心機一転の握手
サリシュに、一緒に冒険者として行動しないかと誘われたマリーシェ。
心中ではまんざらでもないのだが、その理由が気になり、二人はその事で意見を交わす。
そこで、サリシュの考えが披露されるのだが。
サリシュの真面目な顔をした評価に、マリーシェは思わず顔をほんのりと赤らめ固まり、次の言葉を発する事が出来ずにいたのだった。
誰でもない、サリシュに褒められるというのが、特にマリーシェの動揺を誘っていたのだが。
「……デンテは、感情的になり過ぎる。……こっちの指示にいちいち反論して来るやろうし、勝手な行動を取るかも知れへん」
頬を染めて呆気に取られているマリーシェを横目に、サリシュは淡々と説明を始めた。それは、元メンバーたちのサリシュから見た、忌憚のない批評だった。
「……カナヴィは、戦士としては気が弱過ぎる。……いちいち指示せんと動かれへんし、戦士としての能力も平均以下って考えたら、前衛を彼に頼るんは不安が拭われへん」
ただしそれはかなりの毒であり、下手をすれば悪口に聞こえなくも無かった。それを耳にして、マリーシェも惚けていられる場合ではなくなったのだった。
もっともその内容は、マリーシェも聞く限り意に同ずるところであり、反論も否定もしなかったのだが。
「カメリアは、ちょっと向上心に欠けるというか……ね。使える魔法の種類が少ないのは仕方がないけど、その使い方も適しているとは言い難し……。と言うか彼女、魔法をぶっ放すのが魔法使いの役割って考えてるのよねぇ」
サリシュだけに、悪口とも取られ兼ねない話をさせる訳にはいかないと考えたのだろう、マリーシェはサリシュの台詞を横取りして口にした。そしてその内容はサリシュも考えていた通りだったようで、深く頷いて賛同していた。
「……魔法使いは後衛やからな。……魔法だけ使うとったらええって話や無いって、ウチは思うてる。……そういう意味では、カメリアも論外や」
カメリアと同じ魔法使いだが、少し毛色の違うサリシュは自分の考えを披露した。
それが理想論だけならば、彼女にカメリアを批難する資格は無いと言えるのだが、サリシュは戦闘の場でも魔法を使う以外の役割を果たしていた。
それに照らし合わせれば、確かにカメリアの能力は低いと言えるし、マリーシェもその判断を否定しなかった。
「……キッソスは、ウチの心情的に無理やしな」
「……その話しぶりだと、私はまだマシって認識されているって事なのかしら?」
サリシュの話では、これまでパーティを組んできた面々は悉く認められないとなっている。そんな中で、マリーシェはサリシュから直々に誘われたのだ。彼女がサリシュに認められていると考えても間違いではないだろう。
「……まぁ、そういう事やわな。……あんたとやったら、この後もやって行けるんちゃうかぁって思たんや」
どこか茶化す様な風情で話した内容だったが、殊の外真摯な答えが返って来て、思わずマリーシェはまた赤面してしまった。
「へ……へぇ、奇遇ね。実は私も、ここを出たらあんたに声を掛けようと考えていたのよ」
正直な思いをぶつけられれば、マリーシェとて素直になる。彼女はサリシュへ、自分の本音を話して見せたのだった。
「……ふうん、そうやったんやな。……なら、話は早いな」
一方のサリシュはと言えば、マリーシェの台詞を聞いても、表情には何の変化も表さなかった。元より感情の起伏が少ない彼女は、多少気恥ずかしい言葉を聞いても、動揺を顔に出すような事はしなかったのだ。
「でも、私とあんたの2人だと、これから活動するには人手不足じゃない?」
サリシュが、デンテ達を誘わずマリーシェに声を掛けた理由は理解出来たが、人手を削る理由までも納得出来なかった。彼女はサリシュへ、遠回しにデンテ達も誘えば良かったのではと問い掛けた。
マリーシェの考えでは、カナヴィやカメリアは兎も角として、デンテくらいは残していても良かったのではと思ったのだ。……しかし。
「……だから、ウチは実益を優先したってゆぅてるやん」
「……なるほど、報酬の取り分の話ね」
サリシュの一言で、マリーシェもその考えを把握出来たのだった。
これまでのパーティ「獅子の牙」の構成員数は全員で7人。この人数は、パーティ編成という点で考えても、やや多い部類に入る。
依頼内容で増減する事はあるだろうが、駆け出し新人冒険者のパーティでは多いと言えるだろう。
人数が増えれば、必ずとは言えないまでも、魔物退治などでは安全性が上がる。失せ物探しや農家の手伝い、採集などでは、手分けして行えるので効率も上がる。
一見すれば利点が目につくのだが、実際は不利益の方が多い。
その理由の1つは、何と言ってもランクの低さだろう。
ランクが低い状態では、どれだけクエストを精力的に行っても、大金を得る事は難しい。労多くして功少なしと言う訳だ。
