ウチと一緒にやらへん?
軽い口調でマリーシェとサリシュを誘ったキッソスだったが、けんもほろろな態度を返され、逃げるように退散した。
不審な目を向けていた2人だったが、その場に残され、今後の事について会話を始めたのだった。
賑やかさを増してきた食堂に残されたのは、マリーシェとサリシュの2人となった。
先ほどまでは6人だったので大テーブルを占領していたが、今は2人だけとなっており、後から入って来た大人数のグループからは、やや非難の目を向けられている。
それでもこの2人は、そんな事を気にしている様子はない。
「……それで? あんたはどうすんのよ?」
ブスっとした表情でテーブルに頬杖をついていたマリーシェが、その重い口を開いて対面するサリシュに問い掛けた。
つい先ほど解散してしまったパーティ「獅子の牙」の件、そしてその後のキッソスとの会話で、マリーシェの機嫌はすこぶる悪かった。
「……そんなん、あんたにゆわなあかんのん?」
そして、サリシュの方も機嫌は最悪だったのだろう、マリーシェに応える声も言葉も、これまで苦楽を共にしてきた仲間にするものでは無かった。
この2人も、ここまで艱難辛苦を分かち合ってきた経緯がある。仲が良いとは言わないまでも、不仲である筈もなかった。
それでもこの時の2人を見れば、事情を知らない者は喧嘩をしているのではと思ったに違いない。
「あ……あんたはまたそんな……っ! ……ふうぅ、まぁ良いわ」
まるで最初の出会いの様な掛け合いだったのだが、今回は早々にマリーシェが折れたようだ。ここで我慢して話を進められる程度には、2人の関係は進展しており、マリーシェも成長したのだろう。
「……せやな。……とりあえずは、今後の事なんやけど」
そしてサリシュの方も、マリーシェに突っ掛かり続けるような愚は犯さなかったようだ。
「……あんた、ウチと一緒にやれへん?」
「……へ?」
そんな彼女は、そのままマリーシェに誘いの言葉を掛けたのだった。常時の声音に戻り、いつも通りの口調で、普段ではありえない問い掛けを向けられて、マリーシェは自分でも変だと思う声を上げて止まってしまったのだった。
「……別に、あんたが嫌やぁゆうんやったら、この話はこれまで……」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょおっっと待ってよぉっ!」
固まってしまったマリーシェからすぐに返答が無かった事で、サリシュはこの話を切り上げようとし、その台詞を聞いたマリーシェがすぐさま再起動をし待ったをかけた。
「あんたねぇ、ちょっとは考える時間くらい作りなさいよ!」
そしてそのまま、不満をぶつける。とは言えそれはきつい言い様ではなく、どこか呆れた物言いだったのだが。
「……ああ、ごめんごめん。……返事せぇへんから、嫌なんかと思ったわ」
やや御冠なマリーシェの風情を感じ取ったのか、サリシュは即座に謝罪した。冗談味を含んではいるが、決して揶揄ったものでは無い。
「……それで? なんで今、私を誘うのかなぁ? あんたがそう考えてるんなら、さっき提案すれば良かったじゃん。……それじゃあまるで」
「……キッソスとおんなじに見えるって? ……まぁ、そう思われてもしゃあないんやけど」
体勢を立て直したマリーシェが、真剣にサリシュの提案について答えを口にすると、彼女の意図を正確に読み取ったサリシュが説明を開始した。
マリーシェの言う通り、このタイミングで新たなパーティを提案するのなら、デンテ達がいる時に話しても問題ないと考えるのが普通だろう。
「……理由は幾つかあるけど、ウチは実益を優先しただけや。……別に、何か企んでるゆぅ訳や無い」
「……プッ。ちょっと、なによそれ。それじゃあまるで、キッソスが何か企んでたって言ってるみたいじゃない」
サリシュの説明の冒頭を聞いて、マリーシェは思わず吹き出していた。サリシュの言い様では、キッソスには裏があり、まるでマリーシェとサリシュを罠に嵌めようと考えている風に聞こえるからだ。
「……証拠はあらへん。……でもウチは、あいつは何か企んでるぅ思うとる」
「それって、あんたの思い込みじゃないの?」
「……この場合、別にウチが思い込んでても問題あらへん。……ウチはあいつを信用でけへんって思ったし、その感情にいちいち証拠なんて必要ないからなぁ」
