」対策と言うわけだな? キュプラスよ』
『そのとおり、クリーパー殿。このままアレン君を倒せば、「奴」は必ず目覚めることになる。流石に今の僕たちじゃ対処のしようがないからね』
『……ここまで手伝ったのだ。次は儂だぞ。儂はアマンテ様の下へ帰らねばならぬ』
『それはもちろん約束は……』
「おい、転移の準備が整ったのだろう。いい加減にせよ。余は計画の確実な履行を望むぞ」
これ以上の会話は不要だと魔王がキュベルとクリーパーの会話に入り、全ての予定が上手くいったと悦に浸るキュベルを制する。
『これは申し訳ありません。シノロム所長、転移させてくれ』
「ひひ、では転移を。ポチっとな」
『目標座標に向けて対象者の転移を開始します』
「アレン!?」
「てめら、邪魔すんじゃねえ!!」
セシルとドゴラが絶叫するが、圧倒的な力を持つクリーパーとオルドーの2柱の上位神が立ち塞がって転移を止めることはできない。
カッ
ギュイイイイイン
その間にアレンの転移が終了し、時空の闇の中に消えてしまった。
『よしよし、全ては計画どおりだ』
「うむ、随分時間をかけたがな。さて……」
アレンの仲間たちが絶望する中、戦闘が一時中断してしまった。
オルドーたちもアレンの仲間たちも魔王はゆっくりと階段を上がり自らの玉座に戻っていく様子を見つめる。
『もちろんです。計画通りアレンは無の世界に飛ばした。残りは……』
「全て排除せよ。余の前に立ち塞がったことを後悔させてな。皆殺しだ。誰1人この場から逃がすなよ。神々の手先となって立ち向かったことを後悔させよ」
『は! 魔王様! 神の力を得た者たちなど我らの邪魔でしかありません』
魔王軍総司令のオルドーが魔王に頭を下げて広間に響くように答える。
『ふふ、ここからが本当の地獄だよ』
仮面の下で笑みを零すキュベルが仲間たちをゆっくりと見つめる。
「全員ぶっ倒してやる! これで終わると思うなよ!!」
「ああ、私たちが簡単にやられると思わないことね!!」
「そうだよ。アレンならきっと戻ってきてくれるから!!」
リーダーであったアレンがいなくなってもルーク、ロザリナ、クレナに戦意の低下は見られない。
戦意を口にする仲間たちの中で、前線で戦うドゴラの表情に、キールは違和感を覚える。
「ん? ドゴラ?」
誰よりもこんな状況で熱くなる性格のドゴラが静かな、それでいて覚悟のある表情で神器カグツチに向かって話しかける。
「……フレイヤ。今の状況は見えるか?」
『ああ、よく分からない障壁があるゆえ。あまり見えないが分かるぞ。厳しい状況だが、どうしたのだ、ドゴラよ』
「……アレンがどっか飛ばされてしまった。みんなを無事にここから脱出させないといけねえ」
『そうだな。だが、これ以上の神力を与えるのは……』
「対価を払う。だから俺を『火の化身』にしてくれ。それで強くなれるんだろ?」
仲間たちを守るためドゴラが覚悟を口にするのであった。