それでもランクやレベルが低い状態ならば、その全てが経験となる。金銭に代え難い体験を実践出来るのだから、本当ならば前向きに取り組んで然るべきだろう。
だが現実として、パーティメンバーが多いという事は、依頼の報酬に対する分配金が少なくなる。下手をすれば、その日の宿代食事代にも困窮する事になるのだ。
「……そや。……仲良しこよしも悪くないけど、それやといつまでたっても装備の充実なんて望めへん。……魔法書も買われへんし、旨いもんも食われへんしなぁ」
「……ぷっ! ここで食べ物の話になるとは思わなかったけど……確かに、活動資金には苦労したわねぇ」
実際マリーシェ達の毎日は、常に倹約節約我慢の連続だった。武器や防具が痛んでも新しい物は買えず、自分で手入れをするか、損傷の酷いものでも修理で我慢してきたのだ。
「でも、2人でとなると、更に効率が悪くなるんじゃない? 今よりもっと、苦労して貧乏になるかもよ?」
サリシュの言う通り、クエストクリア報酬の分配は、人数が少ないほど取り分は多くなる。ここだけを聞けば旨味があるのだが、そもそも完遂出来なければ絵に描いた餅なのだ。
「……大丈夫や。……これまでクエスト内容を吟味してきたけど、ウチとあんたの2人やったら、十分に遂行する事が出来るはずや」
サリシュの抜け目ないところは、普段の依頼をこなしながら、様々な可能性や手段手法を考えているところだ。こういった部分も、同じ魔法使いだったがカメリアとは大きく違うところでもある。
「あんたが言うなら問題ないでしょうね。じゃあ、ランクは銀石級を目指すの?」
マリーシェもサリシュも、既にレベルは5となっている。決して高いとは言えないが、ずぶの素人と言うほどに無知でも無能でもない。
このまま銅石級に留まるよりも1つ上の銀石級になれば、得られる報酬も多くなり、分配した時の金額も増えるのだから、マリーシェがそこを気にするのも当然だろう。
「……いや、ここは銅石級で続けていく。……どのみちパーティは新しくなるんやから、ランクも最初からになるしなぁ」
これまでのパーティ「獅子の牙」は、すでにキッソスが解散手続きをしているはずである。解散したパーティの功績を引き継ぐ事は出来ず、一から積み上げる事になるのは間違いではない。
だがマリーシェ達には、これまでの経験がある。その気になれば2人であっても、銀石級になる事はそれほど難しい話では無かったのだ。
「そうなの? でもそれじゃあ、あんたの言う実益が少なくなっちゃうんじゃないの?」
サリシュの提案を聞いて、マリーシェがこう考えるのもおかしな話ではないのだが。
「……問題あらへん。……これまでは7等分してた報酬が、これからは2等分になるんやで? ……報酬は十分に増えるし、これまでよりも余裕のある生活が送れるはずや」
無論、そんなマリーシェの疑問は、サリシュにとっては織り込み済みであり、彼女は淀みなく返答した。
「……当面は、これまでと同じような依頼をこなして行く。……理想で言えば、あと1つくらいレベルが上がるまでは、銅石級でやって行きたいところやなぁ。……準備が整ったら、銀石級に上がってもええんちゃうかぁ」
更に彼女は、これからの展望も披露して見せたのだ。そこまで考えていなかったマリーシェは、呆れると共に感心して声を失っていた。
「……はぁ、大したものね。……分かったわ、正式に組みましょう」
明確に先行きを考え、しかも臨機応変に対応し修正も出来る。サリシュがそういう性格なのをマリーシェも心得ており、彼女が口にした内容に反論は出なかった。
ただ1つ、懸念している事があり。
「でも、ずぅっと2人でやって行くって訳じゃないでしょう? 新しい仲間はどうするの?」
もうすでに、マリーシェの中でもかつての仲間を誘うという選択肢は無かった。これだけを見ても、マリーシェも良い性格をしているのかも知れない。
「……まぁ、それはそれこそ、成り行きで考えたらええんちゃうかなぁ?」
そしてサリシュは答えを、この件に関しては明確に持ち合わせていなかったのだった。もっともそれは当然で、出会いなどは望んで、選んで行える訳でもない。
それを考えれば、今の時点で深く考えてもあまり意味は無いのだ。
「……了解よ。それじゃあ改めて、これからもよろしくね」
「……宜しゅう頼みますぅ」
ややぎこちなく挨拶を交わした2人は、どこか照れたように頬を赤らめ、それでも自然と握手を交わしていたのだった。
双方の意見は合致し、これから一緒に行動をす事にしたマリーシェとサリシュ。
笑顔で握手を交わした2人には、現時点で懸念するような問題点は思いつかなかった。
サリシュの考え通りならば、2人で冒険者活動をしても利が上回る成果が期待できるのだが、果たして……。




