スリンとカンディ
リィナが部屋を出ていくと、スリンはカンディのもとに急いだ。
靴の音がコツコツと静かな廊下にこだまする。カンディがいる部屋の前でスリンは一度立ち止まってから扉をたたいた。
「はい」
カンディの声がしてスリンの心臓は跳ね上がった。
「カンディ?」
スリンの呼び声にカンディは寝台の中から返事をした。
「はい、大丈夫ですよ」
その穏やかな笑みは到底自らの自由を奪われた人とは思えなかった。
「陛下、わたくしなどに気を使わないでください」
少し寂しげにカンディは笑った。
「動けないものなど放っておけばよろしいのです。ただでさえお忙しい御身なのですから」
「あなたのことを気にするもしないもわたくしの自由だわ。
ねえカンディ、医術師はなんて言ってらして?」
「うまくいけば体を起こすことくらいはできるでしょうと。
ただ、歩くのは……」
「そうなの……」
スリンは少し寂しげだった。
「ねえ、カンディ。わたくしの宰相となって」
急な発言にカンディは驚いた。
「なにをおっしゃるのです」
「わたくしの宰相となってください。お願いいたします」
「スリン様」
カンディは子供をなだめるときのような口調をした。
「スリン様、どうぞお怒りにならないでおききください。
わたくしは今、城内では急病でふせっていることとなっております。近いうちに、わたくしは自身の存在を城内から抹殺するつもりです。
これは、そうしたほうが相手の油断を誘えると思ったからです。ですが、相手方に知られてしまった以上、わたくしはせめて自らの居場所をしられてはならないのです。
もし、わたくしの存在が公になれば、わたくしはまた命を狙われるでしょう。わたくしは命が惜しいなどと今更申し上げるつもりは毛頭ございませんが、わたくしが死んだのち、スリン様に降りかかる恐怖を考えると恐ろしゅうございます。
スリン様、どうぞわたくしのほかの方をお考えください。
……ただし、どうしてもスリン様に助言が必要と思われるのならば、わたくしはいつでもお相手いたしましょう」
「ありがとう、いつでも、訪ねていきます」
「もったいなきお言葉、ありがたく存じ上げます、スリン様」