「まぁ……確かにそうだけど」
マリーシェは冗談だと少しは考えたようだが、サリシュは静かに、冷静に、そして真剣にマリーシェへと返答した。そしてそれを聞いてマリーシェも、最終的には納得して見せたのだった。……その理由は。
「……あんたも、キッソスはどっか信用でけへんって思てたんとちゃうん?」
まさしく、サリシュの指摘通りだった。
マリーシェは軽いノリで笑い飛ばしたかったのだろうが、彼女が心底で危惧していた事を、サリシュは見事に見抜いて見せたのだ。
「……まぁ、ね。色々と、引っ掛かるところが多過ぎるのよねぇ」
「……例えば?」
「解散の切っ掛けになったのは言うまでもなく、この間の戦闘でキッソスが〝大ファルクス〟を引っ張って来ちゃった事なんだけど、まずアレがおかしいと言えばおかしいのよね」
サリシュに促されて、マリーシェが自分の思いを話し出した。本当は誰にも話すつもりも無かったのだが、サリシュも同様な気持ちを抱いていると知れば話は別だ。
「これまでにも、何度も〝釣り役〟をお願いしてきたけど、失敗した事が無かったでしょ? 誤って複数連れてきちゃうって言うなら分かるけど、ファルクスじゃなくて大ファルクスを引っ張って来たってのが引っ掛かるのよ。外見的な特徴で、私でも違いが分かるもの」
「……そうやなぁ。……あんたでも分かるくらいやもんなぁ」
「……あれ? 喧嘩売ってるの?」
「……べっつにぃ」
マリーシェのここまでの考えを聞いて、サリシュは内心では同意しながらもチャチャを入れる。それにマリーシェも、軽いノリで対応した。
話の内容が人を批判しているもので、下手をすればどんどんと仄暗い想いへ引っ張られかねない。そういった意味でサリシュの合いの手は、マリーシェには有難かった側面がある。
「結果として、それでニックスは大怪我をして、結局冒険者を辞めちゃった訳だけど……その後も、特に責任を感じてる風には見えなかったのよねぇ」
「……そうやなぁ。……あんな結果になったんやったら、ウチでも責任感じるわ」
「へぇ……あんたも責任を感じる事ってあるのねぇ」
「……あんたもゆぅなぁ」
時折、軽い言い合いをしながらも、双方で話の邪魔をするような事はしなかった。そして、ここまでのマリーシェの意見に一致を見たのか、次はサリシュが口を開いた。
「……パーティ解散の危機にも、率先して現状の回復に動こうとせんかった。……ウチらを余所のパーティに誘ったってのも軽薄に見えるけど、何よりもすでに話がついてるって言い方が、ウチには気に食わんかったなぁ」
「……そうね」
人間、全く失敗しない様に生きるのは不可能だろう。誰しも、失態を繰り返して成長してゆくと言っても過言ではないからだ。
だが今回のキッソスの動きようは、怪しい、信用に値しない、裏があると考えられても仕方のない節があったのだ。
「……で? なんで、デンテ達は誘わなかったの?」
「……ウチは、あのパーティのリーダーなんかやる気あらへんかった。……だから、『獅子の牙』が解散するんは止められんかった。……その上で、新しく誘うんやったら、実力があって信用出来るもんやないと意味ないと思わへんか?」
サリシュは、そしてマリーシェも、デンテ達を嫌ってはいない。それどころか、好ましく思っていたのに間違いはない。
しかし、人としてどう思っているのかと、その実力を冷静に判断する事は別の話だ。
そしてサリシュは、デンテやカナヴィ、そしてカメリアは実力や将来性で期待出来ないと判断したのだった。
「……あら? その言い方だと、私はあんたのお眼鏡に適ったって受け取れるんだけど?」
「……そうゆうてるんやから、問題無いでぇ」
先ほどまで仲間だった者たちの実力を悪く言うのも、気持ちの良いものとは言い難い。だからだろうか、マリーシェはサリシュの言葉尻を捉えてお道化て見せたのだが、当のサリシュは真面目な顔で肯定した。
「ちょ……っ」
そんな真っすぐな言葉を向けられる事に不慣れなマリーシェは、思わず二の句を告げられずに、顔を赤らめて固まってしまったのだった。
マリーシェの抱いていた疑念は、サリシュの考えていた疑惑と同一のものだった。
その上で2人は、サリシュの提案についてきわめて冷静を務めて検討を続けた。




