第四話-16
「綺麗だったな」
「うん、本当に」
花火が終わり、空が静けさを取り戻したところで、俺たちは短く感想を述べた。あの絢爛な花火の後には、どんな言葉も蛇足のような気がしたのだ。
「梨花も、楽しめた?」
「楽しかった!」
無邪気な妹モードの梨花、可愛い。
対してやたら静かな相沢夫妻に視線を向けると、相沢夫妻が相沢夫妻していた。花火で雰囲気が良くなったとかそんなところかこれ。どうしようもないし、もう放っておくことにした。
そんなことより、俺たちは腹が減っている。
「今のうちに、飯済ませておくか」
「そうだね。……あっ」
そこで俺は、ようやく思い出した。
なぜ俺が、今まで梨花を片腕で膝の上にホールドしていたのかを。
「手、繋いだままだったね」
「そ、そうだな……すまん」
「……? なんで謝るの?」
「さすがにずっと繋ぎっぱなしなのは、嫌だったかなって」
すると御影は、ぐっとこちらに身を乗り出して近い顔が良すぎるまつ毛長いしあとなんかいい匂いするというかぶつかりそうキャパオーバー!
「あっちょっとなんで逃げるの」
「いや逃げるってこれは!」
「わたしとずっと手を繋いでるの、東宮くんは嫌だった?」
「そういうことではなくてですね!」
「お兄ちゃんうるさい」
「そうは言われましても!?」
まったく心臓に悪い、御影ってたまに急に大胆になるときあるよなあ……。正直、俺には可愛すぎて耐えきれない。理性が心もとなすぎる。
その後手を離して三人で肉と魚を食べたけど、俺は味なんてさっぱり分からなかった。
食べるものを食べたあとも少し神社の周りを歩いたが、もういい時間なので、電車で帰る御影に合わせて解散することにした。
花火が終わったあとの祭りの会場は、圧死しなかったのが不思議なほどの人混みは嘘のように消え、やや人通りの多い商店街みたいな状況だ。おかげでするすると何の問題もなく、鈴森神社駅まで戻ることができた。
ちなみに梨花は俺の背中で寝ている。大天使の梨花は基本的に睡眠を必要としないが、週に一度、土曜日の八時に電池が切れるのだ。こうなると翌朝八時まで起きることはない。貴重な梨花の寝顔である。可愛い。
今日は少しだけ消灯が早かった気もするが、なんだかんだこの数日俺に付き合って遊んでいたので、普段よりエネルギーの消耗が激しかったのかもしれない。
「ぐっすりだね、梨花ちゃん」
俺の左隣を歩く御影が、指先で梨花の頬をつついた。柔らかい低反発な感触が伝わったことだろう。
ちなみに相沢夫妻は先に別れた。いちゃついていたので神社の鳥居をくぐったところで置いてきたのだ。あいつらはどうせ、この後どっちかの家に泊まって二次会(意味深の可能性)でもすると見た。付き合いきれん、と離れた次第だ。
なので結局、最後は実質的に、俺と御影の二人きりになってしまった形だ。よく覚えていないけど、多分アリスでデートしたときも、こんな風に駅まで見送りに行ったはず。行ったよな? 自分の行動に自信が持てなくなってきたな。
「今日は、ありがとう」
改札の手前で、御影が俺に振り返って言った。
「大変だったけど、楽しかった」
「俺じゃなくて、相沢とか小西とかに言ってくれ。企画したのはあいつらだから」
「そうだね、結衣ちゃんにも後で言っておくよ。でも楽しめたのは、東宮くんのおかげだから。それも分かってほしいかな」
「そうか、なら相沢と小西の口車に乗った甲斐があったな」
梨花も実はそこそこ楽しんでいたみたいだ。連れてきて良かった。
駅のアナウンスを聞いた御影が、ぴくりと反応した。
「あっ、もうすぐ電車が来るみたい。もう行くね」
「ああ、気を付けてな」
「うん、ありがとう」
御影が背中を向けて改札に歩き出す。俺は動かない。電車に乗らないから。だけど一度だけ、御影がこちらに振り返って言った。
「また学校でね、双矢くん」
……え。
「凛!」
再び前に向き直った御影が肩を跳ねさせた。
「その……」
あれ、俺どうして呼び止めたんだろう。何か、言わないと。
「また、学校で」
俺は、何を言いたかったのだろう。もうぐちゃぐちゃだ、俺の脳内は。
御影の顔はもう見えなかったけど、普段は隠れて後ろから見えない耳が、ほんのりと赤くなっているような気がしたのは、さすがに気のせいだろうか。
まあ、俺も人のことは言えないか。
これを予約設定したのは五月の連休中なので、先のことは分からないんですが、理想はこのまま続けて、ですね。ということで第一部でした。よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。




